講演タイトル:Words as metaphors: Some insights into language from Thomas Aquinas, John Duns Scotus, Gottlob Frege, and contemporary research on metaphor(メタファーとしての言葉:トマス、スコトゥス、フレーゲ、そして現代のメタファー研究からの言語への洞察)
講師:Nicholas Lombardo(ノートルダム大学)
日時:2024年10月22日(火)16:30-18:00
場所:三田キャンパス南校舎446教室
主催:三田哲学会
参加条件:なし、参加登録不要
連絡先:文学部、上枝美典(ueeda@keio.jp)
概要:
過去半世紀の間に、メタファーに対する関心が爆発的に高まり、その結果、メタファーを中心とした学際的な新しい研究分野が出現した。この新しい研究分野は、メタファーは単なる文学的装飾ではなく、言語が機能する方法、さらには私たちの思考方法にとって基本的なものであるという、シンプルだが深遠な考えを中心にまとまっている。この講演では、なぜメタファーが私たちの考え方や話し方の基本であると見なされるべきなのか、さらにアリストテレスやトマス・アクィナスの哲学がそれを暗示していることを簡単に説明する。そして、アクィナスが「メタファー」と「類比」を区別することに問題があることを論証する。また、彼の最も鋭い批評家の一人であるジョン・ドゥンス・スコトゥスが、スコトゥスの立場にもそれなりの弱点はあるものの、数世紀前にアクィナスの類比理解の弱点を正しく認識していたことを論証する。最後に、ゴットロブ・フレーゲによる論理的進歩とともに、言語の比喩的性格に注目することで、アクィナスとスコトゥスの両者の洞察を現代の哲学的考察に取り入れることができることを提案する。
講演会報告:
この夏に、アメリカカトリック大学からノートルダム大学に移籍した、気鋭の中世哲学研究者、Nicholas Lombardo教授の講演が行われた。中世哲学だけでなく、現代哲学やその他のさまざまな哲学的な興味を持つ約10名の聴衆が集まり、1時間に亘る講演と、その後の30分ほどのディスカッションが、英語で行われた。「比喩」という言葉をキーワードに、トマス・アクィナスのアナロギア思想と、オッカムの一義性の思想との比較や、アナロギアと比喩との区別について、フレーゲの指示と意義の区別という観点から調停する可能性を探るなど、中世哲学の範囲に留まらず、言語と世界をめぐる基本的な理解の枠組みを提案する、きわめて刺激的な内容であった。講演会後は、優志によるレセプションが近隣のレストランで行われた。
講演タイトル:音としての「精神」――音楽を通して「近代」を再考する 番外編 徹底解剖 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ Op.27-2 ――これは「月光」ではない!
講師:斎藤慶典(慶應義塾大学名誉教授)
日時:2024年10月16日(水) 16:30-18:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
主催:三田哲学会
参加条件:どなたでも参加できます。事前登録の必要はありません。
概要:
今年5月22日に開催した三田哲学会・連続講演「音としての精神――音楽を通して近代を再考する」第7回「夢は何処へ」において、講演者の一人・斎藤慶典はベートーヴェン(1770-1827)のピアノ・ソナタ全32曲(ひいては、彼の全音楽作品)をつらぬく基本理念を取り出し、ピアノ・ソナタ Op.27-2(通称「月光」)を「傑作の森」と呼ばれる中期ベートーヴェンへの扉を開くものとして位置づけました。
この議論を踏まえて本「番外編」講演会では、同ソナタがどのような仕方でその基本理念の具体化を試みているかについて、ピアノ演奏(ピアニスト・関澤美香)を交えて詳細な分析を行ないます。これは、当日、斎藤の講演の内で時間の関係から割愛した部分の提示であるとともに、ベートーヴェンの「音による思考」の現場を文字通り「音」と「思考」によってたどり直す試みでもあります。またそこには、彼と同時代を生きた西洋近代を代表する哲学者イマニュエル・カント(1724-1804)が切り拓いた実践哲学=道徳形而上学にも通じる思考の歩みを見て取ることができるはずです。すでに本連続講演を聴かれた方ばかりでなく、初めて参加される方の来聴も歓迎いたします。
講演会報告:
講演会では、まず斎藤からベートーヴェンのピアノ・ソナタOp.27-2(通称「月光ソナタ」)を「傑作の森」と呼ばれる中期ベートーヴェンへの扉を開いた記念碑的作品として位置づけるにあたって、その哲学的背景についての解明が行なわれました。この解明の鍵となったのは、ベートーヴェンと同時代を生きた近代哲学の頂点イマニュエル・カント(1724-1804)との直接的・間接的な関係です。両者の間には、近代固有の宇宙論的スケールをもった自然観と、そのような自然の中で自由な意志をもって当の自然を受け容れ直し・自らそれを担っていく可能性を秘めた私たちの存在に対する洞察が共有されているのです。
ついで、このような自然観・世界観と洞察が音としてどのように楽曲の中に具体化されているかをOp.27-2のソナタに即して「徹底解剖」する作業が、ピアニスト関澤美香の実演を交えて行なわれました。この作業の中で、同ソナタの第1楽章が〈「識」閾のあわい〉として、第2楽章が〈「深淵間に咲き出た一輪の花」(F.リスト)〉として、第3楽章が〈「はい、私はここにいます」(Me,voici!)〉として理念化され、これらの理念を具現する楽曲上のさまざまなモチーフとその展開の過程が分析されました。
小休憩をはさんで最後に、以上の解明と分析を踏まえてピアニスト関澤美香によって同ソナタの全曲を通しての演奏が行なわれ、当日の聴衆に大きな感銘が与えられました。
Perspectival Properties in Perception(知覚における展望的特性)
講師:Tony Cheng(トニー・チェン)早稲田高等研
日時:2024年6月27日(木) 18:10-19:40
場所:慶應義塾大学三田キャンパス424教室
主催:三田哲学会
参加条件:誰でも参加できる、事前登録必要・参加費なし。
参加登録申込先:https://forms.gle/CyoSZDa5y9uk5ZaF6
概要:
知覚において、どのような特性が表現されるのか。近年のこの議論の最も人気のあるバージョンは、高次の特性と低次の特性の対比に関するものである。しかし、今回は展望的特性と対象的特性に関する別の対比に焦点を当てる。より具体的には、我々が例えば形状として知覚しているのは、展望的特性および/または対象的特性なのか。この古くからの問題は、最近Morales、Bax、Firestone(2020)の研究により再び注目を集めている。この講演は二つの部分に分かれる。前半では、それ以来の文献、特にBurge and Burge (2023)に焦点を当ててレビューする。後半では、講師自身の理論的論文および二つの共同実験プロジェクトの一部を論じ、この議論をさらに深めていく。
講演会報告:
学内外から多くの聴衆が集まる中、Cheng氏の「Perspectival Properties in Perception」と題する講演は1時間にわたり行われた。現代の知覚の哲学の争点の一つである知覚のPerspectivalな特性に対してどのような立場をとるのかを巡って、既存の四つの立場を紹介し、関連する問題を辿り直すことで、次第にCheng氏自身の見解を明らかにしていく組み立てであった。初心者にもわかりやすく工夫されながら、専門的な問いの哲学的深みを伝える巧みな構成もあり、その後に続く質疑では活発な意見交換が行われた。会場からは、狭義の哲学の専門家のみならず、多様な年齢層・分野からの参加者によって質問や問題提起がなされ、多くの興味深い議論が繰り広げられることとなった。中には将来哲学専攻への進学を考えている高校生の姿もあり、こうした講演会活動の重要性を改めて実感させられることにもなった。
第1回:Du Châtelet's Epistemology of Space(デュ・シャトレにおける空間の認識論)/第2回:Wang Daiyu 王岱輿(1570-1660) on the Non-Ultimate (wuji 無極) and the Great-Ultimate (taiji 大極): an Islamic Makeover(王岱輿における無極と大極イスラム的変容)
講師:Qiu Lin(チウ・リン, サイモン・フレイザー大学 哲学科助教)
第1回:2024年6月13日(木) 16:30-19:40/第2回:2024年6月20日(木) 16:30-19:40
三田キャンパス475教室
主催:三田哲学会
参加条件:どなたでも参加できます
概要:
本講演会は、二週連続の2回の講演からなる(講演と質疑応答は英語)。第1回は科学哲学史がテーマであり、女性科学者の先駆として知られる、デュ・シャトレの空間の認識論についての報告である。第2回は中国におけるイスラム教と儒教の融合である、いわゆる回儒思想についての最新の研究成果報告である。
講演会報告:
二週連続の二つの講演が、新進気鋭の若手哲学研究者であるチウ・リン氏によって行われた。第1回は、フランスの女性科学者であるデュ・シャトレによる空間理解が、ニュートンらによる絶対空間とは異なり、むしろライプニッツに近いものであったことが報告された。第2回は、漢文を用いてイスラム思想を著した王岱輿という思想家についての報告であり、王岱輿の思想が、その他の儒教思想とどのように関係し、また異なるかということについて、テキストを用いた詳細な報告があった。いずれも、現在の日本はもちろん、世界的に見ても取り上げられることが稀であるような分野についての最新成果の報告であり、講演後のディスカッションでも、活発な議論と情報交換が行われ、双方にとって極めて有益な講演会となった。
白質線維束イメージングによる感覚認知情報処理機構の研究
講師:竹村浩昌(生理学研究所 システム脳科学研究領域 感覚認知情報研究部門)
日時:2024年5月31日(金)16:30-18:00
場所:三田キャンパス433教室
主催:心理学専攻/三田哲学会
参加条件:三田哲学会会員および文学部心理学専攻在籍者(参加登録不要)
概要:
ヒトの脳は、神経細胞の細胞体を多く含み脳活動が観測される灰白質と、遠く離れた脳領域どうしを連絡する線維束からなる白質から構成されている。古典的解剖学では、白質障害と脳機能の関係が広く議論されてきた。近年拡散強調MRIを用いた白質線維束イメージング法の進展により、白質と脳機能の関係を生体脳を対象に研究することが可能となりつつある。この講演では、拡散強調MRIを用いた白質線維束イメージングについて概説したのち、ヒト大脳皮質における感覚系の機能構築と白質線維束の関係を分析した研究成果について解説する。
講演会報告:
本講演会では、拡散強調MRIを用いた白質線維束イメージングについて概説していただき、その後、ヒト大脳皮質における感覚系の機能構築と白質線維束の関係を分析した研究成果、脳性小児まひなどの神経疾患を繊維束の組織特性によって評価できる可能性や、脳構造の発達における遺伝と環境の影響を検討する方法などについてお話しいただいた。また、竹村先生の研究グループは、ヒトとサルの双方でMRIを用いてVOF(Vertical Occipital Fasciculus)を描出することに成功しており、この繊維束が視野の統合に果たす役割などについてもお話しいただいた。講演後には、学部生、大学院生を含む聴衆から、多くの質問が挙がりこれらを通じて更に議論を深めることができた。
貧困と子どものメンタルヘルス
講師:稲葉昭英(慶應義塾大学文学部教授)
日時:2024年6月15(土)13:00-17:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス455教室
主催:三田哲学会
概要:
貧困世帯で育つ子どもたちの教育達成が低いことがこれまでの研究で明らかになっている。一方、自己肯定感、メンタルヘルスなどの心理状態については十分な研究がなされていない。本講演では、大規模な確率標本データを計量分析することで、どのようなパターンが示されるのか、なぜそうした結果が生じるのかを明らかにしたい。具体的には、男子(中学生)には貧困世帯の子どものメンタルヘルスが悪い傾向はみられないのに対して、女子(中学生)では貧困世帯の子どものメンタルヘルスは悪い。この傾向は自己肯定感などについても同様である。貧困世帯では学歴達成の不利は女子に生じやすいことが明らかにされており、進学以外のさまざまな問題も女子により大きな不利が生じていると考えられる。また、女子のほうがストレッサーとなるライフイベントの範囲が広いことも知られており、世帯の問題を敏感に察知している可能性もある。このように、貧困の問題は女子に集約的に生じている可能性がある。
音としての「精神」――音楽を通して「近代」を再考する・第七回 夢は何処へ
講師:仲道郁代(ピアニスト)、斎藤慶典(慶應義塾大学名誉教授)
日時:2024年5月22日(水) 15:00-18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
主催:三田哲学会
参加資格:どなたでも参加できますが、事前登録が必要です(参加費無料)。下記URLからお申し込みください。
https://peatix.com/event/3899869/view
概要:
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演では「パッションと理性」「悲哀の力」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが取り上げられるが、その第七回となる今回は「夢は何処へ」というタイトルの下で以下の四つの作品を取り上げる。
初期ルネサンスのフィレンツェ彫刻における素材・色彩・光――――ドナテッロからデッラ・ロッビア一族へ
講師:ジャンカルロ・ジェンティリーニ(Giancarlo Gentilini)(ペルージア大学・グッビオ美術史文化財専門化育成、近世美術史教授)
日時:2023年11月18日
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館G-lab
主催:科学研究費 基盤研究B「彫刻と色彩―――彫刻概念の歴史的検証」
概要:
白亜の大理石と漆黒のブロンズというモノクローム彫刻を範とする古典主義的彫刻観を検証し直すために「彫刻と色彩」という命題を掲げて行う科学研究費のプロジェクトの一環として、施釉テラコッタ彫刻デッラ・ロッビア研究の第一人者であるジェンティリーニ教授をイタリアから招聘し、講演会を組織する。
眼窩前頭皮質によるマルチスレッド予測モデルの利用
講師:新保彰大(Intramural Research Program, National Institute on Drug Abuse, National Institutes of Health)
日時:2023年10月16日(月) 18:10〜19:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス・南校舎421
主催:三田哲学会
講演会の概要:
我々の日常生活は,意思決定の連続である。得られる報酬を最大にできるように,これまでの経験をもとに選択肢から得られる報酬を予測し,それに基づいて柔軟に行動を決定している。また,多くの報酬を得ていくためには,予測された報酬と実際の報酬の差である予測誤差をもとに,予測をアップデートし,より適切な選択を選べるようにしなくてはならない。このような予測誤差を用いた学習モデルは強化学習と呼ばれ,神経科学では強化学習がどのように脳内で実装されているのかについて精力的に研究がなされてきた。特に,中脳ドーパミン細胞が予測誤差を表現することや,報酬を反映するような神経活動が前頭前皮質で報告されている。しかし,近年,選択肢ごとに異なる種類の報酬が得られるような場面において,単純な報酬予測誤差に基づく強化学習モデルでは説明できないドーパミン細胞の活動が報告された(Takahashi et al., 2023)。この神経活動を説明するためには,報酬の種類によって独立した予測を個体が行っているといったマルチスレッド予測モデルが必要になる。そこで講演者は,ドーパミン細胞に報酬や報酬の予測情報を伝えていると考えられる眼窩前頭前皮質の神経活動を記録することで,どのように報酬情報が表現され,マルチスレッド予測モデルと関連するのか検討を行った。講演では,眼窩前頭前皮質の神経活動の記録より得られた新たな知見について紹介する。
第74回美学会全国大会
(*三田哲学会共催事業)
日時:2023年10月14日(土)・15日(日)
場所:三田キャンパス 南校舎・第一校舎・南館
*詳細は大会ホームページをご覧ください。
https://bigakukai074.bigakukai.jp
*三田哲学会会員の方は、当日受付にて学生証・教職員証をご提示のうえご参加ください
MIPS 2023――三田哲学会 哲学・倫理学部門 例会
日時:2023年10月28日(土)10:15〜16:40
場所:三田キャンパス 第一校舎1階 104番教室
HP:https://sites.google.com/keio.jp/mips
主催:三田哲学会、慶應義塾大学文学部哲学専攻・倫理学専攻
対話型鑑賞の効果を測る
講師:石黒千晶(聖心女子大学・専任講師)
日時:2023年9月28日(木)16:00〜17:30
場所:Zoomによるオンライン形式
https://keio-univ.zoom.us/j/89432342514?pwd=cXNzeUExM0lvTitrajljUk1qLzFVdz09
主催:三田哲学会/JST共創の場拠点プログラム/論理と感性のグローバル研究センター
講演会の概要:
本講演会は,美術鑑賞および美術教育の新しい方法とされる対話型鑑賞に関する近年の心理学における動向についてお話し頂くものである。対話型鑑賞は世界的に学校・美術館教育で用いられてきており,その評価に関しては対話型鑑賞は感想文などの言語データをもとにして,その教育効果が示唆されてきた。近年では,対話型鑑賞中の視線などの生理データを利用した鑑賞過程の理解も進んでいる。本講演では,対話型鑑賞の教育効果を視線のデータを元に検討した研究を紹介する。また,対話型鑑賞が学校の教室場面で行われる場合と、美術館で行われる場合の教育効果の違いについても知見を紹介しながら議論する。
国際哲学人文学会議(CIPSH)国際カンファレンス
グローバルでデジタルな時代の人文学:現代社会における人文学研究の伝統と相互作用の役割
CIPSH International Conference
Humanities in the Global and Digital Age: The role of Humanities research traditions and interactions in contemporary society
日時:2023年8月24日(木) 9:00〜18:50
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館6階G-Lab 及び Zoom
参加資格:参加無料。Zoomでの参加者は以下のページから事前登録をお願いします。
https://abelard.flet.keio.ac.jp/cipsh-conference-2023/
主催:慶應義塾大学文学研究科
共催:三田哲学会、その他
概要:
The 36th General Assembly of the International Council for Philosophy and Human Sciences (CIPSH) takes place on August 21st and 22nd, 2023 at the Mita Campus, Keio University. Associated to the GA, the international conference takes place following the tradition of the CIPSH-GA. Humanities have been studied since ancient times and have made significant contributions to human life and society. It is worth recognizing their continuous value for human life and sustainable society in contemporary contexts. The CIPSH International Conference 2023 provides a forum to discuss issues in contemporary contexts, focusing on three main themes:
- Global/world humanities,
- Humanities and digital science & technology,
- The role of the scholarly research tradition of humanities in contemporary society.
Nine keynotes are devoted to the three main themes. Two Panels including the Special CIPSH-UNESCO Panel session on "BRIDGES" Program are scheduled. Six Roundtables sessions are scheduled, including the sessions, Planetary Health Humanities, New Techno-Humanities, Art and Creativity, an Education-related session, and others.
プログラム:以下のページを参照してください。
https://abelard.flet.keio.ac.jp/cipsh-conference-2023/
三田哲学会講演会
「「経験(Empirie)」から導く、目のかがやきのイメージ学」
講師:坂本泰宏 (信州大学特任准教授、マックス・プランク経験美学研究所 Visiting Researcher)、藤原美智子(Beauty Lifestyle Designer 「MICHIKO.LIFE」プロデューサー)
日時:2023年7月7日(金)17:00-19:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎528番教室
主催:美学美術史学専攻、共催:三田哲学会
講演会の概要:今日のSNSやファッションが生み出すイメージは、従来、「イメージ学(Bildwissenschaft)」においてその位置づけが困難であるとされてきた。なぜならそれらは、特有の消費的性格と相まって鑑賞者の情動に対して強く働きかけ、イメージ認知においては彼らの認識へと侵食するように入り込む一方、とかく存在論的性格としての短命さも免れないゆえである。しかしだからこそ、イメージがもつ固有の ―― あるいは時代によって変化した ―― 推進力を明らかにすることに取り組むイメージ学にとり、感性的欲望と理性的本能、あるいは真理と仮象の狭間に生まれるそれらSNSやファッションに特有のイメージを検討する意義はきわめて大きい。
本講演会は、イメージ学研究の中心であるドイツ語圏において中核的な研究を担う坂本泰宏氏と、ファッション界においてヘアメイクのスペシャリストとして名実ともに一つの時代を築き上げた藤原美智子氏を迎え、両氏のディアローグによって行われます。学術とファッションがイメージを共通の関心として追求する貴重な機会となるでしょう。
※ どなたでもご参加頂けます。学外の方はこちらより参加のご登録をお願い致します
三田哲学会講演会
"Addressing the interplay of breathing and cognition in oral language"
講師:Claudia Rodríguez-Aranda
University of Tromsø, Department of Psychology, Professor
日時 2023年5月30日(火) 18:00〜19:30
場所 南校舎441
主催:心理学専攻 三田哲学会
概要:
近年,認知機能と呼吸変化の関係の理解について注目が集まっている。本講演では,言語課題遂行時における認知機能と呼吸の関係について,神経心理学,神経科学,心理言語学の立場から検討する。特に本研究では,言語課題中の言語産出(発話)中の呼吸変化を評価するという,新たな方法論を用いている。講演では,この手法に関連する先行知見や課題を紹介する。
三田哲学会 講演会
「音としての「精神」――音楽を通して「近代」を再考する 第六回 劇場の世界」
講師:仲道郁代(ピアニスト),斎藤慶典(慶應義塾大学名誉教授)
日時:2023年5月24日(水) 15:00〜17:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
参加資格:どなたでも参加できますが、事前登録が必要です(参加費無料)。
下記URLからお申込みください。
https://peatix.com/event/3563993/
主催:三田哲学会
共催:慶應義塾大学アート・センター研究会 mandala musica
お問い合わせ:keio@ppjp.ptu.jp
概要:
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演では「パッションと理性」「悲哀の力」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが取り上げられるが、その第六回となる今回は「劇場の世界」というタイトルの下で以下の五つの作品を取り上げる。
三田哲学会 講演会
「宗教的贈与が想像/創造する<神なるもの>:インド・ディアスポラの奉仕実践セーワーと超越性に関する一考察」
講師:濱谷 真理子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科 特任研究員)
日時:2023年5月14日(日) 15:00〜17:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス(教室は現在調整中)およびZoomによるハイブリッド形式
参加資格:参加費無料.どなたでもご参加いただけます.追って参加申し込みURLをお知らせします.
主催:慶應義塾大学人類学研究会 共催:三田哲学会
概要:
私はこれまで宗教人類学者として宗教者の修行生活に関する研究に従事してきたが、言及を避けてきた問題がある。<神>だ。理由は明確でないが、私は<神>は語るべきものではないと考えていた。しかし、昨年の事件以来新興宗教の問題が世間を賑わせている現在、私たちはあえて<神>について語る必要があると思われる。本報告で示すように、私たちは不可知で不気味な<神>やその組織に翻弄されるだけではなく、ばらばらな実践を通じて部分的に共有された<神なるもの>を想像/創造し、それが<神なるもの>へ/で繋がる可能性を開きうるからである。本報告ではそうした<神なるもの>をつくりだす営みとして、ヒンドゥー教・シク教・ジャイナ教の重要な宗教的贈与実践である「セーワー(奉仕)」に着目する。そして、北インド巡礼地及び英国移民街をフィールドとして、<神>が人びとをセーワーへと駆り立てる一方、人びとがセーワーを通じてどのように<神なるもの>を想像/創造し、それが新たな繋がりを生み出しているのかを議論する。
人間科学専攻/三田哲学会 講演会
「暗黙のルールの維持メカニズム:個人の認知と社会環境の観点から」
講師:岩谷 舟真(東京大学大学院人文社会系研究科)
日時:2023年3月2日(水) 14:00〜15:30
場所:研究室棟AB会議室
参加資格:慶應義塾関係者(教職員, 研究員,学生など)限定, 事前登録不要, 参加費無料
主催:人間科学専攻 共催:三田哲学会
概要:
会社や学校など、我々の身の回りの集団には様々な暗黙のルールがあります。中には、集団の各々のメンバーはそのルールを守るべきとは思っていないにもかかわらず維持されているようなルールもあります。社会心理学の分野では、各々の集団のメンバーはルールを受け入れていないものの、「他のメンバーはルールを受け入れているだろう」と誤って信じあっている状況のことを多元的無知状態と言い、例えば、日本の会社における「男性は育児休暇取得を控える方が良い」というような暗黙のルールは多元的無知状態で維持されていることが明らかにされています。一方で、(1)ルールに賛成でない人が多数派の状況下で、なぜ各々の集団メンバーはその意に反してルールに従うのか、(2)多元的無知状態はどのような社会環境で維持されやすいのかといった、多元的無知状態が生起・維持するに至るメカニズムについては十分に検討されていませんでした。この講演ではこれら2つの問いを扱った研究を紹介するとともに、日本社会において今後暗黙のルールとして多元的無知状態で維持されうる規範について議論したいと思います。
人間科学専攻/三田哲学会 講演会
「限られた資源をいかに分けるか:分配の意思決定への実験によるアプローチ」
講師:上島 淳史(東北大学大学院文学研究科・日本学術振興会特別研究員(PD)・イェール大学 社会学部)
日時:2023年2月28日(火) 14:00〜15:30
場所:東別館9階カンファレンスルーム
参加資格:慶應義塾関係者(教職員, 研究員,学生など)限定, 事前登録不要, 参加費無料
主催:人間科学専攻 共催:三田哲学会
概要:
人間が社会、つまり相互依存関係で生きる限り、「限られた資源をいかに分けるべきか」にかかわる分配的正義は重要である。格差や貧困に関する議論の高まりは、広く人々に支持される資源分配の原理を経験的に解明する重要性を示唆している。本講演では、(1)合議において共通に支持される分配原理、(2)テクストデータに内在する意味表現としての分配原理、(3)大規模実験と機械学習で発見される分配原理を対象に、社会心理学実験を用いてアプローチした知見を報告する。研究(1)や報告者が過去に実施した研究は、社会における最も恵まれない人々への配慮(マキシミン的配慮)が、公正な資源分配について人々が合意する際の心理的共有基盤として機能する可能性を示唆している。しかしながら、本講演ではマキシミン的配慮をはじめとする規範的分配原理のみでは捉えきれない、現実の人々が支持する複雑で豊かな分配原理について研究(2)と(3)にて報告する。一連の研究報告を通して、人間心理の多様性や実験結果の一般化可能性についても議論したい。
人間科学専攻/三田哲学会 講演会
「先行世代の経験を次世代に活かす:高齢者と若齢者の世代間相互作用」
講師:田渕 恵(安田女子大学心理学部ビジネス心理学科)
日時:2023年2月27日(月) 14:00〜15:30
場所:東別館9階カンファレンスルーム
参加資格:慶應義塾関係者(教職員, 研究員,学生など)限定, 事前登録不要, 参加費無料
主催:人間科学専攻 共催:三田哲学会
概要:
高齢者が経験を活かし,人生の先輩として次世代を助け支えることは,社会の進展にとって重要な行動です。高齢者の次世代に対する利他行動は,自分の生きた証を次世代に残し,社会的役割を譲り渡すことができるため,高齢者にとっても心理的Well-beingの向上や死の受容,さらには長寿といったポジティブな影響があるとされてきました。しかし実際には,高齢者の若齢者に対する利他性の発揮が「ありがた迷惑」となり,どちらの世代にとってもネガティブな影響をもたらしてしまうケースもあります。本発表では,社会心理学と生涯発達心理学の観点から,高齢者と若齢者の世代間相互作用を考慮した一連の研究を紹介し,どうすれば高齢者の利他性が若齢者にうまく働き,双方にとってメリットとなる仕組みが実現するのかについて考えます。
国際シンポジウム
医療と人文社会科学の架橋に向けて30:『若者のメンタルヘルスの人類学:国際比較』
The 30th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine: Youth Mental Health in International Perspectives
日時:2023年2月26日(日) 10:00〜15:00
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス東館G-LAB (対面のみ)
参加資格:転送自由・参加無料・登録不要 (使用言語:主として英語・副として日本語)
主催:慶應義塾大学三田哲学会・医療人類学研究会 共催
司会:北中淳子(慶應義塾大学文学部・社会学研究科), 狩野祐人(慶應義塾大学社会学研究科)
概要:
若者の間でのメンタルヘルス問題の増加は、現在グローバルな課題となっており、特に学校の相談室や保健センター、さらには自殺予防を謳うNPO等が果たす役割はますます重要になっている。特にアメリカでは1990年代以降の抗うつ薬ブームを一つの契機として、うつ病や、不安障害、発達障害といった課題を抱えた若者が学校の相談室や学外でのメンタルヘルス支援の団体に相談を寄せることが多くなった。日本でも同様の変化はみられるが、実際のところどういった訴えがみられ、若者がどのようなイディオム(慣用表現)や診断名を用い、支援とつながることでどのように訴えや状況を変化させているのかについて、国際比較的視点から十分に検討されているとはまだいえない。本シンポジウムでは、シカゴ大人類学Eugene Raikhel先生、エジンバラ大学医療人類学プログラム創始者のStefan Ecks先生、東京藝術大学名誉教授の精神科医内海健先生、九州大学教授の精神科医黒木俊秀先生、九州大学講師の精神科医蓮澤優先生、東京大学医学部附属病院の高橋優輔先生など、国内外から第一線の医師・人類学者を集い、この課題に着手することを試みる。
プログラム 第一部(公開シンポジウム)
- 10:00 Junko Kitanaka, Ph.D. (Keio University)
- Opening Remarks
- 10:10 Eugene Raikhel, Ph.D. (University of Chicago)
- College Mental Health: A Time of Crisis?
- 10:40 Suguru Hasuzawa, M.D./Ph.D. (Kyushu University)
- “Inclusion” and “Exclusion” through College Mental Health Services
- 11:10 Toshihide Kuroki M.D./Ph.D. (Kyushu University)
- Hikikomori (Social Withdrawal) and the “5080” Issues in Japan: The Downfall of A Rich Autistic World
- (11:40 Lunch Break)
- 12:40 Yusuke Takahashi M.D. (Tokyo University)
- Unspecified Difficulties in Japanese Adolescents: Issues on Ikizurasa
- 13:10 Stefan Ecks, Ph.D. (Edinburgh University)
- Living Worth: Questioning Value in Youth Mental Health
- 13:40 General Discussion with:
- Nao Hasuzawa, M.D./Ph.D. (Kurume University)
- Takeshi Utsumi, M.D. (Tokyo University of Arts)
- Katsuya Kushihara, Ph.D. (Tokyo Online University)
三田哲学会 ワークショップ
社会の中での行為をささえる積極的な脳 Enactive Brainの理解を通して、人間の「学びと成長」を考える
講師:仁木和久 (慶應義塾大学)
日時:2023年3月10日(金) 14:00〜17:00
場所:三田キャンパス西校舎516教室
参加資格:どなたでも参加できます
3月8日(水)までに以下のURLより事前登録をお願いします
https://forms.gle/4diAXjS71J5tmiNw9
主催:三田教育学会 共催:三田哲学会
概要:
人間は誰でもが、主体的・対話的で深い学びによって、自己の知識やスキルを意味ある形で身につける能力を、脳の仕組みとして持っている。とりわけ教育環境において、そのような脳の能力を促進・活性化することにより、子どもは「学びと成長」を続け、社会において活躍する自立したエキスパート行為者となることが期待されている。そこで、本講演では、日本そして OECD を始めとして世界中の教育改革で(共通して)目指されている子どもの「学びと成長」を、人間の行為(=意図と意欲をもった行動)を支える「積極的な脳システム Enactive Brain 理論&モデル」を提案・利用し、脳科学的に説明する。
三田哲学会 ワークショップ
「責任のありかと、そのゆくえ――徹底討議・瀧川裕英×斎藤慶典 」
日時:2023年3月8日(水) 13:00〜16:00
場所:三田キャンパス 南館地下4階 ディスタンスラーニングルーム
参加資格:どなたでも参加できます。
参加申込:以下の申込フォームから、前日の3月7日23:59までに必ず参加登録をお願いいたします。
https://forms.gle/yoFHqecjrnjkWsUS9
定員になり次第、申し込みを締め切らせていただきます。
オンラインでの中継はありません。
主催:三田哲学会
講師:瀧川裕英 (東京大学), 斎藤慶典(慶應義塾大学)
司会: 斎藤慶典 (慶應義塾大学)
概要:
私たちの日々の生活は、人々の責任ある行為を前提として営まれています。そして責任は、それを担う当人が原則として自由であることを条件としていると考えられています。強制のもとでやむなく為された行為、ほかにどうする余地もなかったそれに責任を問うことはできない、というわけです。ですが、私たちが自由であるというのは本当でしょうか。そして、自由のもとではじめて担われる責任とは、何をどのようにすることなのでしょうか。ひとたびこうした疑問に正面から答えようとすると、誰もが当惑を覚えざるをえないのではないでしょうか。
こうした疑問に対して、今回講師としてお招きする瀧川裕英は『責任の意味と制度――負担から応答へ』(2003年、勁草書房)や「他行為可能性は責任の必要条件ではない」(2008年、大阪市立大学『法学雑誌』第55巻第1号)などにおいて、責任を問うにあたって必ずしもほかの行為の可能性が確保されている必要はないこと、そして、そこで担われる責任は負担ではなく応答であることを説得的に論じ、この観点のもとで法体系と法実践を解釈し直す試みに着手しました。
他方、斎藤慶典は『私は自由なのかもしれない――〈責任という自由〉の形而上学』(2018年、慶應義塾大学出版会)において、ハイデガーの「死と良心の分析論」やレヴィナスの「他者」の哲学などの検討を通して、当人にはいかんともしがたい誕生や死や他人を私はそれにもかかわらず「よし」として担いうること、担わざるをえないこと、現に担っていることを示し、これをもって私は「純粋な可能性」のもとで自由となると論じました。
本ワークショップでは、いずれも私たちの行為の根底に応答としての責任を看て取る両哲学者が、それぞれの哲学構想を一層掘り下げるにあたって直面したいくつかの問題を互いに提出し合い率直な議論を重ねることで、責任をめぐる思考をさらに深めていきたいと思います。当日は、瀧川と斎藤がそれぞれ40分ずつ提題を行ない、休憩を挟んで後半の40分は両者による集中的な討議に充てる予定です。会場の皆さんからの積極的な発言も歓迎いたします。
三田哲学会講演会
「歌に惹かれ文化を伝える鳥の脳」
日時:2023年2月2日(木) 16:30〜18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス研究室棟 AB会議室
参加資格:どなたでもご参加いただけます
主催:心理学専攻/三田哲学会
講師:田中雅史 先生(早稲田大学文学研究科専任講師)
概要:
人は社会の中で様々な文化を受容し、後世に伝えることで、言語や芸術などの高度な技術を発展させてきました。文化伝達の能力をもつ動物は珍しく、霊長類でもチンパンジーなどいくつかの種で報告されているのみですが、奇妙なことに、鳥類の一部が、人の文化にも似た複雑な行動を伝えている例が知られています。特にスズメ亜目の鳥(歌鳥)は、複雑な歌をさえずることで知られ、幼少期に聞いた歌を記憶して、その後の長い練習を通して、正確に模倣する能力をもっています。また、歌鳥は、極めて社会的な動物で、幼少期には周りのおとなから育てられ、繁殖期には特定の相手と緊密な社会的結合を形成して、群れの中で多様な音声コミュニケーションを行います。さらに歌鳥は、求愛に使う歌のみならず、音楽的な刺激にも好みをもつことが明らかになってきました。本講演では歌鳥による歌の伝達とその神経メカニズムに関する最新の知見を紹介し、歌鳥の研究がどのように人の文化や美的感覚の理解に役立つか議論できればと思います。
講演会報告:
本講演では、キンカチョウをモデルとした音声模倣について、大脳におけるドーパミンの重要性や、ヒトの歌に対する選好性をもつという興味深い実験結果について話題提供があった。文化としての歌の伝搬に関する動物種を超えた共通の生理、心理メカニズムを明らかにする上で、ヒト以外の動物を用いることの面白さが強く伝わる講演であった。講演後、参加者を交えた活発な議論が行われた。
三田哲学会講演会
「レヴィナス哲学における時間論の諸相 ―時間の脱形式化をめぐって― 」
日時:2023年1月27日(金) 13:00〜16:00
場所:オンライン(※下記URLにて事前登録が必要です)
https://keio-univ.zoom.us/meeting/register/tZYtc-uqqDguHNKrhcxvLKZZyEgU6PdMCYcA
参加資格:どなたでもご参加いただけます。
主催:三田哲学会
提題者: 石井雅巳(慶應義塾大学)
特定質問者1:鈴木崇志(立命館大学)
特定質問者2:高井ゆと里(群馬大学)
コメンテーター:
- 渡名喜庸哲(立教大学)
- 藤岡俊博(東京大学)
- 斎藤慶典(慶應義塾大学)(総合司会を兼ねる)
概要:
本シンポジウムは、現象学の創始者であるフッサールやその弟子ハイデガーに学びつつ、その後彼らの批判者として独自の哲学を展開したエマニュエル・レヴィナス(1906-1995)が、その活動の全時期にわたってさまざまな著作において論じた時間をめぐる問題について、若手の現象学研究者およびレヴィナス研究者とともに議論を行ないます。具体的には、(1)初期レヴィナスが現象学を受容するにあたって、時間的な概念がどのような役割を担っているのか、(2)主著である『全体性と無限』や『存在の彼方へ』において、時間はいかに語られているか、さらには両著作間の移行を時間論から解釈することは可能か、(3)レヴィナスの時間論を特徴づけるに際して、晩年に言及される「時間の脱形式化」という構想に注目することは妥当か。これらの問題が議論の争点となることが見込まれます。それぞれの論点をめぐって提題者と特定質問者による発表ならびに相互間での討議の後、コメンテーターも加わって議論を掘り下げ、さらにオンラインでの参加者からの質疑の時間を設けることで、レヴィナス研究の専門家のみならず、広く多方面に開かれた議論が交わされることを期待しています。
講演会報告:
本講演会(公開シンポジウム)前半は、レヴィナスがその活動の全時期にわたってさまざまな著作において論じた時間をめぐる問題について、気鋭の現象学研究者三人(石井雅巳、鈴木崇志、高井ゆと里)による提題と討議を行なった。そこでは主に、(1)レヴィナスの哲学全体を特徴づけるに際して、晩年に言及される「時間の脱形式化」という構想に注目することは妥当か、(2)後期レヴィナスによるフッサール時間論解釈は、いかなる仕方でレヴィナスの倫理的関係の議論と接続されているか、(2)レヴィナスの議論を時間という観点から特徴づけるにあたって、ハイデガーが『存在と時間』で展開したプロジェクトとの共通点と差異をいかに考えるか、といった問題について論じられた。これらの論点について提題者間で発表・討議が行なわれた後、休憩を挟んだ後半においてはコメンテーター(渡名喜庸哲・立教大学、藤岡俊博・東京大学、斎藤慶典・慶應義塾大学)も参加して、「真理」、「メシア的時間、」「永遠性」、「救済」、「意志」といった関連する概念群をめぐる問題をも含めてさまざまな議論が繰り広げられた。その後さらに来場者からの質疑の時間を設け、レヴィナス研究の専門家のみならず広く多方面に開かれた活発な議論の場となった。
三田哲学会講演会
「異界/異世界の概念形成に向けて:現代都市伝説に見る非日常的空間の分類学」
日時:2022年12月2日(金) 18:10〜20:10
場所:慶應義塾大学三田キャンパス477教室とzoomのハイブリッド
参加資格:どなたでもご参加いただけます。
参加申込:以下の申込フォームから、前日の12月1日23:59までに必ず参加登録をお願いいたします。当日ZoomのURLをお送りいたします。
https://forms.gle/X1tL8toB7qAGzqsy8
主催:三田哲学会/慶應義塾大学人類学研究会
講師:廣田龍平先生(慶應義塾大学非常勤講師)
講演会の概要:
文化人類学や民俗学、宗教学などで見かける「異界」の概念は、1980年代以降の日本語圏で普及した、比較的新しいものである。しかしその概念規定については曖昧であるという指摘があり、現在もなおその問題は解決していない。また、前近代から使われてきた「他界」や前世紀末から多用されるようになった「異世界」などの類似概念との関係もほとんど明確になっていない。本発表では、現代の都市伝説を中心とした「怖い話」における「異界」の多様性を検討しつつ、これらの概念の適用範囲や適用可能性にはどのようなものがありうるのか考えてみたい。
講演者プロフィール:
博士(文学)(2021年3月 筑波大学)。廣田龍平先生は、文化人類学・民俗学の立場から妖怪研究を行っている新進気鋭の研究者です。妖怪全体を捉える理論を構築するために、「存在論的転回」やアクターネットワーク理論などを視野に入れ、事例としては18世紀末から21世紀までをカバーしつつ、研究を展開しています。最近の御研究の関心としては、日本のインターネット上の怪談についての研究や、日本における動物妖怪のアニミズムとアナロジズムなどが挙げられます。主要な著作としては、『妖怪の誕生 超自然と怪奇的自然の存在論的歴史人類学』(2022年 青弓社)、「村と駅 ネット怪談における異界的儀礼と異世界的バグの存在論」『ユリイカ』54巻11号などがあります。
講演会報告:
「他界」「異界」「異世界」などの概念は、これまであいまいな定義づけのもと使われてきた。本報告では、2ちゃんねる(現、5ちゃんねる)における「異世界スレ」を舞台に展開される、現代の都市伝説を中心とした「怖い話」における「異界」の多様性を検討しつつ、これらの概念の適用範囲や適用可能性にはどのようなものがありうるのかが考察された。質疑では、日常世界と異界などとの分類の在り方の近代性、どのようなメディアによって「怖い話」が伝えられるのかによって生まれる差異、身体性の問題などについて活発な議論が交わされた。
三田哲学会ワークショップ
パフォーマンス・アートのワークショップ
講師:霜田誠二(ニパフ代表 アーティスト)
日時:2022年11月4日(金) 13:00〜16:00
場所:三田キャンパス南校舎457 および 中庭
対象:三田哲学会員の方
主催:慶應ABR 三田哲学会
講演会の概要:
霜田さんは、1960年代より、日本におけるパフォーマンス・アートの第一人者として活躍、海外における美術展への招待は、年間5回以上、また海外でのワークショップも重ねています。国内では、日本パフォーマンスフェスティバル(ニパフ)を主宰し、アジアやヨーロッパからアーティストを招待して、毎年数回のフェスティバルを開催しています。今回は、パフォーマンスアートに関するワークショップを実施してもらいます。身体を使う芸術による多様な気づきが期待されます。
講演会報告:
予想より多くの学生が参加し、中庭で、簡単にパフォーマンスアートについて、霜田さんが説明後に、一人2分、「今自分がしたいこと」をテーマに、順番にパフォーマンスを行った。初心者どころか、パフォーマンスアートを今まで全く知らなかった学生さえも、自分の身体で、何か行為を行うことで、ただたんに、それで作品になるという、全く新たな経験をできたという感想が多く、また、演技中の自分の身体への関心の推移を述べていたり、参加者の関心は大きかった。
MIPS 2022の開催について―三田哲学会 哲学・倫理学部門 例会
日時:2022年10月22日(土)11:00〜17:30
場所:三田キャンパス 第一校舎1階 101番教室
HP:https://sites.google.com/keio.jp/mips
主催:三田哲学会、慶應義塾大学文学部哲学専攻・倫理学専攻
教育哲学会第65回大会
日時:10月22日(土)・23日(日)
場所:三田キャンパス南校舎4, 5階・南校舎ホール
参加に当たっては、フォームでの事前申請が必要となっております。 詳細は大会webサイトをご参照ください。
三田哲学会講演会
エスニック・アートの「作者」は誰か?:台湾原住民族の織物、熟練、オーサーシップ
講師:田本はる菜 先生(成城大学文芸学部 専任講師)
日時:2022年10月7日(金)18:10〜20:10
場所:慶應義塾大学三田キャンパス(会場は現在調整中)およびZoomによるハイブリッド形式
対象:どなたでもご参加できます
※参加ご希望の方は、下記URLより【2022年10月6日(木)正午まで】に必ずご登録をお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScxW1uHSj2ISzJQBALEllaXNX3Ei7eDEjdKiDbLCa3gRYYCgA/viewform?usp=sf_link
主催:慶應義塾大学人類学研究会/三田哲学会
講演会の概要:
「エスニック・アート」や「トライバル・アート」などとも呼ばれ、民族文化や共同体と結びつけられてきた先住民族の手仕事は、今日アート市場やクリエイティブ産業、知的財産制度などを介し、むしろ「ファイン・アート」に類する、固有の「作者」の創作物とみなされつつある。一見するとグローバルなこの状況は、個別地域でどのように生じ、経験されているのだろうか。本報告では、東アジアの一地域である台湾を取り上げ、オーストロネシア語族系先住民族(台湾原住民族)の織物と服飾品製作を例に、これを検討する。
講演会報告:
「エスニック・アート」や「トライバル・アート」などとも呼ばれ、民族文化や共同体など集合的な産物とされてきた住民族の手仕事は、他方で、作り手側からは、個人の創作と位置付けられるようになっている。本発表では、作り手が状況に応じて、自身の作品を集合的な工芸にも個人の創作にも位置づけようとするさまから、作り手の作者性がどのように確かなものとされるのかを問うものであった。その際、モノの人類学が依拠する「関係性」の中で位置づけられる「作り手」という観点と、作品の帰属を特定の属性を持つ個人にすることで、他者を切り離していくデタッチメントという観点を参照しながら、台湾先住民の作家たちが伝統知識をライセンス化したり、商業化に伴う権益保護を図ったり、他方で、集団的な権益主体を擁護する形で包摂的なオーサーシップの主張などが生まれる場面などを考察した。現地の人々は、積極的にオーサーシップから他者を切り離したり組み入れたりする微細な駆け引きを行っていることを具体的事例から描き出した点で、大変興味深い分析がなされた。
質疑応答では、このような先住民の作り手の微細な駆け引きを集落の他 の人々や消費者側がどのように見ているのか、オーサーシップを主張することが民族の共同の利益を阻害すると考えられるようなケースはないのか、など、様々な質問が寄せられ、活発な議論が展開された。
なお、今回の講演会は、「慶應塾大学人類学研究会」との共催で行われた。
三田哲学会ワークショップ
「私は自由なのか――徹底討議・青山拓央×斎藤慶典」
日時:2022年9月23日(金・祝) 13:00〜15:30
場所:オンライン
対象:どなたでもご参加いただけます。※事前登録制
なお、参加にあたっては、以下の事前申し込み用のフォームに必要事項をご記入ください。
確認ができ次第、折り返し、当日のオンライン会場へのアクセス情報をお送りいたします。
https://forms.gle/jvucRL9scR6kj2o4A
主催:三田哲学会
講師:青山拓央(京都大学),斎藤慶典(慶應義塾大学)
司会: 柏端達也(慶應義塾大学)
概要:
私は自由なのか。自由は一方で私たちの存在と社会の根本をなしているようにも見え、他方でそれは因果的に規定された物理的世界のどこにも場をもたない一種の錯覚とされる。そのような自由をめぐる現代哲学の議論はますますその錯綜の度合いを高め、その行方は見通しがたい。
こうした状況の中で、青山拓央は『時間と自由意志――自由は存在するか』(2016年、筑摩書房)において、時間と様相の問題を掘り下げる独創的なモデルである「分岐問題」を提示することを通して、両立的自由・自由意志・不自由(そして無自由)といった自由のさまざまな在り方に新たな光を当てた。他方、斎藤慶典は『私は自由なのかもしれない――〈責任という自由〉の形而上学』(2018年、慶應義塾大学出版会)において、マイノング、フッサール、メルロ=ポンティへと受け継がれた「基づけ」理論を心身問題に適用して独自の生命の哲学を展開すると共に、その基盤の上にハイデガーの「死と良心の分析論」ならびにレヴィナスの「他者」の哲学に着想を得て「純粋な可能性」として自由の理念を提示した。
本ワークショップでは、一見すると背景ならびに方向性がまったく異なるように見える両哲学者が自由という共通の問題に向かい合い議論を積み重ねることで、当の問題の一層の掘り下げを試みる。司会には、とりわけ分析哲学系の自由論に造詣の深い柏端達也が当たる(青山と共に論集『自由意志 スキナー/デネット/リベット』(2020年、岩波書店)の監修に当たり、同書の「イントロダクション」も共に執筆している)。
ワークショップは、まず斎藤と青山がそれぞれ40分ずつ提題を行なう。休憩を挟んで後半の40分は柏端の司会のもと、斎藤と青山による集中的な討議に充てる。
講演会報告:
司会の柏端達也による簡単な講師紹介と本日の議論への導入の後、まず、青山拓央が「分岐の自由と単線の自由」と題して最初の提題を行なった。この提題において青山は、著書『時間と自由意志――自由は存在するか』(筑摩書房、2016年)において展開した議論にいくつかの改訂を加えつつ、自由をめぐる代表的な諸見解を批判的に検討しながら、「単線の自由」「分岐の自由」「不自由」そして「無自由」といった独創的な概念によって構成される自らの自由論の概要を提示した。
つづく提題において斎藤慶典は、著書『「実在」の形而上学』(岩波書店、2011年)ならびに『私は自由なのかもしれない――〈責任という自由〉の形而上学』(慶應義塾大学出版会、2018年)などにおいて展開した自らの自由論と青山による先の自由論との関係を、「無自由」という同一の地点から形而上と形而下という逆方向に向かう議論として提示した上で、青山の自由論の中で重要な役割を演ずる「行為の起点性」をめぐる問題と、「無自由」な次元と自由が取り結ぶ関係の二点に焦点を絞って問題提起を行なった。
休憩をはさんで後半は、柏端の司会の下、まず青山と斎藤の間で、上記の斎藤による問題提起を受けてそれぞれの論点について議論が掘り下げられた。また、その議論の間に会場からチャット機能を活用して提出された質問や意見にも、この討議の中で言及がなされた。最後には、会場からの直接の発言も求め、自由をめぐる現代の議論状況に新たな一石を投ずる活気に満ちたワークショップとなった。熱心な討議が続けられたこともあって、予定より1時間ほど時間を延長して、会を閉じた。
三田哲学会講演会
嘘と正直さの認知神経科学
日時:2022年7月28日(木) 16:00〜17:30
場所:慶應義塾大学 三田キャンパス 南校舎455
対象:三田哲学会員の方
主催:心理学専攻、三田哲学会
講師:阿部修士(京都大学 人と社会の未来研究院 准教授)
講演会の概要:
わたしたちは日々の生活の中で、嘘をつくことで利得を得られる状況にしばしば直面する。 嘘をつくか正直に行動するかには、大きな個人差が存在するが、その意思決定の神経基盤は未だ明らかではない。本講演では主に、1) 正直さの個人差を規定する報酬感受性の神経基盤、2) 米国刑務所内のサイコパスにおける不正直さの特徴と神経基盤についての知見を紹介する。
講演会報告:
本講演では、正直さの個人差を規定する報酬感受性の神経基盤や、米国刑務所内のサイコパスにおける不正直さの特徴と神経基盤について話題提供があった。講師自身の米国留学中の研究の裏話も交え、性善・性悪のような2項対立的な人間観を認知神経科学のレベルから再考したいというメッセージなど、刺激的な講演であった。講演後、参加者を交えた活発な議論が行われた。
三田哲学会講演会
外国人住民の社会的包摂とアート
日時:2022年7月30日(土) 10:30〜13:00
場所:慶應義塾大学 三田キャンパス 南校舎432(参加自由)
対象:どなたでも参加いただけます
主催:「共感と共生」研究会、三田哲学会
参加費:無料
講師: 楊 淳婷
台湾台北市生まれ。博士(学術)。東京藝術大学国際芸術創造研究科特任助教。立教大学社会学部兼任講師。自身の経験から移住や移民、社会とアートの関係性に関心を抱き、アートプロジェクト「イミグレーション・ミュージアム・東京」の企画統括(2019年度)、東京芸術劇場シアター・コーディネーター養成講座《多文化共生・基礎編》(2021年度)の監修など、理論と実践を往還する取り組みに携わっている。
講演会の概要:
本報告で楊氏は、外国人住民の多住/集住地域にて行われた共創的な芸術実践を複数取り上げて、それぞれの地域が対峙している多文化共生の課題を比較しつつ、個々の取り組みが外国人住民の社会的包摂にいかに働きかけうるかについて論じる。そして、事例紹介を通じて、with/postコロナの時代において人々が能動的に関わり合う「共創」の経験が、いかにパラレルな共生から一歩進んで多元的な価値を尊重する社会の構築に寄与するのかについて論じる。こうした報告を通して、アート/芸術実践がいかに外国人住民の社会的包摂に関わってきたのか/貢献しうるのかについて理解を深めることができると期待できる。
基礎心理学と人類史研究との接点
日時:2022年6月11日(土)14:00〜17:00
形式:慶應義塾大学 三田キャンパス 北館3階大会議室およびZoomによるハイブリッド形式
主催: 日本基礎心理学会
共催: 新学術領域研究『出ユーラシアの統合的人類史学〜文明創出メカニズムの解明』,三田哲学会
参加費:無料
事前申し込み:必要。参加ご希望の方は、下記URLよりお申し込みください。
話題提供者および演題:
- 大塚幸生(京都大学):「心理課題を用いた認知マップの作成および文化人類学の資料との関連性の検討」
- 山本真也(京都大学):「できるけどしないチンパンジー」
- 平川ひろみ(鹿児島国際大学):「考古学からみた土器製作者のモーターハビット」
指定討論者:田谷修一郎(慶應義塾大学)
概要
本講演は,「基礎心理学と人類史研究との接点」と名付けたシンポジウムのもと行う。情報学や脳神経科学との融合や協働をはじめとして,基礎心理学は様々な近接した領域と様々な接点を持ちつつ発展してきた。さらに近年では,考古学や人類学,進化研究などの人類史研究とともに,ヒトが「こころ」の獲得に至った過程や,個々のヒトが社会や文化を形成してきたダイナミクス,さらには宗教的信念や人工物や構造物の製作過程等,様々な点に着目した研究展開が世界的にも認められつつある。本シンポジウムでは,3名の講演者による話題提供をもとに,基礎心理学と人類史研究(考古学,人類学など)との接点について,お互いの分野の研究者からの話題提供をもとに,さらなる問題の共有や新たな気づき,そして今後の共創的な展開について探りたい。
講演会報告:
参加者数:対面参加者数21名,Zoomによるオンライン参加者数40名
心理学は既に情報学や脳神経科学との融合や協働を測ってきたが,近年では,考古学や人類学,進化研究などの人類史研究とともに新たな展開を見せつつある。本フォーラム(シンポジウム)では,基礎心理学と人類史研究(考古学,人類学など)との融合を意識した3名の講師をお迎えし,テキストマイニングを用いた基礎心理学から文化人類学への接近について(大塚氏),チンパンジーを対象とした研究に基づいたチンパンジーの認知的「のびしろ」について(山本氏),東南アジアの土器製作者の熟達化といった考古学者による心理学的身体性について(平川氏)講演を頂いた。心理学・霊長類学・考古学といった異なる学問的背景による講演であり,内容は全く異なるものであったが,心理学が人類史を視座とした展開がどのように可能なのか,進化の視点やコミュニケーション,教育といった側面への深い議論も行われた。
慶應義塾大学三田哲学会・連続講演
音としての「精神」――音楽を通して「近代」を再考する 第五回 知の泉
講師:仲道郁代(ピアニスト),斎藤慶典(慶應義塾大学文学部)
日時:令和2年4月23日(土) 14:00-16:30(開場13:45)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
主催:三田哲学会
参加方法:入場無料・申し込み制(詳しくはこちらのポスターをご覧ください)
講演会の概要:
「シェイクスピアの「テンペスト」とベートーヴェンが見出した生への問いと許し。
ポーランドに伝わる壮大な叙事詩とショパンの人生の重なり。
ダンテの「神曲」から描かれるリストの世界の理。
そして、死せる友人の絵の世界に見出したムソルグスキーの死者への呼びかけ。
作曲家がその音楽でもって立ち昇らせる概念。その音が満ちていく様は、「知の泉」ともいえるものだ。
音の渦の中に、生への定義が聴こえてくる
仲道郁代」
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演では「パッションと理性」「悲哀の力」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが取り上げられるが、その第五回となる今回は「知の泉」というタイトルの下で以下の四つの作品を取り上げる。
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」 Op.31-2
ショパン バラード第1番 Op.23
リスト ダンテを読んで S.161-7
ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」
(全曲の演奏はありません。)
講演会報告:
参加者数:約170名
講演会報告:最初に仲道より、今回のテーマ「知の泉」の狙いと、このテーマのもとに取り上げられる四つの音楽作品のそれぞれについて、ピアノ演奏を交えて講演が行なわれた。短い休憩をはさんで次は斎藤が、「知」という活動について、ベートーヴェンと同時代の哲学者I. カントと、現代フランスを代表する哲学者の一人G. ドゥルーズの考えを紹介しながら、考察を行なった。
あらためて休憩をはさんでの後半は、仲道と斎藤が、ベートーヴェンの第17番のピアノ・ソナタ『テンペスト』に即して、上記のそれぞれの講演内容を敷衍し、かつ具体化する仕方で立ち入った検討と対話を(ここでも仲道によるピアノ演奏を交えて)行なった。最後は、以上の議論を踏まえて同ソナタの第2楽章後半部が仲道によって演奏され、聴衆に大きな感銘を与えた。以下に、斎藤による講演のレジュメを参考までに添付する(譜例は省略)。
毎回新たなテーマを掲げて個別の音楽作品に即しつつ演奏家と哲学者が意見交換するこの試みも第五回の折り返し地点を迎え、前回にもまして主題を掘り下げることができ、また聴衆もその展開を最後まで熱心に見守った。
記憶の教育学:その理論と実践
講師:山名淳(東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)
日時:2022年3月12日(土)14:00-17:00
場所:Zoomによるオンラインリアルタイム形式での開催(詳細はこちらをご覧ください)
主催:三田教育学会
講演会の概要:
三田教育学会主催の講演会は教育学研究の促進を目指し、関心をともにする者の相互交流、意見交換を目的としています。本学の大学院生、およびその教員と卒業生で構成される三田教育学会が主体となり、教育に関する諸テーマについて、領域を超えた学際的な議論が展開されることを目指しています。
今回の講演会には東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授の山名淳氏をお招きし、「記憶の教育学:その理論と実践」という題目でご講演いただきます。山名氏の専門は教育哲学・思想史研究で、Bildung概念とその飜訳問題、都市と学校のアーキテクチャ問題、「新教育」の理論と実践などについて研究を行っておられます。近年は記憶と想起の教育学(メモリー・ペダゴジー)といった新たな領域の構想とともに、厄災と呼ばれる歴史的事象の記憶、想起、伝承について、理論的・実践的な研究を展開されています。本講演会では、これまでの研究活動に加え、山名氏の今後の構想について話を伺う予定です。
講演会報告:
ドイツの教育哲学、教育思想史をご専門とする山名淳氏に「記憶の教育学」というタイトルでご講演いただいた。社会学研究科教育学専攻の院生を中心に、学内外から25名の参加者があった。講演は前半と後半に分かれ、前半では「記憶の教育学」の理論的内容について、後半ではその実践例についてお話しいただいた。
理論的・抽象的な教育哲学研究を、実践的・具象的な教育実践に結びつけるために、山名氏はメモリー・スタディーズに着目する。自己の経験が表現され、それが集合的記憶として蓄積し、自己のさらなる経験を触発するという、自己と世界との循環関係を山名氏は想定し、集合的記憶をこの循環が成立するためのメディアとして位置づけている。後半では山名氏が構想する「記憶の教育学」の実践例として、カタストロフィーの記憶の継承をめぐるドイツの諸実践や、日本における「原爆の絵」プロジェクトなどが紹介された。
参加者からは、ドイツの文化科学研究における宗教の扱い、触発的想起にかかわる事実とフィクションとの違い、記憶の伝承の成功条件、脳科学的見地から見た場合の集合的記憶論の曖昧さなどについて、所定の時間を超えて活発な議論が交わされた。教育学の最新の動向に触れることのできる、貴重な講演会となった。
シンポジウム「ドゥルーズと法の問題──批判と創造──」
提題者:西川耕平(慶應義塾大学)
特定質問者:山森裕毅(大阪大学),小倉拓也(秋田大学)
コメンテーター:檜垣立哉(大阪大学),國分功一郎(東京大学),斎藤慶典(慶應義塾大学;総合司会)
日時:令和4年1月27日(木) 13:00〜16:00
場所:オンライン(下記のURLから事前登録するとリンクが送られます)
https://forms.gle/ngKjDHXqDd5TeVei8
参加資格:どなたでも登録できます
主催:三田哲学会
シンポジウムの概要:
本シンポジウムは、構造主義以後の現代フランス哲学界を牽引した哲学者の一人ジル・ドゥルーズ(1925-95)が、その活動の全時期にわたってさまざまな著作において論じた法をめぐる問題について、若手のドゥルーズおよびドゥルーズ=ガタリ(※)研究者三人を中心に議論を行ないます。具体的には、(1)ドゥルーズによって「法」や「道徳」に抗するとされる「倫理」の内実はどのようなものか、(2)ドゥルーズ=ガタリが提示する「欲望」と「社会」、そして「欲望」と「法」との関係はいかなるものか、(3)ドゥルーズ法哲学の核心である〈法実践知(jurisprudence)〉とはどのような構想か、そしてそれは人の生にいかなる肯定的な効果をもたらしうるのか、少なくとも以上三点が議論の争点となることが見込まれます。これらの論点について、提題者と特定質問者による発表ならびに相互間での討議の後、コメンテーターも加わって議論を行ない、さらにオンラインでの参加者からの質疑の時間を設けることで、ドゥルーズおよびドゥルーズ=ガタリ研究の専門家のみならず、広く多方面に開かれた議論が交わされることを期待しています。
※通例に倣って、ドゥルーズと精神分析家フェリックス・ガタリ(1930-92)が二人で書いた共著の著者名として、この「ドゥルーズ=ガタリ」という名称を用います。
リサーチとパフォーマンスについて「オバケ東京のためのインデックス」
2021年11月30日(火)14:00〜16:00
講師:佐藤朋子(2018年東京芸術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャー形式を用いた「語り」の芸術実践を行う)
場所:大学院棟347-A(三田哲学会会員のみ参加自由)
主催:慶應ABR 三田哲学会
講演会の概要:
リサーチとアートの関わりを、アーティスト側より問題化しつつ、芸術実践を行っている佐藤さんを講師にして、社会学においてアート的な実践を遂行することの意味を深く問題化する。とくに最新作の「オバケ東京のためのインデックス」をベースにして、過去のアート実践も紹介していただく。
参加者:7名
講演会の報告:レクチャー・パフォーマンスという表現形態、リサーチ形態の紹介から「オバケ東京のためのインデックス」という佐藤氏の作品を土台に行われた。ご本人が、港区のリサーチという具体的なプロジェクトをテーマにしたので、参加者のいろいろな提案が出された。また、社会学の研究プロセスとの類似や、並行性も議論され、新たなアカデミック技法としてのレクチャー・パフォーマンスの可能性も吟味された。
ワークショップ「来たるべき共同体――デリダのデモクラシー論と友愛論を基軸に」
2021年9月24日(金) 13:00〜15:30
講師:宮﨑裕助(専修大学),斎藤慶典(慶應義塾大学)
司会:合田正人(明治大学)
場所:オンライン
主催:三田哲学会
参加:下記のフォームから事前登録が必要です。
https://docs.google.com/forms/d/1HYzb-R-bWza-LhrCjHwZ3yCKPRY2v_P8WX_jt2xI-mQ/edit
講演会の概要:
共同体の在り方をめぐっては、古代ギリシアのプラトン、アリストテレス以来、中世、近代、そして現代の多くの哲学者たちがさまざまに思考し・検討を重ねてきました。現代フランスの哲学者ジャック・デリダもまたこれらの思考の長い伝統を引き受けつつ、「自己免疫」という独自の観点からそれらを解体・再構築しつつ、デモクラシーの批判的検討を試みました。本ワークショップではデリダのこの試みを中軸に据えて、二人の提題者が「来たるべき(à venir)」共同体について検討を行ないます。
斎藤慶典は、自著『私は自由かもしれない――〈責任という自由〉の形而上学』(慶應義塾大学出版会、2018年)の第4章「倫理は行為たりうるか――アレント」で「倫理」の不可視性とその擁護の可能性をめぐってアレントを批判的に検討し、それを承ける形で第5章「責任という自由――ハイデガーとレヴィナス」においてハイデガーとレヴィナスの共同体論を「自由」という「純粋な可能性」を基軸に検討し直しました。この作業を通じて形をなしつつある共同体の構想を、後期デリダのデモクラシー論とジャン=リュック・ナンシーの「無為の共同体」論をあらためて視野に入れつつ提示します。
宮﨑裕助は、自著『ジャック・デリダ──死後の生を与える』(岩波書店、2020年)の第9章「呼びかけとしての友愛、哀悼としての友愛」で検討したデリダの友愛論(『友愛のポリティクス』1994年)を出発点としつつ、アリストテレス、ニーチェ、アガンベンなどのテクストを通じて共通感覚論を捉え直す試みを提示します。その際フロイトに関してデリダが取り上げた「テレパシー」の概念を手がかりに、近接性を基準としない遠隔的な情動を通じた共同性の構築をどのように考えることができるかを探ります。
当日の進行は、まず前半に斎藤と宮﨑の二人が提題を行ないます。休憩を挟んでの後半は、合田正人による司会の下で「来たるべき共同体」をめぐって集中的な討議を行ないます。
本ワークショップは一般公開です。共同体について、あるいはデリダに関心のある方の参加を、心よりお待ちしております。
参加者数:150名
講演会報告:
最初に、司会の合田正人からジャック・デリダのデモクラシー論をめぐる現在の議論状況について、簡単な概観が提示された。
つづいて、斎藤慶典によって「自由と政治」と題された提題が行なわれた。この提題において斎藤は、「叡知界」における理念としての「自由」を根底に据えて「社会契約」を通じた「法」状態の設立に至るカントの議論から出発し、それが「到来する他者」にあくまで開かれ続けようとするデリダのデモクラシー論と接続する途筋を提示した。
これを承けて宮﨑裕助は、「来たるべき共感の共同体 シンパシー、エンパシー、テレパシー」と題して提題を行なった。この提題において宮﨑は、シンパシーに基づく共同体の孕む危うさを指摘すると共に、シンパシーをその一部として含むより中立的事態としてのエンパシーに基づく共同体の検討を経て、必ずしも共有にこだわらないテレパシーに立脚した共同体の可能性を提示した。
休憩をはさんで後半は、合田の司会の下、まず斎藤と宮﨑の間で、デリダのデモクラシー論と友愛論が共同体に対してとるスタンスをめぐって、議論が掘り下げられた。その後会場からは、斎藤・宮崎それぞれの立論の内容についてより詳しい説明を求める質問が提出され、民主主義をめぐる議論をより広い視野から深めることが出来た。熱心な討議が続けられたこともあって、予定より1時間ほど時間を延長した上でワークショップを終了した。
身体表現と音楽
2021年7月2日(金) 13:00〜15:00
場所:南校舎7階(参加自由)
主催:慶應ABR 三田哲学会
講師:原大介
2011 年〜avex 所属シンガーとユニットで活動。
2012 年〜クリエイティブダンスチーム、素我螺部(スカラベ)所属。
2014 年〜2018 年、静岡大学アートマネジメント力育成事業(文化庁助成・大学を活用した文化芸術推進事業) 舞踊部門補助講師。
2017 年〜大道芸ワールドカップ in 静岡出演。神戸文化ホール、グランシップ、 静岡県立美術館、NHK ホールなどで公演。その他ソロギタリストとしてライブ出演。
2019 年〜多目的スペース”ひかり市民センター”飲食店”園庭カフェ”運営。
2020 年〜”ひかり市民センター塾”開始
講演会の概要:
原さんは、ギタリストとして、さまざまな場面で活躍しております。今回は、身体表現を人が行う場合に、サウンドのもつ重要性を確認するため、参加者の表現に音をつけるという形式でのワークショップを予定しています。音楽のあるなしは、単なるBGMではなく、身体による表現が持つ多様な意味の次元を開発するものでもあるはずです。
講演会報告:
参加者は、自分自身のライフストーリーに準拠して、数分の朗読場面を作ります。その朗読のポイントを押さえながら、原さんは、その朗読にギターなどによる音楽を伴奏、BGMとして作ります。20名程の参加による小品が短時間で作成されました。自分の人生の一片を、朗読劇にして、さらに自分が思うピークに合わせて音楽が入る、その流れで、原さんによるワークショップは大成功でした。
三田社会学会シンポジウム 「青池先生と山岸先生を悼む〜あの頃の三田社会学」
2021年7月3日(土)15:20〜18:00
形式:ZOOMによるオンライン形式
主催:三田社会学会
共催:三田哲学会、慶應義塾大学大学院社会学研究科
参加費:無料
事前申し込み:必要。参加ご希望の方は、下記URLよりお申し込みください。前日にZoomの参加用URLをお知らせいたします。締切:6月30日(水)23時59分。https://forms.gle/Bg7LN7TiLymyqEv58
紛争後社会の葛藤と沈黙―ルワンダとウガンダにおける和解の可能性
日時:2021年7月10日(土)13:00〜16:15
形式:ZOOMによるオンライン研究会
主催:科研費基盤研究B「歴史研究の観点から見た現代アフリカの紛争」
共催:日本アフリカ学会関東支部例会、三田哲学会、慶應義塾大学人類学研究会
参加費:無料
事前申し込み:必要。参加をご希望の方は、下記URL先よりお申し込みください。締め切りは2021年7月7日(水)23時59分です。ただし定員に達し次第、申し込みは締め切ります。https://forms.gle/GTowbVZnvD5QZccUA
13:00-13:10 趣旨説明:佐川徹(慶應義塾大学)
13:10-13:55 近藤有希子(京都大学):「虐殺の残響―ルワンダ農村部において被害を語るということ」(仮)
13:55-14:05 休憩
14:05-14:50 川口博子(日本学術振興会/大阪大学):「ウガンダ北部紛争後の社会的秩序の再構成―アチョリにおける死をめぐる規範と葛藤」(仮)
14:50-15:05 武内進一(東京外国語大学):コメント
15:05-15:20 酒井朋子(神戸大学):コメント
15:20-15:30 休憩
15:30-16:15 総合討論
講演会報告:
研究会のテーマは、ルワンダとウガンダの紛争後の和解であった。移行期正義の教科書では、この二つの国は、ローカルな制度や慣習を取り入れながら紛争後の処理を進めた事例としてしばしば言及される。しかし、紛争後の日常生活において「加害者」と「被害者」がいかに同じ町や同じ村で生活を送り、「和解」を達成している/していないのかは、これまであまり明らかにされてこなかった。発表者の、近藤さんはルワンダで2010年から、川口さんはウガンダで2008年から、フィールド調査を続けて、紛争時に対立したり、引き裂かれることもあった人びとのその後の関係に注目した研究を進めてきた。両者の発表内容では、人びとは過去の経験を積極的に語るというよりも、語らない、沈黙する、紛争時の行為には明示的には触れない、他者の経験に踏み込まない、といった点が強調された。「語ること」を中心に置いた「和解」の考えからは、これらの営みは注目されない。発表後には、「語らない」ことによる和解や秩序の特徴とはなにか、家族やコミュニティレベルで達成される秩序が国家レベルの秩序といかなる関係にあるのか、といった質問がだされ、活発な議論がなされた。
参加者数:49名(オンライン開催のため、同時参加者数が最大だったときの数)
日本赤ちゃん学会第21回学術集会
プレコングレス:2021年6月11日 (金)
学術集会:2021年6月12日 (土)・13日(日)
主催:日本赤ちゃん学会(三田哲学会共催)
場所:ZOOMやGather.townを用いたオンライン形式
コミュニティと現代アート
講師:新井麻弓
日時:2021年6月1日(火) 14:00〜16:00
主催:慶應ABR 三田哲学会
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟343D
講演会の概要と補助申請の理由:
新井さんは、東京芸術大学後期博士課程にて博士号を2020年度に取得し、一貫して、コミュニティをテーマにして、コミュニティに関わる作品を発表している。その中では、作者自身が「なる」という体験を芸術実践として追究し、オートエスノグラフィーを博論では展開している。今回は、コミュニティ、他者、自己をテーマに、コミュニティ、社会に関わる芸術実践について講演をしていただく。
講演会報告
ご自身の作品紹介を中心に、博士論文の内容にふれつつ、アーティストとしての新井さん自身の多方面なアクションが話された。会場やオンラインでの参加者からは、作品のテーマになっている、コミュニティとの関わり、歴史や地理的な政治とのかかわり、グローバル化における中でのアーティストの役割や他者への介入、さらには、オートエスノグラフィという手法への、人類学や社会学からの質疑など、多岐に渡り議論が展開された。7月初旬にチューリッヒ大の研究員として活動するべく渡航する新井さんとのコラボは、今後の約束となった。
ダンス・セラピー
講師:鈴木信一(立教大学兼任講師、東洋大学国際哲学研究センター客員研究員)
日時:2021年5月25日(火) 14:00〜16:00
主催:慶應ABR 三田哲学会
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟343D
講演会の概要と補助申請の理由:
鈴木さんは、哲学的な基盤のもとダンス、身体動作に関して、研究と実践を行ってきました。今回は、ダンスセラピーという具体的な実践例の中で、人間の身体、自己、他者関係がいかに変容するのかに関して、講演していただきます。即興ダンスという出来事の効果を実証的に例解してもらいます。
報告:
鈴木さんは、ご自身の博論をベースにした著作『即興ダンスセラピーの哲学』を素材にして、舞踏系即興ダンスセラピー実践について、土方、大野の舞踏の議論から始め、何かしらの障害をかかえる人とのダンスワークショップでの出来事を詳細にご自身のモデルに応じて、議論をしてもらいました。参加者の中には、アートセンターで舞踏の研究及び実践をしている石本さんもいて、大学院生とともに活発な質疑応答がなされました。
音としての「精神」――音楽を通して「近代」を再考する 第四回 幻想曲の系譜
講師:仲道郁代(ピアニスト)・斎藤慶典(慶應義塾大学)
2021年4月21日(水) 16:30-18:30
主催:三田哲学会
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
事前登録:
https://peatix.com/event/1857162/view?k=4fcf54db165d64aba3d342289955e2a7dc6879c8
講演会の概要:
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演では「パッションと理性」「悲哀の力」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが取り上げられるが、その第四回となる今回は「幻想曲の系譜」というタイトルの下で以下の四つの作品を取り上げる。
フッサール時間論の再検討――反省論のアポリアをめぐって
問題提起:佐藤大介(岡山大学)・斎藤慶典(慶應義塾大学)
司会:植村玄輝(岡山大学)
日時:2021年3月12日(金曜日) 13:00-15:30
主催:三田哲学会
場所:オンライン(要・事前登録)
・以下のアドレスにアクセスし、必要事項を記入してくださいhttps://us02web.zoom.us/meeting/register/tZMrduugrz4pH9XyoGOYFmlZQdx6kpMEN5W3
・当日のZoom操作については、鈴木優花(yuuka.suuzuki@gmail.com)まで。
・お問い合わせは、斎藤慶典(keiten@keio.jp)まで。
・本ワークショップは、昨年3月に慶應義塾大学三田キャンパスで開催予定だったものを延期して、オンライン上で行なうものです。
概要:
フッサールが初期から晩年まで研究草稿を書き継いできた時間をめぐる考察は、「生き生きした現在の謎」(フッサール)の問題が提起されるに至って、意識対象の構成分析を手法とする現象学的反省理論の限界に関わるものと解釈されてきました。この解釈のドイツにおける代表的論者は Lebendige Gegenwart, 1966 の著者クラウス・ヘルト(Klaus Held)であり、我が国においては斎藤慶典らがその解釈を下敷きに現象学をエマニュエル・レヴィナスやジャック・デリダら戦後フランスのポスト構造主義哲学の問題圏へと展開しました(斎藤慶典『思考の臨界――超越論的現象学の徹底』、2000年、ほか)。
こうした動向に対して近年、佐藤大介(岡山大学)が「反省の問題は本当に問題なのか――フッサール初期時間論の再検討」(日本哲学会編『哲学』、第70号、2019年)などで精力的に反論を展開しています。そこで、この機会に佐藤と斎藤両者が直接に議論を交わすことで、フッサール現象学において何が起こっていたのか、そこで問題とすべきは何なのか、その問題の射程と展開の可能性はいかなるものなのか、といった点を参加者と共にあらためて考えるワークショップを企画しました。司会は、日本現象学会、フッサール研究会などで現代日本の現象学研究の活況を牽引する植村玄輝(岡山大学)が務めます。
ワークショップは、まず佐藤と斎藤がそれぞれ40分ずつ提題を行ないます。休憩を挟んで後半の一時間は、すべてを提題者と会場との議論に充てます。*****
教育経済学ことはじめ:教育学部生・教育現場が知っておいた方がいい経済学の考え方(2020年度 三田教育学会講演会)
講演者:赤林英夫氏(慶應義塾大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部経済研究所こどもの機会均等研究センター長)
日時:2021年3月13日(土)14時00分〜16時00分頃
主催:三田教育学会・三田哲学会共催
場所:オンライン(Zoom)
概要:
教育経済学についてなじみのない学生も考慮した、教育経済学の導入から説明し、全体としては教育学を学ぶ学生、教育現場で働く人にとって、経済学のどの部分をどの程度知っておいた方が良いか、という趣旨の講演を予定している。近年、教育経済学の研究成果は教育上の所謂「格差」問題の検討、さらには教育政策の有効性を検討する上でも重要な研究成果を生み出している。しかしながら、教育学の領域において教育経済学の知見は十分に検討されているとは言い難く、逆もまた然りであり、両学問分野の交流は不可欠である。本講演会では、教育経済学の第一人者である赤林英夫氏にご講演いただき、この問題について多面的な領域から議論する。
備 考:ZoomのミーティングURLは大会1週間前を目安に通知いたします。三田教育学会会員以外で聴講希望の方は、ポスター記載のメールアドレスにご連絡ください。
「暴力と形而上学」、あるいは思考と暴力――J. デリダ、E. レヴィナスと共に考える
提題者:鈴木康則(慶應義塾大学)
特定質問者1:亀井大輔(立命館大学)
特定質問者2:藤岡俊博(東京大学)
コメンテーター:合田正人(明治大学)、宮﨑裕助(新潟大学)、斎藤慶典(慶應義塾大学)
日時:2021年1月25日 13:00-16:00
主催:三田哲学会
場所:オンライン(要事前登録)
・以下のアドレスにアクセスし、必要事項の記入をお願いします。 https://zoom.us/meeting/register/tJMufuyhrjwrG9O93x3SZfePZ2_E7OElsg7T
概要:
本シンポジウムでは、デリダによるレヴィナス批判「暴力と形而上学」(初出・1964年)において論じられていた諸問題、すなわち「暴力」や「無限」、「他者」等の主題について、若手のデリダ研究者およびレヴィナス研究者三人を中心に議論を行なう。具体的には、(1)「倫理」や「厳命」といったデリダの概念がいかにして形成されたのか、(2)デリダおよびレヴィナスによる「暴力」概念の内実はどのようなものか、(3)「他者」ないし「無限」(限定=規定から身を引いてしまう者)と「暴力」の間にいかなる関係を設定しうるか、また設定すべきか、少なくとも以上三点が議論の争点となることが見込まれる。これらの論点についての提題者と特定質問者による発表ならびに相互間での討議の後、コメンテーターも加わっての総合的な議論を行ない、さらにオンラインでの参加者からの質疑の時間を設けることで、デリダとレヴィナス研究の専門家のみならず、広く多方面に開かれた議論が交わされることが期待される。
第73回美術史学会全国大会(三田哲学会共催)
日時:2020年12月12日(土)・13日(日) 両日とも10時30分?
ZOOMウェビナーを用いたオンライン形式による開催 (参加無料)
プログラム、研究発表要旨は、全国大会webサイトをご参照ください。
三田哲学会会員の方は、事前申し込みが必要です。大会サイトの「非会員向け参加申し込みフォーム」から「三田哲学会会員」をチェックの上ご登録ください。参加方法の詳細は大会サイトをご覧ください。
MIPS 2020 Onlineの開催について―三田哲学会 哲学・倫理学部門 例会
本年度のMIPSは新型コロナウィルス感染防止のため、以下の通りオンラインで実施いたします。
MIPS 2020 Online概要
開催期間:2020年12月13日(日)まで
開催HP:https://sites.google.com/keio.jp/mips
主催:三田哲学会、慶應義塾大学文学部哲学専攻・倫理学専攻
注意事項:原稿を読むことができるのは、MIPS会員とkeio.jpのアカウントをもつ方に限定しています。
音楽に生きる 2
講師:Lilly (リトルリリス)
日時:2020年7月16日(木) 15:00-16:30
場所:オンライン講演会
(参加希望者はメールをください、詳細を後日お知らせします。メールはこちらへ)
主催:慶應ABR、三田哲学会
講師プロフィール:
神奈川県鎌倉市出身。フェリス女学院中高から慶應義塾大学文学部へ進学。卒業後、化粧品会社、アパレル会社を経て未経験ながら芸能界へ。現在はガールズバンド「リトルリリス」のヴォーカル&バイオリンとして活動中。
講演会の概要:
本シリーズ「音楽を生きる」はオンラインによる講演会プラス演奏会という構成で実施されます。講師には単に音楽家、アーテイストとしての生だけではなく、大学生にとってのキャリア構想の一助になるべく、その人生や選択についても語っていただきます。そのため、講師には、分野や活動場所が異なり、かつ、文学部出身で音楽を生業にしている方に講師をお願いしています。
【講演会報告】
報告者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:音楽に生きる 2
講師:Lilly (リトルリリス)
日時:2020年7月16日(木) 15:00-16:30
場所:オンライン講演会
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者数:23名
講演会の報告:
当日は、ゼミの先輩として、女性のライフ選択という視点を打ち出しながら、それぞれの分岐点でどのように生きてきたかを情熱的に語っていただき、多くの学生が、自分と重ねて共感、多くの質問が出されることになりました。
音楽に生きる 1
講師:Hiroshi Murayama
日時:2020年7月9日(木) 16:00-17:30
場所:オンライン講演会
(参加希望者はメールをください、詳細を後日お知らせします。メールはこちらへ)
主催:慶應ABR、三田哲学会
講演会の概要:
本シリーズ「音楽を生きる」はオンラインによる講演会プラス演奏会という構成で実施されます。講師には単に音楽家、アーテイストとしての生だけではなく、大学生にとってのキャリア構想の一助になるべく、その人生や選択についても語っていただきます。そのため、講師には、分野や活動場所が異なり、かつ、文学部出身で音楽を生業にしている方に講師をお願いしています。村山君は独学のピアノで学生時代からライブ活動を行い、今は、パリで活躍しています。
【講演会報告】
報告者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:音楽に生きる 1
講師:Hiroshi Murayama
日時:2020年7月9日(木) 16:00-17:30
場所 オンライン講演会
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者:35名
講演会の報告:
村山浩くんは、学部卒業後の自分の人生の道筋を丹念に語ってくれた。国内で、それなりの実績をもち、また家族が増えたことを機会に、このある意味で安定した生活を捨てることが、ジャズマンとしての使命だと考え、海外に拠点を求めていくという生き方は、現役の学生にとっては衝撃的だったようだ。また、フランスに渡ってからの生活についても、ビザについても細かく説明をしてくれて、興味はつきなかった。参加者には、当時の学内バンドの先輩(お一人はアトランタから参加)や、同期の卒業生も顔を出してくれ、パリからの配信という華やかな講演会となった。
感情社会学とミュージカル演劇
講師:門脇幸
日時:2020年7月2日(木) 13:00-15:00
場所:オンライン講演会
(参加希望者はメールをください、詳細を後日お知らせします。メールはこちらへ)
主催:慶應ABR、三田哲学会
講師プロフィール:
14歳で単身上京。ミュージカル「アニー」ジュリー役でデビュー。その後フリーでの活動を経て劇団四季へ。退団後、地元高知県で3歳からのエンターテイメントスクールを開校。後進の育成、ミュージカル制作、映画制作等に関わる。2019年一般社団法人日本市民ミュージカル協会を設立し代表理事となる。2020年青山学院大学大学院総合文化政策学研究科を卒業。修士論文は「「市民参加型」舞台芸術が市民にもたらす影響の研究??長野県佐久市コスモホールのケーススタディ」
講演会の概要:
門脇さんは、以下のリストのように、子役からミュージカル俳優として活躍、現在は市民ミュージカルの普及を目的にした団体を率いています。今回は、感情社会学の知見を土台にして、ミュージカル特有の演劇的表現について、参加者と共にワークショップ形式で考えていきます。
【講演会報告】
報告者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:感情社会学とミュージカル演劇
講師:門脇幸
日時:2020年7月2日(木) 13:00-15:00
場所:オンライン講演会
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者:28名
講演会の報告:
門脇さんは、まずは、日本のミュージカルの歴史を概観し、現在の状況についても触れ、コロナ時代における舞台芸術のありようについても発言。その後は、準備された、詩、楽譜、カラオケを使って、参加者を二つのグループに分けて、それぞれが所定の箇所に自らの言葉を埋めることで、一つのミュージカル作品をそれぞれのグループに作らせた。最後に、その作品を公演するということを短時間のうちに成し遂げました。Zoomというオンライン会議のシステムを使いながら、参加者は、ミュージカルを上演することを楽しめた。
感情社会学と身体表現
講師:関根淳子(舞台女優、演出家。SPAC静岡県舞台芸術センター所属。劇団音乃屋を主宰。生演奏と演劇による「音楽物語」、朗読、ワークショップ講師)
日時:2020年6月25日(木) 13:00-15:00
場所:オンライン講演会
(参加希望者はメールをください、詳細を後日お知らせします。メールはこちらへ)
主催:慶應ABR、三田哲学会
講演会の概要:
関根さんは、静岡のSPACでは世界的な評価を得たマハバーラタに出演するなど、舞台での女優としての活躍の他に、自らの劇団でも「羽衣」など上演しています。地域、学校でのワークショップにも定評があります。今回は、感情社会学の知見を土台にして、演劇的身体とは、演劇的声とは、そもそも演劇的な表現とは何であるかを、参加者と共にワークショップ形式で考えていきます。
【講演会報告】
報告者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:感情社会学と身体表現
講師:関根淳子
日時:2020年6月25日(木) 12:45-14:40
場所:オンライン講演会
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者:26名
講演会の報告:
関根さんは、静岡のSPACでは世界的な評価を得たマハバーラタに出演するなど、舞台での女優としての活躍の他に、自らの劇団でも「羽衣」など上演しています。地域、学校でのワークショップにも定評があります。今回は、感情社会学の知見を土台にして、演劇的身体とは、演劇的声とは、そもそも演劇的な表現とは何であるかを、オンラインで参加者と共に考えました。
特に、関根さんの最近の活動フィールドである「当事者演劇」についての説明が、豊富な映像資料と共に展開され、参加者からは熱心な質問がなされ、一つ一つに丁寧なコメントを関根さんが返すことで、濃密なオンライン空間になった。
演劇的であること
講師:柏木陽
日時:2020年6月20日(土) 11:00-13:00
場所:オンライン講演会
(参加希望者はメールをください、詳細を後日お知らせします。メールはこちらへ)
主催:慶應ABR、三田哲学会
講師プロフィール:
1993年、演劇集団「NOISE」に参加し、演出家・劇作家の故・如月小春とともに活動。2003年にNPO法人演劇百貨店を設立し、代表理事に就任。全国各地の劇場・児童館・美術館・学校などで、子どもたちとともに独自の演劇空間を作り出している。近年の主な仕事に、兵庫県立こどもの館での中高生との野外移動劇創作、世田谷パブリックシアター「先生のためのワークショップ 教えるヒント」、渋谷区立臨川小学校での障害児との演劇創作など多数。
講演会の概要:
柏木さんは、長年にわたり、舞台上の演劇にこだわらず、地域での演劇ワークショップを実践してきました。今回は、オンラインという非身体的とも言えるツールを使い、参加者がいかに「身体的」に、そして他者の身体と「触れ」ながら、演劇実践が可能であるのかを問い直す実験的な試みとなります。
【講演会報告】
報告者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:演劇的であること
講師:柏木陽
日時:2020年6月20日(土) 9:00-11:00
場所:オンライン講演会
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者:15名
講演会の報告:
今回は、オンライン講演会、それも演劇ワークショップとして実施されました。柏木さんは、長年にわたり、舞台上の演劇にこだわらず、地域での演劇ワークショップを実践してきました。今回は、オンラインという非身体的とも言えるツールを使い、参加者がいかに「身体的」に、そして他者の身体と「触れ」ながら、演劇実践が可能であるのかを問い直す実験的な試みとなります。
各参加者に、指示した物品を部屋から探す、しりとり、ジェスチャーのしりとり、などのワークショップをzoomでつながった参加者どうしで、実行したのですが、参加者の関わりは想像以上に身体的であり、また通常のzoomでは一対多となる関わりが、一対一の関わりになる可能性も見え、オンラインでの作業に色々と可能性を見出しました。
【延期】教育経済学ことはじめ〜教育学部生・教育現場が知っておいた方がいい経済学〜
講師:赤林英夫(慶應義塾大学経済学部)
日時:2020年3月14日(土)14:30-16:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎4階 433番教室
主催:三田教育学会・三田哲学会共催
講演会の概要:
教育経済学についてなじみのない学生も考慮した、教育経済学の導入から説明し、全体としては教育学を学ぶ学生、教育現場で働く人にとって、経済学のどの部分をどの程度知っておいた方が良いか、という趣旨の講演を予定。
近年、教育経済学の研究成果は教育上の所謂「格差」問題の検討、さらには教育政策の有効性を検討する上でも重要な研究成果を生み出している。しかしながら、教育学の領域において教育経済学の知見は十分に検討されているとは言い難く、逆もまた然りであり、両学問分野の交流は不可欠である。本講演会では、教育経済学の第一人者である赤林英夫教授にご講演いただき、この問題について多面的な領域から議論する。
一般財団法人地域創造における調査研究活動
講師:佐藤良子(一般財団法人地域創造)、三田真由美(一般財団法人地域創造)
日時:2020年2月29日(土)10:00-
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 第一校舎4階 141-A教室
主催:中尾 知彦 研究会
講演会の概要:
芸術産業についての調査・研究をする主体は、大学他の研究機関、業界団体professional association、政府機関government agencyなど様々あるが、日本ではそれぞれが行っており、各々の特性を活かした分担や連携がされているとは言い難い現状がある。本講演会では、一般財団法人地域創造の佐藤良子先生と三田真由美先生をお招きし、地域創造の調査研究活動を中心に、事業の概要やこれまでの変遷をご報告いただくと共に、情報共有と体系的な調査の可能性を議論する。
【延期】ワークショップ「フッサール時間論の再検討――反省論のアポリアをめぐって」
講師:佐藤大介(岡山大学)
日時:2020年3月14日(土)10:30-13:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎4階 443番教室
主催:三田哲学会
講演会の概要:
フッサールが初期から晩年まで研究草稿を書き継いできた時間をめぐる考察は、「生き生きした現在の謎」(フッサール)の問題が提起されるに至って、意識対象の構成分析を手法とする現象学的反省理論の限界に関わるものと解釈されてきた。この解釈のドイツにおける代表的論者は Lebendige Gegenwart, 1966 の著者クラウス・ヘルト(Klaus Held)であり、我が国においては斎藤慶典らがその解釈を下敷きに現象学をエマニュエル・レヴィナスやジャック・デリダら戦後フランスの構造主義以後の哲学の問題圏へと展開した(斎藤慶典『思考の臨界――超越論的現象学の徹底』、2000年、ほか)。
こうした動向に対して近年、佐藤大介(岡山大学)が「反省の問題は本当に問題なのか――フッサール初期時間論の再検討」(日本哲学会編『哲学』、第70号、2019年)などで精力的に反論を展開している。そこでこの機会に佐藤と斎藤両者が直接に議論を交わすことで、フッサール現象学において何が起こっていたのか、そこで問題とすべきは何なのか、その問題の射程と展開の可能性はいかなるものなのか、といった点を参加者と共にあらためて考えるワークショップを開催したい。司会は、フッサール研究会などで現代日本の現象学研究の活況を牽引する植村玄輝(岡山大学)が務める。
ワークショップは、まず佐藤と斎藤がそれぞれ40分ずつ提題を行なう。休憩を挟んで後半の一時間は、すべてを提題者と会場との議論に充てる。
Robotics and AI through the lens of sociology
講師:Dr Eric Hsu(Lecturer in Sociology at the University of South Australia)・佐々木剛二(慶応義塾大学SFC上席研究員)
日時:2020年1月14日(火) 18:10-19:50
場所:三田キャンパス 南館5階会議室
講演会の概要:
デジタル情報技術革新が日本を含む先進諸国に限らず、かつての「未開」民族集団が居住する現地にも大きな影響を与えて、文化・コミュニケーション・社会関係の変容、グローバル・ローカルなデジタル経済・プラットフォーム経済の地殻変動が現れています。それに伴い集団意識がいわばネットワーク化気象流動(スケイプ)化し、複雑な動きをみせています。これらは、グローバル化した情報化社会が次の段階に進む移行期の現象として捉えうる面があると思われますが、この移行期に特徴的な情報技術・科学技術の類型があり、この類型に立脚して、<AI><ロボット>が重要性をもっていく現実があります。この状況に照らし<AI><ロボット>をどのように導入・実装していくのか、という問題がこの移行期に非常な社会科学的問題を投げかけていると思われます。
このような捉え方・枠組みに立って、今回は、産業の現場およびケアの現場でのAIとロボット使用の進展の事例研究をふまえた研究会を行います。
プログラム:
Robotics and AI through the lens of sociology
18:10-18:55 Robotics and AI through the lens of sociology: Dr Eric Hsu (Lecturer in Sociology at the University of South Australia)
19:00-19:20 文化人類学の視点から:(佐々木剛二・慶応義塾大学SFC上席研究員)
19:20-19:45 質疑と補足、会場討論
19:45-19:50 まとめと論点展望:宮坂敬造 (東京通信大学・文化人類学、慶應義塾大学名誉教授)
*セミナー講演は英語ですが、学部学生の方などの参加者のために、必要があれば日本語抄訳まとめの提供および日本語での質疑が可能です。
【講演会報告】
報告日:2020年1月17日
報告者:佐川徹(人間科学専攻)
講演タイトル:Robotics and AI through the lens of sociology
講師:Dr Eric Hsu(Lecturer in Sociology at the University of South Australia) 、佐々木剛二(慶応義塾大学SFC上席研究員)
日時:2020年1月14日(火) 18:10-19:50
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南館5階会議室
参加者数:7名
講演会報告:
Hsu氏の発表では、社会生活にロボットが浸透している現代世界において、ロボットと人間との関係をいかに社会学的に取り扱うことができるかについての理論的検討がなされるとともに、ロボット開発者らに対する興味深いインタヴュー結果が紹介された。Hsu氏の発表に対しては、佐々木氏から文化人類学的視点による刺激的なコメントがなされ、またこのコメントに刺激される形で、総合ディスカッションでも有意義な議論がかわされた。
【中止】医療と人文社会科学の架橋に向けて16:『病いは物語である』
The 16th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine: Illness is Narrative
日時:2020年2月23日(日)12:15-18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館3階大会議室
参加者:研究者・医療関係者
参加費無料 事前登録必要 転送自由
日本に早くから医療人類学・多文化間精神医学を紹介し、アーサー・クラインマンらの翻訳者としても知られ、精神医療の文化性と既存の科学的世界観を揺さぶる語りの力を論じてこられた江口重幸先生が、『病いは物語である』を刊行されました。これを記念し、統合失調症の分子生物学研究の世界的権威であり、近年は当事者研究にも関与されている糸川昌成先生、『居るのはつらいよ:ケアとセラピーについての覚書』で2019年大佛次郎論壇賞を受賞された気鋭の若手心理学者・東畑開人先生、ガタリ等フランス現代思想から出発し、ポストフクシマ社会と地球環境の問題にも取り組まれている村澤真保呂先生をお迎えして、医療と人文社会科学をつなぐアプローチの探究を試みたいと思います。
プログラム:
13:30-13:40 Introduction
13:40-14:40 江口重幸 (一般財団法人精神医学研究所附属 東京武蔵野病院 名誉副院長 精神医学)
Shigeyuki Eguchi (Vice President Emeritus, Tokyo Musashino Hospital, Psychiatry)
病いは物語であるのか?:文化精神医学・医療人類学・民俗学という磁場
14:40 break
14: 50-15:50 糸川昌成 (東京医学総合研究所副所長 精神医学)
Masanari Itokawa (Deputy Director General, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science, Psychiatry)
心はどこまで脳なのだろうか ー 分子生物学が語る心の起源 ー
16:00-16:45 東畑開人 (十文字女子学園大学准教授 臨床心理学)
Kaito Tohwata (Associate Professor, Jumonji Gakuen University, Clinical Psychology)
今、心の臨床に文化は存在しているのか?
16:45- 17:30 村澤真保呂 (龍谷大学教授 社会学)
Mahoro Murasawa (Professor, Ryukoku University, Sociology)
環境問題と精神疾患ー里山研究から
17:30-18:00 総合討論: 司会 北中淳子(慶應義塾大学教授 医療人類学)
講師略歴:
江口重幸:
1951年東京生まれ。精神科医。1977年東京大学医学部医学科卒業。長浜赤十字病院,都立豊島病院を経て,1994年から現在の東京武蔵野病院に勤務する。憑依の民族誌的調査からはじまり,臨床精神医学,文化精神医学,医療人類学,力動精神医学史に関心をもつ。
糸川昌成:
1989年埼玉医大卒、東京医科歯科大学精神科入局、筑波大学遺伝医学教室、東大脳研生化学、米国NIH、理研分子精神科学研究チームを経て、2001年より東京都医学総合研究所(2011年に東京都精神研から合併)
東畑開人:
1983年東京生まれ。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学。京都大学教育学部卒、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。沖縄の精神科クリニックでの勤務を経て、現在、十文字学園女子大学准教授。「白金高輪カウンセリングルーム」開業。博士(教育学)・臨床心理士。著書に『野の医者は笑う - 心の治療とは何か』(誠信書房2015)『日本のありふれた心理療法 - ローカルな日常臨床のための心理学と医療人類学』(誠信書房2017)。「居るのはつらいよ - ケアとセラピーについての覚書」(医学書院 2019)で2019年大佛次郎論壇賞を受賞。訳書にDavies『心理療法家の人類学 - 心の専門家はいかにして作られるのか』(誠信書房 2018)。
村澤真保呂:
1991年京都大学文学部卒、新聞社勤務を経て、2001年京都大学大学院人間・環境学研究科(精神分析)博士後期課程単位取得退学、2002年より龍谷大学社会学部教員。2010年より一年間パリ8大学客員研究員。2015年より里山学研究センター副所長。
ご質問等は、北中淳子までご連絡ください。
本講演会は、科研費基盤研究(C) 19K01205、論理と感性グローバル研究センター、三田哲学会の助成を受けています。
インドネシア・ジャワにみる高齢者ケアの諸相
講師:合地幸子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー、東洋大学アジア文化研究所客員研究員)
日時:2020年1月30日(木)18:00-20:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎312教室
概要:
人口高齢化の伸展する日本では、高齢者介護の担い手不足が深刻な問題となっており、それを補完するために政府は東南アジアを主とする外国からの介護人材受け入れを強化しつつある。その一方で、彼・彼女らの母国における高齢者ケアの状況はあまり知られていない。本講演では、これまでに行ってきた研究に基づき、インドネシア・ジャワにおける高齢者ケアのあり方について紹介する。従来の研究では、ケアという行為を前提として、親族の中の誰がケアを担うのか、あるいは、ケアする・されるという医療化された関係を通して、そこに関わる人びとの関係性が分析されてきた。それに対して、本研究はジャワの人びとに非常に重要視されている「そばに居る」というその場を共有する状況に注目する。高齢者と家族や社会との関係は、狭義の高齢者ケアに限定されない、広い幅の変化をともなった一連のつながりである。そばに居るという観点からより広い社会文脈の中で人びとの相互関係を見ることによって、ケアのみを切り取ることなく、一連のつながりの中で高齢者の生き方を検討する。本講演では、高齢者ケアの文化的差異への理解を深める一つの手がかりを提示したい。
講師プロフィール:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー、東洋大学アジア文化研究所客員研究員。専門はインドネシア地域研究、文化人類学。2009年からインドネシア共和国ジョグジャカルタをフィールドとして、高齢者ケアに関わる調査を実施している。主な著書に、「高齢者ケアと現代ジャワの家族 - ンガンチャニ(そばに居る)ということの社会的動態」(東京外国語大学2019年度学位論文)、「老親扶養をめぐる規範を問い直す - インドネシア・ジャワにおける高齢者福祉施設を事例として」(速水洋子編『東南アジアにおけるケアの潜在力 - 生のつながりの実践』京都大学学術出版会、2019年)、「インドネシア・ジョグジャカルタに見る職業的介護者の誕生と可能性 - プラムルクティ(Pramurukti)研修を通して - 」(『東南アジア - 歴史と文化』44: 101-119、2015年)など。
【講演会報告】
報告日:2020年1月31日
報告者:三尾裕子(社会学専攻)
講演タイトル:インドネシア・ジャワにみる高齢者ケアの諸相
講師:合地幸子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー、東洋大学アジア文化研究所客員研究員)
日時:2020年1月30日(木) 18時00分-20時20分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス大学院校舎 312教室
講演会報告:
本講演では、合地先生が2009年から継続的に現地調査を行ってこられたインドネシア・ジャワにおける高齢者ケアのあり方が論じられた。まず、高齢者のケアについての先行研究を、1980年代に主にジェンダー研究の文脈の中で生まれてきたそれに遡りながら紹介し、従来の研究が、ともすればケアする・されるという医療化された関係に偏った形で、そこに関わる人びとの関係性が分析されてきたことが指摘された。それに対して、合地先生はジャワの人びとに非常に重要視されている「そばに居るngancani」というその場を共有する状況に注目し、高齢者と家族や社会との関係が、狭義の高齢者ケアに限定されない、広い幅をともなった一連のつながりであることを指摘した。具体的な事例としては、ジャワの村落において、独居の高齢者のみまもりや、病院から退院してきた高齢者への見舞の行為を通して、「そばに居る」という観点からより広い社会文脈の中で人びとの相互関係を見ることによって、高齢者のケアがなされていることが描き出された。
ご発表の後には、フロアから、ケアや死生観に関する考え方とジャワの神秘主義的な観念やイスラームとの関連性について、また、コミュニティにおける介護のありかたと国家の福祉政策の方向性との関連など、様々な側面から質疑がなされ、活発な議論が交わされた。
なお、今回の講演会は、「慶應塾大学人類学研究会」との共催で行われた。
ベルクソンと自由 - 時間・空間から自由へ -
提題者:岡嶋隆佑(慶應義塾大学)藤田尚志(九州産業大学)木山裕登(東京大学)
コメンテーター:杉山直樹(学習院大学)平井靖史(福岡大学)柏端達也(慶應義塾大学)斎藤慶典(慶應義塾大学)
日時:2020年1月17日(金)15:00-18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 第一校舎 101番教室
概要:本シンポジウムは、初期ベルクソン哲学において提起された時間論・空間論が自由の問題をその中心に伏在させていた点をめぐって、気鋭のベルクソン研究者三人を中心に議論を行なう。具体的には、(1)第一の主著である『意識に直接与えられたものについての試論』で提示された「表現としての自由」という構想は第二の主著『物質と記憶』においていかにして継承されたのか、(2)『物質と記憶』の知覚論と(3)記憶論は、それぞれ、前著における「空間」や「時間」の理解をどのように発展させたものであるかといった問題が争点となる。これらの論点について提題者間で発表・討議が行なわれた後、コメンテーターも参加して議論を現代自由論の観点から一層深めることを試みる。その後さらに来場者からの質疑の時間を設けることで、ベルクソン研究の専門家のみならず広く多方面に開かれた議論の場となることを期す。
【講演会報告】
報告日:2020年1月20日
報告者:斎藤慶典(哲学専攻)
講演タイトル:ベルクソンと自由??時間・空間から自由へ
講師:岡嶋隆佑(慶應義塾大学)、藤田尚志(九州産業大学)、木山裕登(東京大学)
日時:2020年1月17日(金) 15:00-18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 第一校舎 101番教室
参加者数:約50名
講演会報告:
本講演会(公開シンポジウム)前半は、初期ベルクソン哲学において提起された時間論・空間論が自由の問題をその中心に伏在させていた点をめぐって、気鋭のベルクソン研究者三人(岡嶋隆佑、藤田尚志、木山裕登)による提題と討議を行なった。
そこで論じられた内容を具体的に述べると、(1)第一の主著である『意識に直接与えられたものについての試論』で提示された「表現としての自由」という構想は第二の主著『物質と記憶』においていかにして継承されたのか、(2)『物質と記憶』の知覚論と(3)記憶論は、それぞれ、前著における「空間」や「時間」の理解をどのように発展させたものであるか、といった問題である。
これらの論点について提題者間で発表・討議が行なわれた後、休憩を挟んだ後半においてはコメンテーター(杉山直樹・学習院大学、平井靖史・福岡大学、柏端達也・慶應義塾大学、斎藤慶典・慶應義塾大学)も参加して、議論を現代自由論の観点から一層深めることを試みた。その後さらに来場者からの質疑の時間を設け、ベルクソン研究の専門家のみならず広く多方面に開かれた活発な議論の場となった。
医療と人文社会科学の架橋に向けて14「技術への期待:バンコクにおける高層ビル、移民労働者、ディストピア」
講師:Daena A. Furuhashi(カリフォルニア大学バークレー校人類学部講師)
日時:2019年12月5日(木) 11:00-13:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎353a
参加者:研究者・医療関係者
言語:英語と日本語
参加費無料 事前登録必要(北中淳子までご連絡ください)
講演会の概要:
カリフォルニア大学バークレー校人類学部のデイナ・フナハシ先生は、フィンランドのストレス管理のテクノロジーについて人類学的研究を行ってこられました。今回のご講演ではタイにおける建設現場でカンボジアからの移民労働者に対して、メタンフェタミンが使用されている状況についてご報告いただきます。この覚醒剤は眠気を覚まし、疲れを感じさせなくさせる薬として20世紀日本でも「ヒロポン」として知られ、戦時中の兵士の士気高揚のために用いられました。戦後復興期には、芸能界や文壇のみならず、安価な労働力を確保し、かつ能率向上を目指す薬物として爆発的流行を見せます。ただし日本では、その依存性・有害性が問題となり、厚生省が劇薬に指定する中で、社会現象としての流行は収束していったという歴史があります。現在でも、仕事の効率を上げる、創造性を高めるといった目的のための覚醒剤使用は世界の各地でみられ、特に21世紀の転換期からは様々な向精神薬が本来の(病的症状を抑えるという)使用目的を超えで幅広い年齢層・階層に用いられていることを考えると、タイの状況は決して特殊な事柄ではないでしょう。薬物をめぐるこのようなグローバルな状況を踏まえ、フナハシ先生には労働とグローバルヘルスに関するこれまでのご研究をご紹介いただき、労働の限界を乗り越えるために生み出された化学物質と人間の相互作用について、人類学的考察を行っていただきます。
本講演会は、科研費 基盤研究(C) 19K01205の助成を受けています。
【講演会報告】
報告日:2019年12月11日
報告者:北中淳子(人間科学専攻)
講演タイトル: 医療と人文社会科学の架橋に向けて14「技術への期待:バンコクにおける高層ビル、移民労働者、ディストピア」
講師:Daena A. Funahashi (カリフォルニア大学バークレー校人類学部講師)
日時:12月5日(木)11:00-13:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス南校舎353A
参加者数:12名(内1名東京、1名サンディエゴからスカイプ参加)
講演会報告:
カリフォルニア大学バークレー校人類学部のデイナ・フナハシ先生は、フィンランドのストレス管理のテクノロジーについて人類学的研究を行ってこられました。今回のご講演ではタイにおける建設現場で、カンボジアからの移民労働者に対してメタンフェタミンが使用されている状況についてご報告いただきました。この覚醒剤は眠気を覚まし、疲れを感じさせなくさせる薬として20世紀日本でも「ヒロポン」として知られ、戦時中の兵士の士気高揚のために用いられました。戦後復興期には、芸能界や文壇のみならず、安価な労働力を確保し、かつ能率向上を目指す薬物として爆発的流行を見せました。ただし日本では、その依存性・有害性が問題となり、厚生省が劇薬に指定する中で、社会現象としての流行は収束していったという歴史があります。フナハシ先生はそういった薬の歴史に触れるとともに、現在でも、仕事の効率を上げる、創造性を高めるといった目的のための覚醒剤使用は世界の各地でみられ、特に21世紀の転換期からは様々な向精神薬が本来の(病的症状を抑えるという)使用目的を超えで幅広い年齢層・階層に用いられている状況についても、論じられました。薬物をめぐるこのようなグローバルな状況を踏まえ、フナハシ先生は、実際にカンボジアで撮られた映像をみせてくださり、そこでのローカルとグローバルな資本の拮抗や、移民労働や薬物に対する人々の態度、さらには労働の限界を乗り越えるために生み出された化学物質と人間の相互作用について、人類学的考察を行ってくださいました。慶應の院生・学部生のみならず、スタンフォード大学のOwen Modeste先生、筑波大学人類学の照山絢子先生、法政大学医学史のJulia Yongue先生、東京通信大学の櫛原克哉先生と、スカイプでカリフォルニア大学サンディエゴ校博士課程のRamsey Ismail氏も参加し、きわめて活発な議論となりました。
パフォーマンス・アートのワークショップ
講師:霜田誠二(ニパフ代表、アーティスト)
日時:2019年10月31日(木) 15:00-17:30
場所:慶應ABR、三田哲学会
主催:三田哲学会
講演会の概要:
霜田さんは、1960年代より、日本におけるパフォーマンス・アートの第一人者として活躍、海外における美術展への招待は、年間5回以上、また海外でのワークショップも重ねています。国内では、日本パフォーマンスフェスティバル(ニパフ)を主宰し、アジアやヨーロッパからアーティストを招待して、毎年数回のフェスティバルを開催しています。今回は、パフォーマンスアートに関するワークショップを実施してもらいます。身体を使う芸術による多様な気づきが期待されます。
【講演会報告】
報告日:2019年11月8日
申請者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:パフォーマンス・アートのワークショップ
講師:霜田誠二(ニパフ代表、アーティスト)
日時:2019年10月31日(木) 15時?17時半
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457番及び中庭
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者:31名
講演会の報告:
霜田さんは、独特の技法で、行為芸術のワークショップを世界各地で行っているが、今回も、コピー用紙、新聞紙を参加者に配布し、5分、2分、1分のパフォーマンスを行わせるというワークショップであった。その前に、教室では霜田さん自身が参加した国外のパフォーマンスアートワークショップの映像を見ることで、初心者には、現代アートの範疇であるパフォーマンスの概要が知らされた。中庭で行われたパフォーマンスの実践では、それぞれ独特の用法を、配布された紙や自分の身体、さらにはキャンパスという空間に適用した参加者が多く。いわば、身体を使ったリサーチの展覧会のようであった。
身体表現のワークショップ
講師:関根淳子(舞台女優、演出家)
日時:2019年10月17日(木) 15:00-17:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457番
主催:慶應ABR、三田哲学会
講演会の概要:
関根さんは、静岡のSPACでは世界的な評価を得たマハバーラタに出演するなど、舞台での女優としての活躍の他に、自らの劇団でも「羽衣」など上演しています。地域、学校でのワークショップにも定評があります。今回は、演劇的身体とは、演劇的声とは、そもそも演劇的な表現とは何であるかを、参加者と共にワークショップ形式で考えていきます。
【講演会報告】
報告日:2019年10月18日
報告者:岡原正幸(社会学専攻)
講演タイトル:身体表現のワークショップ
講師:関根淳子(舞台女優、演出家。SPAC静岡県舞台芸術センター所属。劇団音乃屋を主宰。生演奏と演劇による「音楽物語」、朗読、ワークショップ講師)
日時:2019年10月17日(木) 15時?17時半
場所 慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457番
主催:慶應ABR、三田哲学会
参加者:35名
講演会の報告:
関根さんは、静岡のSPACでは世界的な評価を得たマハバーラタに出演するなど、舞台での女優としての活躍の他に、自らの劇団でも「羽衣」など上演しています。地域、学校でのワークショップにも定評があります。今回は、演劇的身体とは、演劇的声とは、そもそも演劇的な表現とは何であるかを、参加者と共にワークショップ形式で考えていきました。
まず軽い身体のワークから始まり、次に関根さんが実演(鬼子母の愛)する。その後、幾つかのチームに分かれ、台本を選ぶ、台本はギリシャ悲劇、インド演劇、シェークスピア、三島由紀夫、そして、現代劇、中には、2019年に執筆された「福島三部作」などがある。
その台本を、各チームが、身体所作、動き、表情、セリフ、音楽、などを考えながら上演作品にします。最後に各チームの上演発表会と振り返りのトークを行うことで終了しました。
アナログゲームの療育への活用
講師:松本太一(アナログゲーム療育アドバイザー)
日時:2019年10月8日(火)16:30-18:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 第一校舎131B教室
主催:三田哲学会
講演会の概要:
アナログゲームが近年隆盛の一途をたどっている。ゲームのプレーヤーはアナログゲームのプレイを通じて,ゲーム自体やそのルールに包含される問題構造を理解し,それを現実問題の理解やその解決に向けた行動変容に展開できる可能性をもっている。松本太一氏は,カードゲームやボードゲームを用いて発達障害のある人たちのコミュニケーション能力を伸ばす「アナログゲーム療育」を独自に開発し,療育機関や就労支援機関などで実践を行ってきている。同氏は,こうした取り組みに関し,各地で講演会や研修会を開催している。今回は同氏に,アナログゲームの実演を交えた独自の発想を共有し,アナログゲームの活用を会員の関心に応じてどのように活用できるかについて議論を促す機会を提供いただく。
【講演会報告】
報告者:杉浦淳吉(社会学専攻)
講演タイトル:アナログゲームの療育への応用
講師:松本太一氏、アナログゲーム療育アドバイザー
日時:2019年10月8日 16:30-18:45
場所:慶應義塾大学三田キャンパス131B教室
参加者数:19名(会員17名、非会員2名)
講演会報告:松本太一先生(アナログゲーム療育アドバイザー)に演習を含む講演をいただいた。文学部社会学専攻の学生15名と教員2名,文学部通信教育課程の学生1名,商学部の教員1名の計19名が参加した。演者から,専門領域の紹介からはじまり,アナログゲームを療育に応用することの意義や方法などについて講義があった。今回は特に,小学生の時期に対象を絞り,「見通しを立てる」「他者の視点」の2点が中心的テーマとして取り上げられた。前者については「すすめ!海賊さん」により2人1組でゲームを体験し,後者については「じっくりミレー」を6人1組(計3組),および「ヒットマンガ」を9人1組(計2組)で体験した。ゲーム体験後に,それぞれのゲームで何が学べるのかなどディブリーフィングが行われ,ADHDやASDの児童がこれらのゲームをプレイした際の反応などについて紹介された。以上のゲームの実演を含む講義内容は,療育に限ったことではなく,一般の大人にも通じる内容であることなどが,講義後の参加者による討論によって共有された。討論は時間内におさまらず,時間を15分延長して行われた。終了後には討論で発言しきれなかった文学部の学生による講演へのコメントが寄せられ,それをもとにコメント集が作成された。
ジョスラン・ブノア教授 哲学ワークショップ
講師: ジョスラン・ブノア(Jocelyn Benoist)教授(パリ第1大学哲学科教授)を含む7人のゲスト講演者
日時: 2019年6月2日(日) 10:00 - 18:00
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南館地下4階ディスタンスラーニングルーム
共同主催: 三田哲学会、慶應義塾大学論理と感性のグローバル研究センター
事前登録無し、参加自由です。使用言語は英語です。
講演会の概要:
パリ第1大学哲学科ジョスラン・ブノア教授(慶應義塾大学文学研究科招聘教授(国際))として滞在される時期に、ブノア先生の研究分野の背景となるウィトゲンシュタイン哲学、論理哲学、現象学、文脈主義哲学などについての学際研究ワークショップを開催します。
https://abelard.flet.keio.ac.jp/seminar/logic-and-philosophy-workshop-20190602/
ジョスラン・ブノア教授 講演会
講師: ジョスラン・ブノア(Jocelyn Benoist)教授 (パリ第1大学哲学科教授)
日時: 2019年5月30日、31日、6月4日 18:00 - 19:30
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南館ディスタンスラーニングルーム(ただし6月4日は大学院等1階313番教室)
共同主催: 三田哲学会、慶應義塾大学論理と感性のグローバル研究センター
(先着40名) 事前登録無し、参加自由です。
英語講演原稿は毎回会場で配布致します。使用言語は英語です。
講演会の概要:
パリ第1大学哲学科ジョスラン・ブノア教授(慶應義塾大学文学研究科招聘教授(国際))として滞在される時期に、一般公演をお願いいたしております。
http://abelard.flet.keio.ac.jp/seminar/JocelynBenoistLectures/
『責任』の社会学に向けて
日時: 2019年5月23日(木) 13:00 - 14:30
場所: 北館地下1階第3会議室
講師: 常松淳(日本大学法学部准教授)
講演会の概要:
法社会学の立場から日本社会における「責任」のあり方について研究を続けてこられた、常松淳先生に、ご研究の概要と,現在の研究課題について論じていただきます。前半では,民事責任の意味付けをめぐって法律家と非-法専門家との間で生じた争いの分析を紹介,後半では,法的責任,日常的な道徳的責任,および現代の経験科学との間の関係を捉える社会学的アプローチについてレクチャーいただきます。
ストリートとしての三田の家
講師: 熊倉敬聡(元慶應大学教授、文筆業 NPO理事)
日時: 2019年6月1日(土) 15時 - 17時
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎522番
主催: 慶應ABR 三田哲学会
講演会の概要:
熊倉さんは、三田の家の創立メンバーであり、現在は京都を中心に諸々の活動をしています。今回は、三田の家を振り返り、あの活動の根幹に走っていた哲学、あるいは思想を、当時の関係者を交えて考えたいと思っています。とりわけ合理化され管理された社会の中で、ある種、ストリートとしての意義を、三田の家が持っていたと考えられ、現代社会における意義を明らかにしてもらいます。
障害とセクシュアリティ
講師: 熊篠慶彦(文筆業 NPOノアール理事長)・原一男(映画監督)
日時: 2019年6月2日(日) 15時 - 17時
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎514番
主催: 慶應ABR 三田哲学会
講演会の概要:
熊篠さんは、障害者のセクシュアリティ、恋愛やセックス、結婚に関する支援や提案、リサーチ活動を行っており、自身が立ち上げたNPOをベースにして広範囲な活動をしています。一昨年は、ご自身の体験をベースにして、障害当事者の性をテーマにした映画『パーフェクト・レボリューション』が制作公開され、多くのマスコミで、障害と性をテーマにする特集が組まれました。原さんは、1960年代より日本のドキュメンタリー作家として秀逸な作品を送り出しています。『さようならCP』では重度の障害者の解放運動や自立生活を追い、『極私的エロス論』では自分自身の生活や性をテーマにした作品を作りました。今回は熊篠氏と原氏によるクロストークを設定して、障害と性をめぐる多様な問題を展開します。
ストリートとしての三田の家
講師: 熊倉敬聡(元慶應大学教授、文筆業 NPO理事)
日時: 2019年6月1日(土) 15時 - 17時
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎522番
主催: 慶應ABR 三田哲学会
講演会の概要:
熊倉さんは、三田の家の創立メンバーであり、現在は京都を中心に諸々の活動をしています。今回は、三田の家を振り返り、あの活動の根幹に走っていた哲学、あるいは思想を、当時の関係者を交えて考えたいと思っています。とりわけ合理化され管理された社会の中で、ある種、ストリートとしての意義を、三田の家が持っていたと考えられ、現代社会における意義を明らかにしてもらいます。
三田社会学会・早稲田社会学会合同研究例会
日時: 2019年5月18日(土) 14時 - 17時
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎 453番教室
講師および演題:
第1報告 鳥越信吾 (慶應義塾大学文学部非常勤講師) 「近代的時間と社会学的認識」
討論者 澤井敦 (法学部教授)
第2報告 大坪真利子 (早稲田大学文学学術院 助手) 「カミングアウトの根拠としての「不可視」論の再考と課題」
討論者 熱田敬子 (早稲田大学文学学術院講師)
司会者: 熊本博之 (明星大学) 岡原正幸(慶應義塾大学)
講演会の概要
昨年度から慶應義塾大学と早稲田大学で社会学やその周辺分野を研究する構成員間の交流を促進するために、おもに慶應を中心に構成される三田社会学会と早稲田を中心に構成される早稲田社会学会が合同で研究会を開催しています。今年度は2回目の開催となり、三田社会学会からは鳥越信吾氏が社会学的認識と近代的時間の関係性について、早稲田社会学会からは大坪真利子氏がカミングアウトをめぐる理論的考察をおこなう予定です。
セルフヘルプ・グループからピア・サポートの研究へ ― 「物語」を鍵概念として対人支援の場にアプローチする社会学の展開 ―
講演会名: 人間科学コロキアム
講師: 伊藤智樹(富山大学人文学部、准教授)
日時: 2019年2月27日(水) 14:00 - 15:30
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 南館 地下1F 2B13教室
【概要】
病いや障害をもつ人は、自分身の体験どように語るだろか。実際当事者に会ってみたいとう漠然し動機で参加アル コー依存のセルフヘルプ・グループ(自助グループ)は、文字通り「体験を語る」ことに専心する場だった。その場で起こっていることをとらえるためには、学際的に関心を集めるようになってきた「物語」概念を、調査研究の分析枠組みとして使用できるよう整備する必要がある。一般的には「治らない」とされている病いや障害を、A. フランクがいう「回復の物語(the restitution narrative)」によって語れない人間の経験としてとらえることによって、それではどのような物語が語られているのか、あるいは、語られうるのか、という問いが切り開かれる。こうした問いのもとで展開される研究は、さまざまなセルフヘルプ・グループの営みととらえ返すのに有効であるだけでなく,ますます多様化し個別化する病いや障害の支援におけるピア・サポート(仲間同士の支え合い)への期待が高まる機運の中で、そもそもピア・サポートをどのような過程としてとらえ、何を重視していくべきなのかという基盤的な理解を可能にする役割を果たすだろう。
【講演会報告】
アルコール依存、死別体験、吃音などの病や社会問題を抱えた人々のセルフヘルプグループにおいて、人々が自らの体験を参加者たちの前で語る、いわゆる「自己物語」の意義が近年着目されている。本講演では、多様なセルフヘルプグループへの長年の参与観察による研究を行われてきた伊藤先生から、分析対象としてのセルフヘルプグループの特徴、社会学的分析手法としての物語論的アプローチについての解説、具体的な自己物語の事例に基づく、物語分析の実際についてお話を頂いた。さらに、伊藤先生が関わられている行政や自治体のセルフヘルプグループやピアサポートプログラムの取り組みを通じて、難病支援体制に対する物語論的研究の貢献についての展望が語られた。講演後の質疑応答においては、物語分析における「回復の物語」以外の物語の模索の意義、異文化間の自己物語の違い、物語分析モデルの普遍化の可能性、エビデンスに基づく医療との整合性、ミクロ-マクロの関連性、セルフヘルプグループの規範的圧力、等の論点について、活発な議論が行われた。
音としての「精神」― 音楽を通して「近代」を再考する (第二回 悲哀の力)
講師: 仲道郁代(ピアニスト)・斎藤慶典(慶應義塾大学文学部)
日時: 平成31年5月10日(金) 18:30 - 21:00
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
【概要】
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演には「パッションと理性」「音楽における十字架」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが設定されているが、その第二回となる今回は「悲哀の力」というタイトルの下で以下の三つの作品を取り上げる。
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」Op.13
ブラームス: 八つのピアノ小品 Op.76
シューベルト: ピアノ・ソナタ第19番D958
セルフヘルプ・グループからピア・サポートの研究へ ― 「物語」を鍵概念として対人支援の場にアプローチする社会学の展開 ―
講演会名: 人間科学コロキアム
講師: 伊藤智樹(富山大学人文学部、准教授)
日時: 2019年2月27日(水) 14:00 - 15:30
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 南館 地下1F 2B13教室
【概要】
病いや障害をもつ人は、自分身の体験どように語るだろか。実際当事者に会ってみたいとう漠然し動機で参加アル コー依存のセルフヘルプ・グループ(自助グループ)は、文字通り「体験を語る」ことに専心する場だった。その場で起こっていることをとらえるためには、学際的に関心を集めるようになってきた「物語」概念を、調査研究の分析枠組みとして使用できるよう整備する必要がある。一般的には「治らない」とされている病いや障害を、A. フランクがいう「回復の物語(the restitution narrative)」によって語れない人間の経験としてとらえることによって、それではどのような物語が語られているのか、あるいは、語られうるのか、という問いが切り開かれる。こうした問いのもとで展開される研究は、さまざまなセルフヘルプ・グループの営みととらえ返すのに有効であるだけでなく,ますます多様化し個別化する病いや障害の支援におけるピア・サポート(仲間同士の支え合い)への期待が高まる機運の中で、そもそもピア・サポートをどのような過程としてとらえ、何を重視していくべきなのかという基盤的な理解を可能にする役割を果たすだろう。
【講演会報告】
アルコール依存、死別体験、吃音などの病や社会問題を抱えた人々のセルフヘルプグループにおいて、人々が自らの体験を参加者たちの前で語る、いわゆる「自己物語」の意義が近年着目されている。本講演では、多様なセルフヘルプグループへの長年の参与観察による研究を行われてきた伊藤先生から、分析対象としてのセルフヘルプグループの特徴、社会学的分析手法としての物語論的アプローチについての解説、具体的な自己物語の事例に基づく、物語分析の実際についてお話を頂いた。さらに、伊藤先生が関わられている行政や自治体のセルフヘルプグループやピアサポートプログラムの取り組みを通じて、難病支援体制に対する物語論的研究の貢献についての展望が語られた。講演後の質疑応答においては、物語分析における「回復の物語」以外の物語の模索の意義、異文化間の自己物語の違い、物語分析モデルの普遍化の可能性、エビデンスに基づく医療との整合性、ミクロ-マクロの関連性、セルフヘルプグループの規範的圧力、等の論点について、活発な議論が行われた。
裁判員制度を踏まえた一般市民の法的判断研究: 道徳基盤理論に基づく検討
講師: 村山綾(近畿大学国際学部)
主催: 科学研究費・挑戦的萌芽「コーディネーション問題は道徳を生むか: 進化シミュレーションによる検証」との共催
日時: 2019年2月25日(月) 10時 - 12時
場所: 三田キャンパス研究室棟 B2F 人間科学実験室
【概要】
裁判員制度が施行され、重大な刑事事件の法的判断に一般市民が関わるようになった。日本特有の制度であることや、評議が非公開であることなどから、社会心理学的な方法論に基づく実証的な研究をする上でいくつかの障壁が存在する。発表者による一連の試行錯誤の中から、本発表では、近年注目される道徳基盤理論(Haidt, 2012)基づき、道徳違反行為に対する一般市民の判断や感情状態に焦点を当てて行ってきた研究を紹介する。制度ありきの中で、社会心理学的視点からどのような研究、または問題提起ができるのかを考えていきたい。
【講演会報告】
三田哲学会と、科学研究費・挑戦的萌芽「コーディネーション問題は道徳を生むか:進化シミュレーションによる検証」との共催として講演会を開催した。裁判員制度の概要を紹介した後、社会心理学的視点から制度設計を見た時の危うさ(特に評議体の構成やその一次性)などについて議論した。その後、村山氏による研究について、1)裁判員制度を模した社会心理学実験室実験、ならび2)一般市民の法的判断に道徳感が与える影響についてのシナリオ実験による検討結果を報告いただき議論を行った。社会心理学者はもとより、比較法学者や文化心理学者、認知心理学者の参加もあり活発な議論が行われた。
医療と人文社会科学の架橋に向けて11: ライフサイクルの医療化
- 子どもの記憶とトラウマ; 高齢化と透析治療・腎臓移植
日時: 2019年1月17日(木) 第一部 10:45-11:50; 第二部 13:10-14:30
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南校舎466
https://www.keio.ac.jp/en/maps/mita.html (Building #6)
参加者: どなたでも
言語: 英語(講演)と日本語(ディスカッション)
転送自由・参加費無料 (第一部・第二部どちらかだけの参加も可能です)
ただし、事前登録必要 junko.kitanaka@keio.jp までご連絡ください。
第一部
Knowledge and Narration: Material Mnemonics and Embodied Memory in Japanese Child Welfare
Kathryn E. Goldfarb (Assistant Professor, Department of Anthropology,University of Colorado at Boulder)
Research on early childhood memory highlights how children create a sense of themselves over time through discussion with parents and other family members, and reference to physical spaces, photographs, and documents, which “scaffold” the child’s understanding of event and time. What happens to people’s understanding of their own past and current selves when these scaffolds are absent or inconsistent, and when basic facts about the past are either unavailable or the context for them is unclear? How should we understand dormant traumatic memories that reappear suddenly, or cases where information about one’s past is documented but not tied to actual interpersonal relationships? These situations are all too common for children in state care. In this paper, I bring together two very different types of accounts from people who have grown up in the Japanese child welfare system, with discussion of a child welfare practice that is intended to ameliorate gaps in self-knowledge. This initiative, “Life Story Work,” presupposes a different basis for selfhood than other studies of narrative formulation and memory, highlighting how documentation practices impact the ways we experience temporality and personal identity. These accounts urge us to consider how knowledge of the past shapes one’s sense of self in time: how particular epistemological projects of knowledge gathering and creation point to certain kinds of ontologies, ways of being, selves. This presentation considers how memory is created and experienced through dispersed engagements with objects, bodies, and other people, a perspective that exemplifies how social connection and disconnection are materially experienced.
第二部
Aging and the Medicalization of Late Life: The Case of Kidney Transplant in Japan
Amy Borovoy (Professor, East Asian Studies Department, Associated faculty, Department of Anthropology, Princeton University)
Japan’s rapidly and dramatically aging society is coming at an enormous cost. Aging (long life expectancies and smaller total fertility rates) is a problem common to industrialized nations, but Japan is a leader. Effects of aging on the body include diabetes, dementia, high blood pressure, kidney and liver failure, and cardio-vascular disease. The Japanese Ministry of Health is actively thinking about how to curb the costs of this society, but this raises ethical questions. The aging generation is precisely that generation which rebuilt Japan from a nearly-destroyed society to a world economic super-power and middle-class society. What does it means for a nation to care for its people in these circumstances? What does society owe to this generation? What are the ethical implications for medicine and clinical decision-making? And how are medical procedures themselves re-shaping human relationships?
My focus is on End Stage Renal Disease and its treatments: kidney dialysis and kidney transplant. Japan has the highest per capita rate of kidney dialysis of any OECD country. My concerns include: the meaning of organ transplant in Japan (which largely refers to living donation); the transfer of organs within the family; donor-recipient relations and the meaning of informed consent; and the conditions that enable the prevalence of dialysis. The problem of End Stage Renal Disease in Japan raises questions about the nature of social welfare in Japan today, and it also reveals a window into the “biologization of peoples’ moral commitments” (Kaufman 1991) as biomedical interventions increasingly offer life-extending technologies that re-define the nature and extent of kinship obligations.
第二部コメンテイター 漆原尚巳 (慶應義塾大学薬学部教授)
東アジアのパフォーマンスアートの現在
講師: パク・ジュヨン, 霜田誠二
日時: 平成30年11月20日(火) 13:30 - 16:00
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟223 (変更可能性あり)
主催: 慶應ABR, 三田哲学会
講演者について
パク・ジュヨン: 韓国・ソウルPark Juyoung
ソウル生まれ、ソウル育ち。出生児の感染で聴力を完全に失う。6歳の時に特別学級に入学。手話は習わず、口唇を読むことでコミュニケーションを取る教育を受けた。絵画だけでなく、近年はその独特で繊細な身体感覚を使うパフォーマンス・アートが各国で高く評価されている。42歳。
霜田誠二:
60年代末の高校紛争から、家出少年詩を書き始め身体表現に進む。1993年にニパフ(日本国際パフォーマンスアートフェスティバル)を開始し現在まで継続中。国際パフォーマンスアート祭の時代を作った一人と言われる。現在までに60カ国400名の芸術家を招待している。武蔵野美術大学など講師。
講演会の概要
パフォーマンスアートを社会学として行なっている大学院生、学部生を対象に、韓国と日本を代表するパフォーマンスアーティストのお二人を呼んで、東アジアにおけるパフォーマンスアートの現在について講演、および、ワークショップを行ってもらいます。
医療人類学・医学史の講演会
講師: 栗山茂久 Harvard University (Dept. of East Asian Language and Civilization/Reischauer Institute, Professor of Cultural History)
演題: 医療と人文社会科学の架橋に向けてX: ハーバード大学・栗山茂久教授をお迎えして
「医学史について誰もが知っておくべき(が意外と気付いていない)こと」&プレゼンテーションの技
日時: 2018年11月8日(木) 第一部 10:45-11:50; 第二部 13:00-14:30
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南校舎473 (Building #6)
参加者: 研究テーマをお持ちの方ならどなたでも参加できます
言語: 日本語
転送自由・参加自由・参加費無料 (第一部・第二部どちらかだけの参加も可能です)
(タイトル英語ですが、当日は日本語でお話くださいます)
10:45 - 11:45 "What Everyone Should Know about the History of Medicine--but Most Don't Realize"
12:00 - 13:00 Lunch
13:00 - 14:30 "The art of presentation" 40 mins lecture + group excercise/feedback
概要:
人文社会科学と医学を架橋する試みとして、長年ハーバード大学で医学史を教えられている栗山茂久先生をお迎えします。栗山先生は医療の社会科学的研究における世界的権威であり、『The Expressiveness of the Body and the Divergence of Greek and Chinese Medicine』 では、古代ギリシアと古代中国医学の根底に流れる互いに異質な身体観を描き出し、『歴史の中の病と医学』では日本人がいつから肩凝りに悩まされるようになったのかを解明されました。さらに編著『近代日本の身体感覚』では近代がもたらした身体感覚の断絶と連続性を、近代日本における「ストレス」論の浸透から分析し、『遅刻の誕生 - 近代日本における時間意識の形成』では、日本人の勤勉性の歴史的起源を探られました。近年には、ビッグデータの時代に、歴史をイメージのデータバンクを用いてどのように問い、語りなおすことができるのかをめぐって、斬新な方法論を用いた研究を展開されています。今回は、栗山先生がハーバード大学で行われている授業を慶應で行っていただき、医学史のご講義と同時に、プレゼンテーションの極意をご教授いただきます。
栗山先生ご略歴:
Shigehisa Kuriyama received his A.B. degree from Harvard's Department of East Asian Languages and Civilizations in 1977 and an A.M. degree in 1978. After completing acupuncture studies in Tokyo, he entered Harvard's Department of the History of Science, which awarded him a Ph.D. in 1986. He joined the Harvard faculty as Reischauer Professor in 2005 after previously working at the University of New Hampshire, Emory University, and the International Research Center for Japanese Studies in Kyoto, Japan. Kuriyama's research explores broad philosophical issues (being and time, representations and reality, knowing and feeling) through the lens of specific topics in comparative medical history (Japan, China, and Europe). His book, The Expressiveness of the Body and the Divergence of Greek and Chinese Medicine (Zone, 1999), received the 2001 William H. Welch Medal of the American Association for the History of Medicine, and has been translated into Chinese, Greek, Spanish, and Korean. His recent work includes studies on the history of distraction, the imagination of strings in the experience of presence, the transformation of money into a palpable humor in Edo Japan, the nature of hiddenness in traditional Chinese medicine, and the web of connections binding ginseng, opium, tea, silver, and MSG. Kuriyama has also been actively engaged in expanding the horizons of teaching and scholarly communication through the creative use of digital technologies both at Harvard and at other universities in the US and abroad.
心の科学と哲学の最前線
日時: 平成30年11月11日(日) 14:30 - 17:00
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス第1校舎108教室
主催: 田中泉吏 (慶應義塾大学文学部哲学専攻)
講師および演題:
【講演1】網谷 祐一 (東京農業大学) 「『人間の心の進化』研究の哲学的検討: 説明の質の問題と適応主義の『引力』をめぐって」
【講演2】鈴木 大地 (自然科学研究機構) 「意識の進化的起源を探る」
講演会の概要:
二名の講師を迎え、心の科学と哲学の最新の研究成果を紹介する。網谷祐一氏は生物学および心理学の哲学の専門家として広く知られる。昨年『理性の起源--賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ』(河出書房新社)を出版し、関心の的となっている。今回の講演では『理性の起源』の内容にも一部かかわりのある進化心理学に関する科学哲学的議論を展開していただく。鈴木大地氏は気鋭の進化発生学者であるが、同時に哲学にも深い興味を抱いており、昨年ファインバーグとマラットの近刊書の邦訳『意識の進化的起源--カンブリア爆発で心は生まれた』(勁草書房)を公刊し、注目を浴びている。今回の講演では本書の内容を簡潔に紹介し、批判的な検討を加えながら、心の科学と哲学の統合の必要性について議論を喚起していただく。
以下に二つの講演の概要を記す。
【講演1の概要】
本講演では「人間の心の進化」研究への哲学者による批判について考える。
ここでは主に二つの批判的研究を検討する。一つは進化心理学の説明の質にかかわる批判である。この批判にはいろいろなバージョンがあるが、一つの形は進化心理学の説明を進化生物学一般で採用される説明と比較し、過去のヒトの集団の遺伝的構成などが知られていないことなどをもって、前者の説明は後者に比べて決定的にサポートが欠けているとする(Richardson, 2007)。この批判が深刻なのは、進化心理学に対してしばしばとられる擁護--進化心理学は完全に確証されているとは言えないにしても前進的な研究プログラムであるので研究者は進化心理学を受け入れて研究する理由がある--が通用しない可能性があることである。というのは、もしこの批判が正しければ、個々の進化心理学の仮説は(進化生物学一般の仮説に比して)確証されていないことになるが、もしそうなら研究プログラム全体を前進的とは呼べなくなるだろうからである。本発表ではこの批判に対して進化心理学側としてはどういう応答が考えられるかを、進化心理学を発見法的研究プログラムとして考えるゴールドフィンチのアイデア(Goldfinch 2015)を軸に検討してみたい。
もう一つの批判はE・ロイドからのものである。ロイドはThe Case of the Female Orgasm (2009)で、ヒトの女性の性的オーガズムにかかわる進化(心理)学的研究を批判的に検討した。彼女によると、そうした研究はおしなべて性的オーガズムを適応としているが、その説明の多くは性科学の知見を無視するなど問題が多い。ロイドの批判は性的オーガズムの事例に限定されていて体系的に進化(心理)学を批判するものではないが、しかし進化的にヒトの心理を研究する際に注意すべき事項を指摘している。
【講演2の概要】
私たちの意識とは何なのか、どのようにして生まれたのか。これは長い歴史の中で人類が取り組んできた一大テーマだ。そして現代でも多くの人々の関心を惹きながらも、いまだに解明されてはいない。『意識の進化的起源』でファインバーグとマラットが取り組むのは、意識のなかでも原初の意識、その進化的起源の解明である。この原初的意識は、本書では主に「感覚意識」と呼ばれている。さまざまな感覚を知覚し、その心的イメージ(あるいは表象、クオリア)を構築することが原初的意識の進化の核心だったと著者らは考えているからだ。そしてカンブリア爆発で、脊椎動物の祖先がカメラ眼を獲得して外的世界の視覚イメージを構築したことが、感覚意識の進化の鍵だったと著者らは主張する。
意識の進化については、これまで数多くの著作が出版されている。しかしそのほとんどが自我や理性といった高次の意識に注目しており、本書で扱われるような原初的意識を論じたものはごくわずかである。本書は哲学的アプローチ、神経生物学的アプローチ、進化的アプローチの三つを組み合わせ、各分野の知見を総動員することで、それぞれのアプローチの欠点を補い合い、原初的意識の進化について統一的な説明を試みる。これが可能になったのは、近年の神経科学や認知科学の発展だけでなく、澄江動物群の発見をはじめとする古生物学の進展、分子生物学的な技術を使って生物の発生過程を比較し、進化を明らかにする進化発生学の勃興に帰するところが大きい。
外的世界に関する感覚だけでなく、情感もまた原初的意識の重要な一側面である。本書ではこの情感意識についても、動物行動学的な知見を援用しつつ論じる。さらには、私たち脊椎動物の意識だけでなく、昆虫類や頭足類(イカやタコ)の系統でも独立して意識が進化した可能性にまで議論がおよぶ。このように本書では、意識の多様な側面を明らかにするとともに、さまざまな系統の動物を比較することで、より一般的な意識の理論の構築が試みられている。
本講演では『意識の進化的起源』の概要を説明したうえで、意識の問題を明らかにする際の科学と哲学の統合の必要性について考察する。
「廻り神楽」特別上映会
日時: 2018年10月23日 午後3時より6時
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南校舎ホール (南校舎5階)
上映会ののち、遠藤協監督によるトーク、ディスカッションがあります。
あらすじ(https://www.mawarikagura.com/より)
三陸の海辺を一夜の宿を乞いながら旅する神楽衆。
海とともに生きる三陸の人々は家に神楽を迎え入れ、海の安全、大漁祈願、家族の安寧の祈りを託す。〜揺り籠から墓場まで〜「黒森神楽」は340年以上、三陸の人々の人生に寄り添いながら巡行の旅をつづけている。
東日本大震災により海辺の人々は深い傷を受ける。津波から間一髪逃れた神楽衆が、人々を慰めようと巡行を再開する。亡き人の魂を慰め、生者を元気づける祈りの舞。春の先触れとなる神楽の音色に、人々は長い冬の終わりを感じとる。
繰り返し繰り返し津波が襲って来たこの場所で、神楽衆は何百年ものあいだ自然と人々の間を取り結ぶ役目を果たしてきた。ザシキワラシやオシラサマ、神々や精霊が今も息づく豊かな三陸の海辺で、津波のあとの「海の遠野物語」が誕生した。
(詳細はこちらのポスターをご覧下さい)
スティーブン・マーフィー重松氏 講演会
講師:スティーブン・マーフィー重松 (スタンフォード大学)
日時:2018年7月5日(木) 18時 - 20時
場所:三田キャンパス南校舎443教室
演題:From Mindfulness to Heartfulness: Transforming Self and Society with Compassion マインドフルネスからハートフルネスへ:コンパッションによる自己と社会の変革に向けて
【講演概要】
スティーブン・マーフィー重松氏の来日を機に、本ワークショップでは近年米国の教育や医療等の臨床現場で幅広く応用されているマインドフルネス(気づき)とコンパッション(思いやり)の概念を体験的に学び、自分と他者との関わり方、場と社会との関わり方についてふりかえる。
スタンフォード大学では近年、ウェルビーイングを基礎教育の柱として掲げ、ライフワークスという学生が自分をみつめ、心と体を整え、「セルフ・アウェアネス」(自分自身に気付いている、自分自身をコントロールできる資質)を高めるためのプログラムが導入されている。ライフワークスの開発者の一人であるマーフィー重松氏が、自身がスタンフォードで長年実践している対話的・観想的教育法を、今回のワークショップで紹介する。
また、アメリカにおけるマインドフルネスの受容と応用の実態の限界を指摘したうえで、マーフィー重松氏が提唱する「ハートフルネス」の概念を体験的に探求し、日米の比較文化的な視点からの対話も試みる。
【講師紹介】
スタンフォード大学のウエルネス教育の心理学者。ハーバード大学で臨床心理学の博士号取得。東京大学留学生センター・同大学大学院教育学研究科助教授、スタンフォード大学医学部特任教授、教育学部客員教授を歴任。著書に、『When Half is Whole』 (Stanford University Press, 2012)、『Multicultural Encounters』(Teachers College Press, 2002)、 『多文化間カウンセリングの物語(ナラティブ)』(東京大学出版会 2004)、『アメラジアンの子供たち──知られざるマイノリティ問題』( 集英社新書 2002)、『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』(講談社2016)、『From Mindfulness to Compassion: Transforming Self and Society with Compassion』(Berrett-Koehler 2018)などがある。
ビデオ・ウィンドウ in Tokyo
講師:Dr. Bruno Z’Graggen Universitat Luzern(フリーランスキュレーター,スイス・ルツェルン大学)
日時:2018年7月11日 16:30 - 19:40
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 473教室
主催:森川剛光研究会 三田哲学会
【講演概要】
ブルーノ・ツグラッゲン博士はスイス・ルツェルン大学で職員として働きながら、フリーランスのキュレータとして様々な文化活動に関わってきた。今回博士の一月にわたる来日日程のうち一日を使って、現代スイスの映像芸術を慶應大学の学生、院生、教職員に紹介していただくことになった。添付史料に示されている映像作品のビデオの上映とそれに先立つ作品の紹介をツグラッゲン博士が行う。
演劇とコミュニティ
講師:関根淳子 (俳優・演出 SPAC静岡県舞台芸術センター)
日時:平成30年7月3日(火) 13:00 - 14:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟223番
主催:慶應ABR 三田哲学会
【講演概要】
関根淳子さんはSPAC静岡県舞台芸術センター所属の俳優であり、SPACの舞台を務める一方で、演出家でもあります。劇団 音乃屋を主宰。生演奏と一人芝居を組み合わせた「音楽物語」の活動を展開しています。今回は演劇のもつ力をコミュニティとの関わりでお話しいただきます。応用演劇、劇団のアウトリーチ、あるいはコミュニティ演劇、エスノシアターといった試みがある中で、関根さんの取り組みなども紹介していただき、参加者と共に、演劇的表現の可能性について考えます。
医療と人文社会科学の架橋に向けてV: The Edges of the Clinic
日時:6月10日(日)10:00 - 17:00
【講演概要】
医療が高度化し、自然科学と人文社会科学それぞれの専門性が細分化した現在、異なる領域の専門家同士が互いに深く理解しあうことは容易ではありません。この分断を乗り越える目的で、今回は内科医・医学史家として領域を超え世界的に活躍され、病と薬の歴史研究を先導されてきたジェレミー・グリーン先生と、インドの糖尿病研究でNew Millennium Book Award(アメリカ医療人類学会)を受賞されたハリス・ソロモン先生をお迎えし、「The Edges of the Clinic」について議論します。日本の現役の医師と社会科学者とともに小児医療、老年医療、精神医療、災害医療、救急医療、遠隔医療等、臨床現場の異なる局面に焦点を当てることで、医療と人文社会科学をつなぐアプローチの探究を試みたいと思います。医療従事者、医学領域や人文社会科学領域の研究者・教育者・学生さんのほか、この領域の架橋に興味のある方々のご参加を広く歓迎いたします。事前登録不要・参加費無料ですので、奮ってご参加ください。
The 5th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine: The Edges of the Clinic
Date: June 10, 2018 (Sunday) 10:00-17:00
Place: Global Research Lab, East Research Building 6th floor, Keio University (Mita campus): https://www.keio.ac.jp/en/maps/mita.html (Building #3)
No Fee/Pre-registration Required
Introduction: 10:00 Junko Kitanaka (Dept. of Human Sciences, Faculty of Letters, Keio University) &Sayaka Mihara (Keio University Graduate School of Human Relations)
Part I: Histories and Epistemologies
10:10-10:35 Sayaka Mihara (Keio University Graduate School of Human Relations)
Medicine Use and Somatic Localizations of Childhood Illnesses in 1930s Tokyo
10:35-11:00 Kanako Sejima (Dept. of Psychiatry, Kyoto University)
Exploring Psychotherapeutic Approaches for Dementia
11:10-11:35 Suguru Hasuzawa (Dept. of Neuropsychiatry, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University)
Philippe Pinel's Conception of Statistics
11:35-12:00 Nao Hasuzawa (Div. of Endocrinology and Metabolism, Kurume University School of Medicine)
Piaget and Kuhn, Toward an Epigenetic Epistemology
12:00-13:30 lunch
Part II. The Edges of the Clinic
13:30-13:55 Yuna Umeda (Dept. of Psychiatry, Tokyo Metropolitan Matsuzawa Hospital)
Doctors’ (Dis)embodiment of Biomedicine
13:55-14:20 Hiroko Kumaki (Dept. of Anthropology, The University of Chicago)
Capturing the Nuclear Fallout: Disaster Mental Healthcare in Fukushima, Japan
14:30-15:20 Harris Solomon (Dept. of Anthropology, Duke University)
Near Death: Traffic and Trauma in Urban India
15:20-16:10 Jeremy Greene (History of Medicine, School of Medicine, Johns Hopkins University)
The Television Clinic: Revisiting Old Experiments with New Media in Medicine
General Discussion
16:10-17:00 Naoki Kasuga (Dept. of Anthropology, Hitotsubashi University) and Tadashi Yanai (Dept. of Anthropology, Tokyo University)
This symposium is organized by the Global Research Center of Logic and Sensibility at Keio University and is funded by JSPS Kakenhi 16KT0123 and Mita Philosophical Society.
企画・運営・司会:北中淳子・三原さやか
基礎心理学フォーラム『時代は変わる 再現可能性問題から基礎心理学のパラダイムシフトへ ―』
講演1:池田 功毅(中京大学)「再現可能性問題は心理学教育をどう変えるか?」
講演2:小杉 考司(専修大学)「新しい統計学とのつきあいかた」
講演3:渡邊 芳之(帯広畜産大学)「和文学会誌は再現性問題にどのように立ち向かうか」
日時:平成30年6月2日(土) 14時〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎527教室
共催:三田哲学会と日本基礎心理学会の共催
【講演概要】
ここ数年、心理学の研究結果が再現できないという問題が活発に議論されるようになりましたが、基礎心理学もまさにその渦中にある領域の一つです。基礎心理学者はいま、自分たちの未来をその手で選び取らなければなりません。今回の講演会では、個人が行う研究実践とその教育における改革、ベイズ統計学によるデータ解析における改革、事前登録(プレレジストレーション)などを含めた学術出版における改革といった、3つのレベルの各話題に関するエキスパートである3名の演者をお招きしご講演頂きます。再現可能性問題を皮切りとして、この機に基礎心理学の限界を突破して前進することを目指し、そのための具体的な道を切り拓くヒントを提供します。
【講演概要】
講演1 池田 功毅(中京大学)「再現可能性問題は心理学教育をどう変えるか?」
近年、多くの科学的知見が再現可能ではないことが、改めて広く知られるようになってきた。疫学研究を除けば、心理学研究者はこの問題についていち早く取り組み、システマティックな改革案を数多く提案してきた。本講演では、この問題の時間的進展と、これまでに提案されてきた対策案について再度概略的に振り返る。さらにそれらが心理学教育の最初期においてどのような含意を持つかを検討することで、現在進行中の諸改革が、心理学研究・教育に対して根本的なパラダイムシフトを要求していることを指摘する。
講演2 小杉 考司(専修大学)「新しい統計学とのつきあいかた」
再現可能性の問題は 統計的帰無仮説検定の弱点が悪い形で現れたことが一因だろう。しかしそれはロジックの問題ではなく、我々と統計との付き合い方が問題だったのかもしれない。統計は、我々にとっては方法論でしかなく、そこに努力を費やすぐらいであれば心理学的な問題をもっと考えていたい、というのは心理学者にとって当然の要望である。ただし、残念ながら従来の統計的方法は、生半可な気持ちで手出しをすると失敗しやすいものだった。ベイズ統計学に乗り換えれば、問題のすべてが解決するというものではないが、少なくとも例数設計や多重比較の問題については、そのほうが単純でしかも間違えにくい構造になっている。本講演では、こうしたベイズ統計学の長所を紹介し、新しい流儀の心理統計法との付き合い方を考えていきたい。
講演3 渡邊 芳之(帯広畜産大学)「和文学会誌は再現性問題にどのように立ち向かうか」
研究における不正や疑わしい研究実践(QRP)の防止、心理学研究の再現性の向上のためには、研究を掲載するジャーナルの側でも、査読システムの改善や活性化、データの公開やプレレジストレーションなど、研究者と協力して不正を防止し、再現性を高めるための制度作りが求められる。いっぽうでとくに学会誌では予算や人的資源が限られた中で、学会員の理解を得つつそうした改善を進めることにさまざまな困難がある。講演では、再現性向上のためにジャーナル側が取りうるさまざまな方略やその現状について概観した上で、とくに和文学会誌がそれらに対応しながら持続可能な運営体制を取っていく上での現実的な問題点について考えてみたい。
【報告】
報告日:2018年6月6日
報告者:川畑秀明(文学部)
講演タイトル:基礎心理学フォーラム『時代は変わる─再現可能性問題から基礎心理学のパラダイムシフトへ─』
講演会概要:
講演(1) 池田 功毅(中京大学)「再現可能性問題は心理学教育をどう変えるか?」
講演(2) 小杉 考司(専修大学)「新しい統計学とのつきあいかた」
講演(3) 渡邊 芳之(帯広畜産大学)「和文学会誌は再現性問題にどのように立ち向かうか」
日時:平成30年6月2日(土) 14時〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎527教室
共催:三田哲学会と日本基礎心理学会の共催
参加者数:102名
講演会に関する所見:
本講演会では3名の講師を迎え,近年の心理学において大きく取りあげられている「再現性問題」(研究論文の追試を行っても研究結果を再現することができないという問題)についての話題提供を頂き,その改善や対策を含めて広く深い議論が行われた。最初の演者であった池田功毅先生(中京大学)は,再現性問題に至った歴史的経緯(p値主義や研究や統計上しがちな間違い)や再現性問題に立ち向かう対策(事前登録制度,等),さらに追試研究の推進など心理学の研究教育への意義について話題提供を行った。2つ目の演者であった小杉考司先生(専修大学)は,ベイズ統計学に基づく新しい心理統計学の立場から,従来の統計学的方法の長短所(頻度主義や例数設計),ベイズ統計学の長短所(ベイジアンの考え方,事前分布と事後分布,頻度主義にない発想)について話題提供を頂き,新しい統計学へのパラダイムシフトを促し,再現性の考え方そのものについて再考を促した。3番目の演者の渡邊芳之先生(帯広畜産大学)は,再現性の基準や一般化の基準の多様性の確保のために「ジャーナル」がどのような役割を果たしうるのか(例えば,文字数制限の緩和や査読システムの改善や活性化,データ公開など)についてご自身が理事長をされている日本パーソナリティ学会の例とともにお話し頂いた。再現性問題への取り組みは,心理学だけに限定して必要とされるものでもなく,社会学や人間科学,教育学など多くの社会科学の実証科学分野においても検討が必要なものであり,三田哲学会の会員に対しても非常に有益な情報の提供と議論になったものと考えられる。
分野をまたぐ ― ドキュメンタリープロジェクト『Ibasyo』を例に
講師:岡原功祐(写真家)
日時:平成30年5月15日(火) 15時〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟223番
主催:慶應ABR 三田哲学会
【講演概要】
岡原さんは1980年東京都出身。早稲田大学卒。南ア国立WITS大学大学院中退。人の居場所を主なテーマに撮影を続け、これまでに『Contact #1』『消逝的世界』『Almost Paradise』『Fukushima Fragments』『Ibasyo 自傷する少女たち“存在の証明”』の5冊の写真集を上梓。2008年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。2009年には世界報道写真財団が世界中の若手写真家から12人を選ぶJoop Swart Masterclassに日本人として初選出。Photo District News が選ぶ世界の若手写真家30人にも選ばれる。また2010年には、『Ibasyo』でW.ユージン・スミス・フェローシップを受賞。2012年、原発事故後の福島を撮影した作品でゲッティー・グラント、2014年にはコロンビアの作品でピエール&アレクサンドラ・ブーラ賞を受賞。同作品は、ライカ社100周年記念巡回展にも選出された。これまでに東京都写真美術館、クンスタール(ロッテルダム)、ケブランリー美術館(パリ)、C/O ベルリン(ベルリン)、ダイヒトールハーレン(ハンブルク)、バイエルン州立図書館(ミュンヘン)、アネンベルク写真センター(ロサンゼルス)、アパーチャー(ニューヨーク)など、各国の美術館やギャラリーでも作品が展示されている。
今回は、最新の作品「ibasyo」を土台にして、現代社会で生きにくさを抱えている人への、社会学、アート、ひとからの関わりについて考える。
【報告】
報告日:平成30年5月16日
報告者:岡原正幸、社会学専攻
講演タイトル:分野をまたぐ ― ドキュメンタリープロジェクト『Ibasyo』を例に
講師:岡原功祐(写真家)
日時 平成30年5月15日(火) 15時〜17時
場所 慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎472
主催:慶應ABR 三田哲学会
講演会の概要
参加人数 17名
今回は、岡原氏の最新の作品『ibasyo』について、その制作プロセス、被写体との関わり、その関係性、写真による存在の肯定、手で触れられるものとしてのフォトブックが感情や創造性を作り出すといった、話を伺った。コメンテーター(司会)として境界性人格障害にある人々への聞き取りを続けている澤田唯人君(博士修了)が、質疑の口火を切り、もろもろのテーマが活発に交わされた。
音としての「精神」 ― 音楽を通して「近代」を再考する: 第一回 パッションと理性
講師:仲道郁代(ピアニスト) 斎藤慶典(慶應義塾大学文学部)
日時:平成30年4月27日(金) 18:30-20:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
主催:三田哲学会
【講演概要】
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演には「悲哀の力」「音楽における十字架」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが予定されているが、その第一回となる今回は「パッションと理性」というタイトルの下で以下の三つの作品を取り上げる。
モーツァルト: ピアノ・ソナタ K.310 イ短調
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第23番「熱情」Op.57
ブラームス: ピアノ・ソナタ第3番 Op.5
【報告】
報告日:2018年5月3日
報告者(氏名、所属専攻):斎藤慶典、哲学専攻
講演タイトル:音としての「精神」 ― 音楽を通して「近代」を再考する
第1回 パッションと理性
講師(氏名、所属):仲道郁代(ピアニスト)、斎藤慶典(哲学専攻)
日時:2018年4月27日 18時半〜20時50分
場所:三田キャンパス・北館ホール
参加者数:約100名
講演会報告:
前半の50分は、斎藤が以下に貼り付けたレジュメに従って次の二点をめぐって講演を行なった。第一点は、今回の連続講演の総合タイトルである「音としての「精神」 ― 音楽を通して「近代」を再考する」の趣旨に関わるものであり、近代西洋音楽の展開を音として「精神」が「現象」する過程(ヘーゲル)として捉えること、そのための作品解釈の方法論、ベートーヴェンとカントやドイツ観念論との事実的な接点などが論じられた。第二点は、今回の個別テーマ「パッションと理性」に即して、カント批判哲学の基本枠組みである受容性と直観の能力としての「感性」=パッションと、能動性と行為の能力である「理性」の交錯する象面に私たちの「経験」が構成される次第を、ベートーヴェンの「熱情」ソナタの展開の内に読み取る作業が試みられた。
休憩を挟んで後半の50分は、仲道が演奏者の視点から作品解釈の実際について、実地のピアノ演奏を交えて講演を行なった。具体的には、作品に現われる幾つかのテーマの構成とそれら相互の関係におけるベートーヴェンの独自性を、モーツァルトとブラームスの作品に現われるそれらとの対比の中で際立たせる作業を行なった。その後、講演者二人の間で互いの講演をめぐって自由な意見交換を行ない、最後に会場との質疑応答を行なって本講演会を締めくくった。
音楽作品の解釈に哲学という異分野からの貢献が試みられたこと、その解釈の現場を演奏者自らが実際の演奏を交えて呈示すること、さらにそれら両者の間で対話が行われるという、いずれも普段のコンサートでは接することの稀れな経験が聴衆には大きな刺激となったようで、最後まで熱心な質疑応答が続けられた。
レジュメ:音としての「精神」 ― 音楽を通して「近代」を再考する
日本における宗教人類学の回顧と展望 ― 学説史と自分史のはざまで
講師:鈴木正崇先生(慶應義塾大学名誉教授)
司会:三尾裕子(慶應義塾大学文学部教授・文化人類学)
日時:2018年4月12日(木)18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎7階473教室
http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
【講演概要】
文化人類学が日本の一般の人々に対して新鮮な視野を提供した時代といえば、1970年代ということになろうか。学界においては、親族研究や機能主義に代わって、構造主義がブームになり、レヴィ=ストロースが華々しく紹介されて、E,リーチ、R,ニーダム、V,ターナーが必読書となり、山口昌男や青木保などが象徴や儀礼や神話をキーワードとして、文化について広く一般向けに語る時代が到来した。私の大学院生時代はその黄金期というべき時で、この流れは次第に宗教人類学という分野に収斂していった。私自身も現在に至るまで宗教人類学を主たる専攻分野としてきたという意識が強い。一方、宗教人類学という言葉を日本で始めて使用したのは宇野圓空で、宗教民族学を経て、古野清人、岩田慶治、佐々木宏幹などに連なる別の流れもある。西欧からの輸入による宗教人類学の展開と東アジアの植民地化の流れを汲む宗教人類学の展開は、どのように混ざりあったのか。あるいは混ざり合わなかったのか。宗教人類学を正面切って名乗る人が少なくなった現在、改めて宗教人類学の過去・現在・未来を問い、フィールドワークの自分史を、人類学・宗教学・民俗学の学説史の変遷と照らし合わせて、自省的に辿り直すことで、日本の文化人類学の現代的意義を明らかにしてみたい。
【講演者プロフィール】
本塾名誉教授。専門は、宗教人類学、民俗学。南アジア、中国、日本など広範な地域で調査研究に従事され、『スリランカの宗教と社会―文化人類学的考察』(春秋社 1996年/1997年に義塾賞受賞)、『ミャオ族の歴史と文化の動態―中国南部山地民の想像力の変容』(風響社 2012年/2014年に木村重信民族藝術学会賞受賞)、『山岳信仰 ― 日本文化の根底を探る ―』(中公新書 2015年/2016年に秩父宮記念山岳賞受賞)ほか、多数の著作を世に送り出されています。また、本塾文学部の教員として約30年の長きにわたり、多数の卒業生、研究者を育てられました。
【報告】
三田哲学会講演会報告書
報告日: 2018年4月14日
報告者: 三尾裕子(文学部)
講師: 鈴木正崇 慶應義塾大学名誉教授
日時: 2018年4月12日(火)18時00分〜20時15分
場所: 473
参加者数: 50名
講演会に関する所見:
今回の講演は、おおよそ3つの部分から構成された。1つ目は、日本における宗教人類学という分野が欧米の文化人類学の潮流とどのような連関を見せながら成立、発展してきたのかを、主要な研究者間の系譜をだどりながら明らかにする、という部分である。2つ目では、上記の流れの中で、講演者の鈴木先生ご自身の研究の位置づけがなされた。特に、影響を受けた書籍、研究や、研究上の師、友人などとの出会いを織り交ぜながら、ご自身の研究対象地域や、研究の特色などの解説がなされた。3つ目は、先生の近業の紹介であった。近業は3つのテーマ(宇野圓空に焦点を当てた「日本型ファシズムと学問の系譜」研究、「<穢れ>と女人禁制」研究、バリにおける観光と儀礼から見る景観」研究)からなっている。このうち、最後のバリ研究が特に取り上げられ、フィールドで撮影された写真をもとに、研究の概要が説明された。
鈴木先生のご関心の広さ、世界各地の文化に対する深い知識が披露され、またそれに見合うように、多様な参加者が来場され、教室はほぼ満杯で熱気に満ちた講演会であった。
なお、今回の講演会は、「慶應塾大学人類学研究会」との共催で行われた。
機械学習、人工知能技術と心理学
講師:澤幸祐・専修大学人間科学部心理学科 鮫島 和行・玉川大学脳科学研究所
日時:2018年3月6日(火) 13時〜17時
場所:三田キャンパス研究室棟B2F 人間科学実験室
※参加者数によって部屋の変更の可能性があります。その場合は、参加登録者までメールにて連絡します。
【備考】
講演だけでなく議論することを目的とした会であるため、事前登録で参加者を把握する予定としています(Google formによる登録)。
http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
【概要】
近年の計算機の性能向上や研究の進展により、機械学習や人工知能といった分野が大きな盛り上がりを見せている。IBMのチェスコンピュータ「Deep blue」がガルリ・カスパロフを破ったのが1997年、情報処理学会の将棋コンピュータ「あから2010」が清水市代女流王将を破ったのが2010年、Googleの囲碁プログラム「AlphaGo」が柯潔九段を破ったのが2017年である。現時点で、チェスや将棋、囲碁のような完全情報ゲームでは、人類はコンピュータに勝つことはほぼ不可能といってよい。また、機械翻訳や画像認識など、従来から存在はしていたものの実用的には不満が多く、「人間がやったほうがマシ」と思われた機能の性能も格段に向上した。こうした「人間知性の敗北」を支えているのが機械学習や人工知能技術であり、その背景には、我々が知性と呼ぶものの一部を数学的に形式化したもの、あるいは我々が知性と呼ぶものとは全く別の要請によって作られたものが結果として成し遂げたものがある。
心理学者が、機械学習や人工知能に関心を持つ理由はさまざまである。学習や知能、知性という問題は、長らく心理学の研究対象であった。心理学者が研究対象としてきた「生きている泥臭い知性」と、機械が成し遂げた「形式的に漂白された知性」は、同じものなのだろうか、全くの別物だろうか?また、機械学習の多くは高度な統計的手法に立脚しているため、実験や調査によってデータを取得し分析している心理学者にとっては、自らの研究に応用することが可能かもしれない。要因計画によってガチガチに統制された実験で得たデータだけでなく、臨床場面でのデータや質問紙・インタビューデータなどの分析には有用な方法になるのではないか?このように、基礎・応用の両面から機械学習や人工知能に関心を持ち、できればある程度の知識を持っておきたいと考える心理学者は多いと思われる。
今回の勉強会では、こうした機械学習や人工知能に関心を持つ心理学者を対象に、実際のところ機械学習や人工知能とはどういうものなのか、心理学が扱う学習や知性とどう関係するのか(しないのか)、技術的基盤は心理学の研究にどのような応用が可能なのかを模索する。そもそも、心理学者の持つ機械学習や人工知能への関心の持ち方が全くの的外れである部分もあり得るし、機械学習と人工知能を同じものと考えるようなある種の誤解も存在する。そこで、最先端を理解することを目指すのではなく、心理学的関心としての学習や知性と機械学習や人工知能を接続すること、技術的背景のポイントを紹介して自らのデータ解析への応用可能性を探ることを目的とする。
【報告】
三田哲学会講演会報告書
報告日 2018年3月8日
報告者 平石界(人間科学専攻)
講演タイトル:機械学習と心理学
講師:
澤幸祐・専修大学人間科学部心理学科
鮫島 和行・玉川大学脳科学研究所
日時:平成30年3月6日 13時〜17時半
場所:三田キャンパス 大学院校舎312
参加者数:17名(講師2名を除く。うち三田哲学会会員4名)
講演会報告:
まず澤氏により人工知能ならびに機械学習の歴史の概観が行われ、“人工知能”と“機械学習”の違い、そして昨今の“人工知能ブーム”において用いられている幾つかの技術について入門的講義が行われた。そのうえで、学習心理学において扱われる、人間や動物の「学習」と、機械学習における「学習」の相似点、類似点、相違点についての議論が行われた。続いて鮫島氏により、機械学習における教師あり学習、強化学習、教師なし学習という概念の背景にある数理モデルについての入門的講義が行われた。それを踏まえて、Alpha Go、Alpha ZeroといったGoogleのDeep Mindによって開発された“人工知能”が何をやっているのか解説が行われた。講義は参加者との活発なディスカッションを挟みつつ行われた。う学習や知性とどう関係するのか(しないのか)、技術的基盤は心理学の研究にどのような応用が可能なのかを模索」する研究会(企画趣旨文より)であった。
シンポジウム「認知症早期発見時代のネオ・ジェロントロジー: 精神医学と医療人類学の対話 〜マーガレット・ロック先生をお迎えして〜」
講師: 小原知之(九州大学大学院医学研究院精神病態医学) 加藤敏(自治医科大学・富士見台病院) 橋本衛(熊本大学神経精神科)
日時: 2018年3月10日(土) 1:00 - 5:00 PM
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス東館6階GSEC-LAB
【概要】
先進国の先端をいく「超高齢社会」であり、近い将来認知症800万人時代が訪れるといわれている日本では、現在認知症の早期発見の動きが活発化している。このような変化が医療の充実と、認知症を経験する方やその家族の救済につながる一方で、「自然な老い」が病理化され、早期発見が早期絶望をうみだしてしまうことへの懸念も絶えない。本シンポジウムでは、医療人類学の世界的権威であられるマーガレット・ロック先生をお迎えし、認知症の早期発見をめぐる課題と展望について議論いただき、日本の医療人類学/文化精神医学で先駆的ご研究をなさっている宮地先生にコメントをいただく。
さらに、グローバルな認知症疫学を先導してきた「久山研究」を代表して小原先生に、老い・鬱・認知症の境界線について精神病理学の権威であられる加藤先生、軽度認知障害として正常と病理の狭間で葛藤する人々の心理的ケアについて橋本先生、また認知症の精神療法の可能性について本研究の共同研究者である繁田先生にお話いただき、認知症早期発見時代のネオ・ジェロントロジーの方向性についてディスカッションしたい。
【報告】
講師:
小原知之先生(九州大学大学院医学研究院精神病態医学)「福岡県久山町における取り組み」
加藤敏先生(自治医科大学・富士見台病院)「認知症の早期発見におけるうつ病との鑑別の問題・スティグマの問題」
橋本衛先生 (熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野)は、「軽度認知障害患者の心理状態」
日時:2018年3月10日(土)1:00-5:30 PM
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館6階GSEC-LAB
参加者数:60名
講演会(全体の)報告:
概要:
先進国の先端をいく「超高齢社会」であり、近い将来認知症800万人時代が訪れるといわれている日本では、現在認知症の早期発見の動きが活発化している。このような変化が医療の充実と、認知症を経験する方やその家族の救済につながる一方で、「自然な老い」が病理化され、早期発見が早期絶望をうみだしてしまうことへの懸念も絶えない。本シンポジウムでは、医療人類学の世界的権威であられるマーガレット・ロック先生をお迎えし、認知症の早期発見をめぐる課題と展望について議論いただいた。
シンポジウム第一部:
第一部では、マーガレット・ロック先生(Dept. of Social Studies of Medicine, McGill Univ.)による基調講演“Can dementia be prevented”をもとに、コメンテイターの須田史朗先生(自治医科大学精神医学講座教授)・ 宮地尚子先生(一橋大学社会学研究科教授・医療人類学/文化精神医学)を中心としたディスカッションが行われた。ロック先生の講演では、認知症の予防または発症を遅らせることは可能かという問いに関して最近の研究の整理が行われ、高い教育程度や知的刺激の多い生活が認知症の発症リスクを低下させるとの知見などが紹介された。須田先生は、学ぶ意欲の影響や社会的孤立の影響を再考する必要性に触れ、宮地先生は認知症の診断を受けることによるintellectual pain/terrorの問題、診断の不確実性、曖昧な喪失、恥の問題などに言及した。ロック先生によると、認知症に伴う恥の意識は北米(カナダ)では主題化されていないとのことで、多文化間の差異が明らかになった。
シンポジウム第二部:
第二部では、コメンテイターに江口重幸先生(東京武蔵野病院/医療人類学)・春日直樹(一橋大学・文化人類学)先生をお招きし、精神科領域の認知症臨床に関する演題4本の報告と、全体を総括するディスカッションが行われた。
小原知之先生(九州大学大学院医学研究院精神病態医学)は、「福岡県久山町における取り組み」と題し、久山町における認知症の横断調査と追跡調査研究を紹介した。疫学調査が成立するうえで、住民との信頼関係の確立は不可欠である。ディスカッションでは、この疫学調査によって高齢者に優しい町になっている可能性が指摘されたほか、認知症発見後の治療成績や、うつや自殺についての質問が提出された。
加藤敏先生(自治医科大学・富士見台病院)は、「認知症の早期発見におけるうつ病との鑑別の問題・スティグマの問題」と題し、国を挙げての早期認知症対策の生権力的な側面を指摘するとともに、老年期における正常を問い直した。加藤先生は仮性認知症の概念を重視しているが、このような認知症と鬱のentanglementは北米では議論がないことをロック先生が指摘した。
橋本衛先生 (熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野)は、「軽度認知障害患者の心理状態」と題し、軽度認知障害(MCI)患者が症状を受け入れて穏やかな境地に達するまでの苦悩の時期に何ができたのかを問うことから出発して、MCI患者の具体的な語りを紹介した。春日直樹先生(一橋大学・文化人類学)は、患者の語りを分かりやすい解釈に落とすのが勿体ないと指摘した。江口先生は、穏やかな境地は本当にその人らしいと言えるかを問うた。認知症臨床に関わる内科医の観点からは、蓮澤奈央医師(九州大学内分泌内科)が、MCI患者の物忘れ以外の問題にも着目することの重要性を指摘した。
繁田雅弘先生(慈恵医科大学精神医学講座)は、「森田療法からみたアルツハイマー型認知症への精神療法の意義」として、認知症診療の目的は認知症を診断することではなく、患者がこれからも今と同じ生活を送ること、患者の得意なことを引き出すことであると強調した。橋本和幸先生は、不安の裏の期待と欲望に着目することの重要性を指摘した。春日先生からは、がんの場合の「終活」と同様の作業が認知症臨床でも為されるのかを問うた。これに対し繁田先生は、漠然とした死生観などを受け止めることができれば精神医療も捨てたものでないとの回答であった。
総括のディスカッションでは、マーガレット・ロック先生の現在の研究主題であるエピジェネティクスとも関連付けて、認知症の問題の整理が行われた。最後に司会の北中が、日本の認知症臨床が精神科医療の一環として行われている状況の特異性を指摘し、認知症が精神医療の中でも特に身体とマテリアリティに向き合う取り組みであることに触れたうえで、人類学者と精神医療の対話の重要性を再確認して締めくくりとなった。
ことばの近代と柳田國男の「聴き耳」の実践:民俗学と<口承>という問い
講師:重信幸彦(慶應義塾大学文学部非常勤講師)
日時:2018年2月9日(金)17:30 - 19:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟1階 A会議室
司会: 三尾裕子(慶應義塾大学文学部教授・文化人類学)
【講演要旨】
今回の報告では、民俗学における、他者の<声>に耳を傾けるという方法/態度について、四半世紀前から人類学周辺で蓄積されてきたフィールドワーク論を横目でにらみつつ、言文一致等の日本のことばの近代化におけることばの実践としての「聴き耳」の試行錯誤(日本の「表象の危機」)という文脈で検討する。
柳田國男は、明治三十年代に自然主義の文学者たちと深い交流を持った時期から、一貫して「文体」に悩み続けていた。特に大正期以降の「旅の学」を構想する過程においては、他者の暮らしに触れ、その<声>に耳を傾け、そして感じ思考したことを、どのような文体で叙述するかが、柳田にとって切実な問題であったと考えられる。
日本のことばの近代における柳田の試行錯誤のなかに、日本の民俗学の揺籃と歴史的展開の筋道を見出してみたい。
詳細はこちら(PDF)
【報告】
三田哲学会講演会報告書
報告日時 2017年7月20日
報告者 三尾裕子(文学部)
講演会概要
講師(氏名、所属) 重信幸彦(慶應義塾大学文学部非常勤講師)
講演主題 ことばの近代と柳田國男の「聴き耳」の実践:民俗学と<口承>という問い
日時 2018年2月9日(金)17時30分〜19時30分
場所 研究室棟1階A会議室
参加者数 14名
講演会に関する所見
今回の重信先生のご講演では、民俗学におけるフィールドワークの主要な方法である、「他者の<声>に耳を傾けるという方法/態度」が、四半世紀前から人類学周辺で蓄積されてきたフィールドワーク論が念頭に置かれつつ、言文一致等の日本のことばの近代化におけることばの実践としての「聴き耳」の試行錯誤(日本の「表象の危機」)という文脈で検討された。
柳田國男は、明治三十年代に自然主義の文学者たちと深い交流を持った時期から、一貫して「文体」に悩み続けていた。特に大正期以降の「旅の学」を構想する過程においては、他者の暮らしに触れ、その<声>に耳を傾け、そして感じ思考したことを、どのような文体で叙述するかが、柳田にとって切実な問題であったと考えられる。講演の中では、柳田が残した『後狩詞記』、『雪国の春』、『遠野物語』、『明治大正史 世相篇』などにみられる他者からの聴き取りの叙述を通して、日本のことばの近代における柳田の試行錯誤が読み解かれ、また、日本の民俗学の揺籃とその後そうした試行錯誤がどのように「民俗語彙」収集ということばの実践とどう関わっていくのかという歴史的展開が論じられた。
質疑応答では、他者の「内面性」を柳田はどのように考え表出していたのか、民俗語彙収集のある意味での失敗と米国の人類学におけるHRAFの失敗との比較、趣味の学問としての民俗学の組織化の中での民俗学における記述の文体の変容などについて活発な議論がなされた。
なお、今回の講演会は、「慶應義塾大学人類学研究会」との共催で行われた。
Ought Implies Can, Alternate Possibilities, and Asymmetrical Freedom in Kant
講師:Matthe Scholten, Institute of Medical Ethics and History of Medicine, Ruhr University, Bochum, Germany
日時:2018年1月12日(金) 16:30 - 18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南館4階会議室
主催:Wolfgang Ertl
【概要】
Dr Scholten will be talking about new trends in the theory of moral
responsibility and exonerationfrom a broadly Kantian perspective. This
topic is not only important from a theoretical point of view, but has
many implications for applied ethics as well. The lecture is an
excellent opportunity for our students to learn about these important
fields.
【報告】
講演タイトル Ought Implies can, alternate possibilities, and asymmetrical freedom in Kant
講師 Dr. Matthe Scholten (Institute for Medical Ethics and History of Medicine, Ruhr University Bochum, Germany)
日時 2018年1月12日16.30 - 18.00
場所 慶應義塾大学三田ジャンパス 南館4階会議室
参加者数 10名
講演会報告
In his lecture “Ought implies can, alternate possibilities and
asymmetrical freedom in Kant“ Dr Scholten developed a highly
intriguing account of one of the most difficult and challenging
passages in Kants works, namely the solution the so-called 3rd antinomy
of pure reason in which Kant develops his solution to the so-called
compatibility problem of natural determinism and human freedom. Dr
Scholten pointed out that Kant’s conception of freedom is asymmetrical
on that the ability to do otherwise is required only in order to be
held responsible for morally bad actions, not morally good actions.
Moreover, Dr Scholten distinguished three different senses of the
“ought-implies-can-principle” according to the conception of ability
involved here. Only the strongest one needs the metaphysics of
transcendental idealism, Dr Scholten maintained, while the weaker ones
are not only sufficient for Kant’s moral purposes, but can be secured
on a more or less classic compatibilist account. Dr Scholten’s claim
amounts to the assumption that Kant actually tried to prove too much in
his theory of freedom, a thesis which of course provoked lively
discussion among the audience. The lecture was attended by 10 people.
回答率と非回答率の理論
講師:吉村治正(奈良大学社会学部教授)
日時:2018年3月13日(火) 13:30 - 16:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館3階大会議室
【概要】
本講演は、社会調査協会の研究会として開催を予定しているものです。社会調査協会は、社会調査に関する研究者・実務からなる一般社団法人で、「社会調査士」という資格を出している団体です。
社会調査協会は毎年、社会調査に関する研究会を開催しており、2018年は奈良大学の吉村治正教授(慶應義塾大学大学院社会学研究科出身)をお招きして、社会調査における非標本誤差の問題についてご講義いただく予定です。
詳細はこちら(PDF)
パフォーマンスアート・レクチャー
講師:Bartolome Ferrando(ヴァレンシア大学美術学部教授)
日時:2017年11月28日(火) 16:30 - 18:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟第1会議室
主催:Keio ABR
【概要】
世界的なパフォーマンスアートの作家バルトロメ・フェランド氏をお呼びする。
彼のビジュアルポエトリーについてレクチャー及び実演をしていただく。
【講演会報告】
ヴァレンシア大学で美術教授でありパフォーマンスアートの作家バルトロメ・フェランド氏の講演会は三つのパートに分かれ行われた。1部では過去の作品をスライドで回顧し解説を加える。2部では簡単なワークショップとして、氏の音響詩の基本的な構造をふまえ、全くの意味を持たない語の発話を来場者ととも試した。休憩のあと、5つのパフォーマンスが上演された。ダダ、フルクサス、具体詩の流れにある音響詩は、幾つかの動作とともに発話される音声によって構成され、ビジュアル・ポエトリーの真髄を味わうことができた。
戦後の日本の舞台 喜劇からストリップ
講師:西条 昇
日時:2017年10月31日(火) 14:30 - 16:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟第1会議室
主催:Keio ABR
【概要】
戦後の日本の舞台活動に現場で関わり、その後、研究者としても同じテーマで活動している西条さんに、喜劇あるいはストリップというパフォーマンスについてお話いただく。
【講演会報告】
戦後70年にわたり、ストリップの草創期やその起源、劇場や喜劇俳優(コント)との深い関わり、最近の動向などを、100近い資料映像とともに、ご自身が落語家を目指し、喜劇俳優としても活動していた西条さんに、熱っぽく語っていただいた。会場には江戸川大学の西条ゼミ生14名、他に「スト女」と西条さんが呼ぶ、ストリップ観劇を趣味にする女性も多く聴講にきており、質疑も盛んに行われました。
現代アートと感情管理
講師:槌本 紘子
日時:2017年10月25日(水) 11:00 - 15:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 457教室
主催:Keio ABR
【概要】
スウェーデンを活動拠点にしている槌本紘子氏は、社会的な事象に直接に参与する、あるいは鑑賞者が直接に作品に関与して初めて成立する作品を制作してきた。今回は彼女の作品を土台にして、社会とアートの関わりを、リサーチベースのアートとして見ていきたい。
【講演会報告】
スウェーデンを活動拠点にしている槌本紘子氏は、今日は同じくアーティストのソニア・ヘドストランドさんとチームで、感情や身体に関わるワークショップを行った。ほぼ一日にわたる長時間のワークショップにもかかわらず、多くの参加者が熱心に、エクササイズと呼ばれる小さなアクションを、個人あるいは数人グループで行い、体験後の感想をシェアするという構成であった。相手への肯定、否定といった態度での会話から、3人がそれぞれの悲しい話をキャンパスを歩きながら話し、残りの二人がじっくり聞く。あるいはジェンダーの特性をそれぞれ自認する性とは別の性として行ってみる、など多種に渡るものだった。参加者が身体化された諸々を意識する姿は見事であった。
ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは
講師:工藤 安代(「アート&ソサイエティ」代表)
日時:2017年10月19日(木) 15:30 - 17:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館GSEC
主催:Keio ABR
【概要】
社会に強く関わりながら製作されるアート、Socially Engaged Artsの動向を紹介していただく。社会学的なテーマと接近法を、アート実践が取り込みつつ作業している実態を知ることで、逆に、アート実践を取り込んだ社会学的実践を構想する。その道筋が提示される。
【講演会報告】
工藤氏によって、SEAソーシャリー・エンゲイジド・アートについて、まず今年の2月にアーツ千代田で行われた展覧会に出品された作品や作家を中心にその活動やコンセプトから、社会への介入を行うアートの実例が紹介された。その後で、SEAの特徴や歴史を追うために、60年代の脱美術館運動、ハプニングスなどのパフォーマンスアートの登場、さらにコミュニティや社会的なイシューに特有なアート、関係性のアートなどが紹介され、手際よく、SEAの全体像が明らかになった。質疑も活発に行われた。
演劇ワークショップ
講師:柏木 陽(NPO演劇百貨店 代表)
日時:2017年10月5日(木) 11:30 - 14:30(変更あり 事前に問い合わせください)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 457教室
主催:Keio ABR
【概要】
「私たち演劇百貨店はワークショップの活動を通して、子どもたちに自己表現、コミュニケーション、創造の喜びを分かち合える場を提供したいと考えています。
これまで私たちは、演劇を中心とする芸術表現の現場でおのおの活動をする一方、劇場や学校、児童館などの現場において、ワークショップ型の事業を行ってきました。 そしてそれらの活動において、双方向型・参加型の舞台芸術活動が、とりわけ対人関係の苦手な子どもたちをときほぐしてゆく過程に立ち会いました」という演劇百貨店の代表である柏木さんに、参加者と共に、演劇表現のワークショップをしていただく。身体的な知のありようをいかに構築するか、その方向性を見いだすための講演会である。
【講演会報告】
ワークショップは二部に分かれ、前半は、集団、個人あるいはペアでの身体動作のワークから始まり、後半は数人のグループでの身体表現を試みた。一葉の絵画作品を5、6人の身体を使って表現し、それを鑑賞者がどの絵であるかを推測するゲームなどを取り入れつつ、行われた。普段、身体を使った表現には慣れていない学生たちが主に対象であったが、相互批評を交えながらの表現活動が徐々に形になっていく姿は興味深い。また柏木さんが、締めの言葉として、いかにその場の安全、安心、信頼を形成するのかについて言及していたが、それは授業空間を形成する者にとっては非常に価値ある言葉であった。
アイヌ文化を継承する人々 - 重層化する共同性原理をめぐって
講師:関口由彦(成城大学民俗学研究所研究員)
司会:三尾裕子(慶應義塾大学文学部教授・文化人類学)
日時:2017年7月27日(火) 18:00 - 20:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟313教室
【概要】
近年、「誰がアイヌであるか」という問題をめぐって、出自/血統にもとづく帰属集団の固定化が見られる一方で、それとは異なる自/他承認のあり方もまた、「血」、「系譜」、「地域」、「仲間」といった区別の基準が複雑に錯綜する地域社会の内に秘められているのではないだろうか。本講演は、現代のアイヌ民族の文化継承をめぐる動きを詳細に検討することで、生活/活動の「場」を共有する直接的な人と人とのつながりに基づく共同性について考察するとともに、民族の境界を越えるトランスエスニックなつながりによる共生の可能性を展望する。
【講演会報告】
「誰がアイヌであるのか」という問題は、近代日本の複雑な歴史、政治的な経緯の中で、大変にセンシティブな問題であり続け、出自/血統にもとづく帰属集団の固定化が見られ、それに伴う様々なステレオタイプ化した言説が流布してきた。しかし、本講演では、最近では、それとは異なる自/他承認のあり方が生まれていることを、北海道日高地方におけるライフ・ヒストリー調査を通して論じている。具体的でローカルな「生活館」という人々が集うことができ、アイヌ文化の伝承活動を行ったり、あるいは、単にそこにたむろすことができるような生活/活動の「場」においては、その「場」を共有する人々が、独自の「血」や「系譜」の解釈、「地域」「仲間」といった具体的な関係性などの基準が錯綜しながら、共同性を築いている。こうした営みは、アイヌによる主流社会への異議申し立てを意図したものでは決してないものの、逆に民族の境界を越えるトランスエスニックなつながりによる共生の可能性を開くことにより、和人/アイヌの境界をゆるがせにする可能性を秘めていることが明らかにされた。
発表後の質疑では、様々な人々の語りの背景となる社会的、政治的な動きと、話者の年齢などが、語りの変化に及ぼす作用に関してや、「血」の論理についてのアイヌの人々の解釈に関して、また当該地方におけるアイヌと和人との関係性に関して、アイヌ社会(文化)の地域差などについて、活発な議論がなされた。
なお、今回の講演会は、「慶應義塾大学人類学研究会」との共催で行われた。
概念分析 エスノメソドロジーの現代的展開
講師:浦野茂(三重県立看護大学教授)
日時:2017年7月25日(火) 15:30 - 17:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟第一会議室
【概要】
浦野氏は、エスノメソドロジー研究の第一人者であり、概念分析という手法をもって多様な現象を分析しています。最近は、当事者研究、発達障害研究を分析の場として、保健、医療の社会学にも独自な貢献をしています。今回は浦野氏にご自身の研究の足跡を踏まえつつ、最新の研究についてご紹介していただきます。
【講演会報告】
浦野氏は、エスノメソドロジー研究の第一人者であり、概念分析という手法をもって多様な現象を分析しています。今回は、自閉症研究を事例にして、彼が取り組んでいる最近の研究について報告していただきました。ソーシェルスキル訓練という一般的に発達障害のケアに利用される手法を例にして、現場のビデオ映像を元に、詳細なトランスクリプトを作成し、それによって現場で何が行われているかを詳細に記述する。また当事者による自己発見にまつわる言説の仕組みを詳
細に描き出すなど、エスノメソドロジーの醍醐味を平易に報告してもらいました。
また最後には、従来のエスノメソドロジー研究とは一線を画するような現場(相互行為環境)のリ・デザインなども提案されました。図書館情報学博士課程をはじめ、一橋大学、東京大学、立教大学からも若手研究者を聴衆に集め、非常に活発な議論が行われました。
超高齢多死社会におけるデス・ワークの探究:葬儀業の活動からみる死と看取りの現在
講師:田中大介(東京大学 大学院総合文化研究科 学術研究員)
司会:三尾裕子(慶應義塾大学文学部教授・文化人類学)
日時:2017年7月18日(火) 18:00 - 20:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟313教室
【概要】
わが国における年間総死亡者数が130万人を超えるに至った今日、死という出来事を受けとめる社会-文化システムも刻々と変化を遂げています。今回の発表では、死と遺体を扱うデス・ワーク(死の仕事)の中心に位置づけられる葬儀業を調査対象として研究を展開してきた田中大介氏を招き、多様な事例を通じて現代の死と看取りをオーディエンスの皆さまと共に考えていきたいと思います。
【講演会報告】
今回の講演では、「葬儀業」(葬儀社、葬祭業)の現場でのフィールドワークに基づき、少子高齢化が進行する日本で、「看取り/看取られる」という関係や、遺体や死の扱いの変容が考察された。わが国における年間総死亡者数が130万人を超えるに至った今日、高齢者の死において「看取り/看取られる」という互酬的関係が成り立ちにくくなっていること、そしてそのことによって、「葬儀業」のサービスが、単なる「死後の処置」から、「人生の終末に向けた生前からの対処」という次元に進出し、また、サービスを利用する側も、どのように生きるかという「生」と連続した次元で、生前から死や葬儀及びその後を葬儀業に託すようになっていることなどが明らかにされた。 質疑応答では、日本における死をめぐる人々の観念、親族組織や共同体の弱体化などと連動する葬儀業の展開、日本以外の地域と比較した場合、どのような特徴がみられるのか、また、病院での死における医療従事者によるエンゼルケアと葬儀業による遺体処置などとの連続性について、日本における葬儀の在り方の時代的な変遷など、多岐にわたる質問が出され、活発な議論が交わされた。死をめぐる問題は、従来人類学では、異文化における死の儀礼の象徴分析などが主流であったが、少子高齢化が進行する日本社会における死と看取りをめぐる実践の様態については、いまだ詳細な研究は多くはない。ディスカッションが盛り上がったことからも見て取れるように、死や看取りは、多くの人にとって身近な社会問題でもあることから、今後のこの分野の研究の展開が大いに期待される。 なお、今回の講演会は、「慶應義塾大学人類学研究会」との共催で行われた。
Misconceptions in Behavior Analysis
講師:Dr. Paul Romanowich (University of Texas, San Antonio, 大学院社会学研究科 訪問講師)
日時:2017年7月7(金) 17:30 - 18:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟第3会議室
【概要】
Research on Behavior Analysis misconceptions gained popularity during the 1980's as a result of the 'cognitive revolution' of the 1970's.
However, by the late 1990's little new empirical research had been
published. I will give a brief overview of this early research, and then describe new research in our laboratory focusing on 1) whether those misconceptions measured in the 1980's are still prevalent in 2017, and 2) how Applied Behavior Analysis can benefit from empirical research on misconceptions, especially as it relates to the parent's of children diagnosed with autism.
【講演会報告】
Romanowich博士により、行動分析学についての誤った概念(MC: misconception)について、2つの実証研究が紹介された。第1の研究では、MCの記述は互いにグループ化されうるのか、信頼性についての反応が選択可能となると、ある記述がMCであることをより正確に示すようになるのかを調べた。結果では、MCの記述間でのグループ化には一貫した傾向はなく、MCの記述のうち8つが正確さと信頼性の間に有意な負の相関があり、学生たちは、むしろ自分たちの間違った答えをより信頼する傾向があった。第2の研究では、もしも自分たちの子供が自閉症スペクトラム障害と診断されると、応用行動分析(ABA)についてのMCが大きいほど、ABAでの有効な処置を求めようとする傾向が小さくなるかをみた。この実験はMCが増加するに従い、参加者は、1)行動分析学的処置をより求めなくなりがちで、2)その代わりの処置に頼る傾向が強く、3)行動分析学的処置についての全体的印象も減少した。まとめると、行動分析学についてのMCは現在もはびこっており、そのことによって自閉症スペクトラム障害などについての効果のない処置の選択に導く可能性があることを指摘された。他大学の学部学生、大学院生、教員、ポスドク研究員の方々にも参加いただき、活発な質疑応答が行われた。
三田社会学会
日時:2017年7月1日(土) 13:00 - 17:45
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6・7階G-Lab
受付:12:00 -
共催:三田哲学会
【2017年度大会プログラム】
総会 13:00 - 13:15
自由報告 13:15 - 13:45
司会:佐川 徹(慶應義塾大学)
一般報告 阿久津 昌三(信州大学教育学部)
「アフリカ諸国の独立記念式典 - 特に、ガーナ共和国の独立記念式典を中心として -」(報告20分・質疑応答10分)
休憩 13:45 - 14:15
シンポジウム「サバイバーの社会学」 14:15 - 17:45
報告者(報告順):
高山 真氏(慶應義塾大学文学部非常勤講師)
「生残者が体験を語る意味 長崎被爆者とのライフストーリー・インタビューから」
佐藤 恵氏(法政大学教授)
「被災障害者・犯罪被害者の生きづらさとその支援」
金菱 清氏(東北学院大学教授)
「ライティングヒストリーの展開 - 東日本大震災と20年の聴き取り調査敗北宣言」
討論者:
有末 賢氏(亜細亜大学教授・慶應義塾大学名誉教授)
鈴木 智之氏(法政大学教授)
司会:浜 日出夫
The Fate of Sociology in the United States
講師:Prof. John Lie(カリフォルニア大学バークレー校社会学部)
日時:2017年6月14日(水) 16:30 - 18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎432教室
【概要】
カリフォルニア大学バークレー校社会学部ジョン・リー教授は理論社会学、エスニシティ研究などがご専門の社会学者であり、現在海外副指導教授として慶應義塾大学を訪問中です。この機会を捉え、”The Fate of Sociology in theUnited States”(「合衆国における社会学の運命/死」)と題する講演をしていただきます。
アメリカ社会学は今日、多様化・多極化・分散化が進行し、各分野にはそれぞれ代表的な研究者はいるものの、かつてのパーソンズ、マートン、ゴフマン、ホマンズのような、分野をまたいでアメリカ社会学を代表する社会学者は見当たらないように思えます。今回はリー教授に外からは見えにくいアメリカ社会学の現状についてお話しいただきます。ぜひご参加ください。
【講演会報告】
ジョン・リー教授には”The Fate of Sociology in the United States”(「合衆国における社会学の運命」)と題し、アメリカ合衆国のローカルな大学制度・社会学界の個別的な事情と関わらせつつ、社会学の200年近くに及ぶ来し方と行く末についてご講演いただいた。参加者は元日本社会学会会長矢澤修次郎氏を含め40名を超え、講演後活発に意見交換がなされた。
日本認知心理学会第15回大会(三田哲学会共催)
日時:2017年6月3日(土)・4日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス各教室
共催:学術会議・心理学・教育学領域「社会につながる心理学」分科会
・より詳細な情報につきましては、大会Webページ大会Webページをご参照ください。
・なお、シンポジウム以外の企画につきましては、大会参加の手続きをおとりの上ご聴講いただきますようお願いいたします。
【シンポジウム】
[S1] 司法における確証バイアス: 認知心理学から見た問題と対応策
2017年6月3日(土) 10:00 - 12:00 シンポジウム・総会会場 (517教室)
企画者:伊東 裕司(慶應義塾大学)、楠見 孝(京都大学)
話題提供者:笹倉 香奈(甲南大学)、服部 雅史(立命館大学)、楠見 孝(京都大学)
指定討論者:厳島 行雄(日本大学)
[S2] 〔支援隊企画ワークショップ〕公正・罰に関する心理学的研究の現状とこれから: 行動計測アプローチと脳機能計測アプローチから
2017年6月3日(土) 13:15 - 15:15 シンポジウム・総会会場 (517教室)
企画者:新岡 陽光(法政大学大学院人文科学研究科)
話題提供者:森芳 竜太(東京大学)、斉藤 真由(東京大学)、福島 由依(日本大学)、新岡 陽光(法政大学)
指定討論者:綿村 英一郎(大阪大学)
[S3] 認知研究のアイデンティティ: 認知心理学と認知科学の交流へ向けて
2017年6月3日(土) 15:30 - 17:30 シンポジウム・総会会場 (517教室)
企画者:本田 秀仁(東京大学)、植田 一博(東京大学)
話題提供者:鈴木 宏昭(青山学院大学)、原田 悦子(筑波大学)、日高 昇平(北陸先端科学技術大学院大学)
[S4] 神経科学から考える認知研究のドメイン
2017年6月4日(日) 10:00 - 12:00 シンポジウム・総会会場 (517教室)
企画者:梅田 聡(慶應義塾大学)、羽倉 信宏(情報通信研究機構)
話題提供者:山本 慎也(産業技術総合研究所)、四本 裕子(東京大学)、羽倉 信宏(情報通信研究機構)、開 一夫(東京大学)
[S5] 《一般公開》〔社会連携シンポジウム〕社会の中での認知心理学の受容と齟齬:もう一つの社会につながる心理学を目指して
2017年6月4日(日) 14:30 - 16:30 シンポジウム・総会会場 (517教室)
企画者:川畑 秀明(慶應義塾大学)、熊田 孝恒(京都大学)
司会:川畑 秀明(慶應義塾大学)
話題提供者:箱田 裕司(京都女子大学)、熊田 孝恒(京都大学)、三枝 千尋(花王(株))、磯田 和生(大日本印刷(株))、深谷 美登里((株)東芝)
指定討論者:原田 悦子(筑波大学)
私益と共益が錯綜する公共的意思決定のプロセスデザインに関する研究
日時:2017年5月24日(水) 15:00 - 18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟B会議室
【概要】
公共的意思決定が必要とされる場面、例えば基本計画策定などおいて、どれだけよい施策が計画されても、多くの人々に共有され、実践に繋がらなければ絵に描いた餅になってしまう。そこで、共通目標を持って取り組めるよう話し合いのプロセスが不可欠となるが、関心の程度や価値や利害が異なる場合には特に容易には共通目標の共有化はできない。本研究は、どのような話し合いの場をデザインすれば、より異なる価値を乗り越え、共通の目標の取り組みを促進しやすくなるのかについて、実験、調
査、そして現場での実践を通じて明らかにすることを目的とする。本プログラムは、北海道を舞台に環境政策の現場に関わる主体との協働実践を通じて、研究成果の還元も同時並行で進めている。さらに、本プログラムは、社会心理学、経済学、社会学等社会科学の学際研究推進のプラットフォームとしても機能している。本講演ではその中間成果報告を行う。
【講師】
大沼進(北海道大学)
肥前洋一(高知工科大学)
安保芳久(北海道環境財団)
青柳みどり(国立環境研究所)
宮内泰介(北海道大学)
久保田学(北海道環境財団)
基礎心理学は社会心理学に貢献できるか - 社会心理学における実験の姿 -
企画・司会:竹村和久(早稲田大学)・坂上貴之(慶應義塾大学)
日時:2017年5月14日(日) 14:00 - 17:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス
【概要】
日本基礎心理学会2017年度第1回フォーラム(三田哲学会共催)
今回のフォーラムにおいては社会心理学における実験を取り上げ、現在基礎系で行われている実験手続きや装置等が、この分野における実験的研究を推進することに寄与するかどうかを考える縁(よすが)としたい。講演者は、いずれも社会心理学の分野で、その分野での実験的手法を用いて研究を推進されている第一線の研究者の方々である。なお、本フォーラムは三田哲学会との共催となっており、関心のある方であればどなたでも参加できる。
【講演者】
竹村和久(早稲田大学) 「意思決定研究と実験法」
森久美子(関西学院大学) 「行動実験による社会的態度の測定」
増田真也(慶應義塾大学) 「社会調査における回答行動に対する実験的アプローチ」
指定討論者:広田すみれ(東京都市大学)・坂上貴之(慶應義塾大学)
【講演会報告】
今回のフォーラムにおいては社会心理学における実験を取り上げ、現在基礎系で行われている実験手続きや装置等が、この分野における実験的研究を推進することに寄与するかどうかを考えた。
竹村和久氏は、社会心理学での実験法の位置づけを簡単に述べ、その中でも個人的意思決定や社会的意思決定についての研究における実験法の位置づけやその研究例について報告された。森久美子氏は、実験ゲームを用いた利他性や公平性の測定のほか、行動実験を用いたステレオタイプや偏見などの態度測定について紹介された。増田真也氏は、社会調査項目への回答に見られる様々な反応バイアスについて、特に中間選択傾向に関しての実験を紹介された。
いずれも聞きごたえのある講演で、聴衆との間では熱のこもった論議がなされていた。
温かさの社会心理学:温度を介して描かれる自己と他者
講師:大江朋子(帝京大学文学部准教授)
日時:2017年3月31日(金) 10:30〜12:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎451教室
【概要】
他者との相互作用は,多かれ少なかれ身体を用いた活動です。自分や他者の姿勢,視線,表情,声,匂い,心拍数や血流量など,その時々で身体で処理される情報の助けを受けて,人は自分や他者をとらえ,状況に応じた判断や行動を柔軟に実行しているといえます。
身体で処理される情報のなかでも,社会心理学においてとりわけ関心が寄せられてきたのは温度でした。自分や他者の「温かさ」「冷たさ」についての知覚は対人的な印象形成や行動を方向づける力をもつと考えられます。
大江先生は、こうした温度と対人的な相互作用との関連についての社会心理学的な研究の第一人者です。
今回の講演会では,温度が自己や他者の認知にどのように影響するかを調べた諸研究を紹介していただきながら,人が社会生活を営む上で身体感覚のもつ重要性を論じていただきます。広く社会心理学に関心をお持ちの皆さんの参加を歓迎いたします。
【講演会報告】
今回の講演は、温度(室温、体温)と他者評定との関連性に関する一連の実験の紹介であった。ある実験では、冷たい飲み物に比べ、温かい飲み物を手にした場合は、対象人物の人柄を高く評定することが見出された。しかし、ジャンケンや手合わせ遊びを5分間行って手の温度を高めた場合は、他者の人柄評定が低くなった。これは、その背後に原因帰属(温度を高めたものが外界か自己内部か)が介在していることが推測された。別の実験では、室温と実験者の人柄評定との関連性が見出され、実験中の身体温度の低下が自分よりも実験協力者(サクラ)の人柄を高く評定していることが見出された。また、さらに別の実験では、従属変数として潜在連合テストを用いて非意識レベルの他者評定についても検討された。発表後、質疑応答が行われ、「温かい」という表現(言葉)のない文化における当該現象の解釈、データの測定方法、社会心理学的研究方法の問題点などについて議論された。
予測誤差という社会の縮図:自己・他者・世界の成立と不成立
講師:浅井智久(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
日時:2017年3月29日(水) 11:00〜12:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎431教室
【概要】
社会という単位の中で自己あるいは他者は定義され,自他間のコミュニケーションを通じて言語が発達し,文化や思想が伝承される。このような世界の成り立ちを支える「自己表象」はどのように獲得されるのだろうか。いろいろ遡って行くと,意外かもしれないが,自己は運動に生まれるのかもしれない。近年の認知神経科学は,私達がスムーズな運動制御を実現している背後で,実は感覚入力ソースの自他判別が行われている可能性を指摘してきた。この自他判別は,脳内の順モデルによる「予測された感覚」と「実際の感覚フィードバック」の照合によって「予測誤差」が検出されることで実現され,主体感(sense of agency)の基盤となっている。この主体感の機能不全は,統合失調症の症状や高齢者の認知機能の問題とも密接な関連が指摘されるようになってきた。
講演者は主に心理行動実験を用いて,自己表象のメカニズムに対する基礎研究に加えて,統合失調症との関連についての応用研究を行ってきた。本発表では今までの研究を紹介し,自己という「主観的体験」が,予測誤差という単純な「物理量」の累積で説明されうることの意味を発展的に議論したい。特に,いろいろなレベルでの「予測」が,私たちの世界を彩り,多様な社会を形成していると考えたい。
【講演会報告】
人間は「自己」をどのように把握するのだろうか。他者から分離されたものとしての「自己」の成立を、身体感覚における予測誤差という視点から実験的に検討した講師の一連の研究について講義を得た。画面上で曲線をカーソルで追うという作業時に、作業者本人の動きに、他者の動きを重ね合わせることで予測誤差を生み出すと、カーソルから得られる主体感が減少する。そうした際の自己感の変化には、時間経過や、作業者本人の特性も関係することが示された。こうした「予測」と、そこからの「誤差」というものが、統合失調症などの精神病理や、さらには社会の成り立ちにも関わる可能性について活発な議論が行われた。
顔・表情認知における社会的・環境的文脈の影響
講師:中嶋智史(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
日時:2017年2月28日(火) 11:00〜12:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 142A教室
【概要】
顔・表情は、個体識別や、感情・意図の理解、印象形成など様々な情報の読み取りに用いられる社会的ツールであると考えられる。私は、これまで成人および、幼児、動物(げっ歯類)を対象にして顔・表情認知のメカニズムおよびその発達的、進化的基盤について検討してきた。
本講演では、まず、個体識別において重要と考えられる顔記憶に注目し、顔記憶において、表情、視線方向などの社会的文脈および、暗闇などの環境的文脈の影響を検討した研究について紹介し、顔記憶における社会・環境的文脈の果たす役割や機能的な意味について考察する。
次に、これまで視覚情報をほとんど利用していないと考えられてきたげっ歯類を用いて実施した表情識別能力の検討についての研究を紹介し、げっ歯類においても他個体からの社会的シグナルを認知可能であること、またその認知が、人と同様に社会的・環境的文脈によって変化する可能性があることについて述べる。
【講演会報告】
社会生活を送る上で、他者(他個体)の顔の認知は重要な意味を持つ。顔の認知には、顔そのものの記憶、表情の認知などさまざまな側面がある。さらに表情によって顔の記憶し易さが変化することや、そこに外的環境や、記憶主体の特性が影響することもある。
当日は、中嶋氏がこれまで行ってきた研究から、1)表情と視線方向が顔記憶におよぼす相互作用、2)顔記憶への環境明度と記憶主体の状態不安が与える影響、3)実験室ラットにおける同種他個体の表情認知機能、4)表情認知と温度の概念的関連性にかんする研究について、講演していただいた。大学院生、ポスドク研究員の方々にも参加いただき、活発な質疑応答が行われた。
コミュニケーション場面における社会的認知過程解明の試み
講師:菅さやか(愛知学院大学教養部専任講師)
日時:2017年3月4日(土) 10:30〜12:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎514教室
主催:三田哲学会
【概要】
社会的認知とは、人が自己や他者などの社会的事象を理解したり、それについて意味を見出したりする心の働きや仕組みのことを言います。社会的認知研究は社会心理学の中でももっとも多くの研究蓄積がある分野といえますが、多くの研究は、人が社会的事象をどのように記憶・判断するかといった個人内の認知過程の解明に主眼を置いており、コミュニケーションなどの他者との対人的相互作用との関連を考慮している研究は多いとは言えません。菅さやか先生はこうした研究に一貫して取り組まれてきた、数少ない研究者です。本講演では、菅先生が近年取り組まれている、説明行為が事象の実在性認知に与える影響の研究を中心に、コミュニケーション場面における社会的認知過程の研究動向についてご講演いただきます。
【講演会報告】
今回の発表の主眼は、ある事象に関する情報を他者に伝えることが、伝達者の当該事象に対する認知や感情に影響を与えるという点であった。宮本・菅・太幡(2015)の研究グループは、こうした現象を「説明効果」と命名した。実験では、実在しない品物について他者に商品目的や商品開発プロセスを説明することを通して、その実在性をどの程度認知するかを評定させた。その結果、特に、元々の実在性認知が低い品物(四角いサッカーボール)については、他者に対する説明を通して、その実在性を高く認知するようになったことが見出された。そして、言語、認知、文化の三者を含めた社会的認知研究の重要性に関する考察が展開された。その後、実験デザイン、方法、説明効果の解釈などについて質疑応答が活発に行われた。
パフォーマンス・アートの世界
講師:ゴンザーロ・ラバナル(Gonzalo Rabanal)
日時:2017年1月29日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス ノグチルーム
主催:ABR研究会
共催:三田哲学会
【概要】
「社会学特殊9」の授業でパフォーマンスアートの実践を行っており、学生による公演を予定しています。それに合わせて、海外よりアーティストを招き、実演とアーティストトークを依頼します。参加者にとって、世界のアートの第一線で活躍するアーティストの実演やトークは非常に興味深い機会となります。
【講演会報告】
30日より東京、大阪、長野で開催される日本パフォーマンスフェステイヴァルに参加するために来日した海外のパフォーマンスアーティストが自らの作品やコンセプト、来歴についてレクチャーした。3名の講師のほか、スペイン、アルゼンチン、フィリピンなどから来日のアーテイストも同じくレクチャーをしてもらったため、非常に贅沢な講演会となり、聴衆は大満足したと思われる。それぞれの作家の個人的、社会的背景の解説は、パフォーマンスアートの可能性を様々な次元に展開する土台にもなった。
これからのウィトゲンシュタイン--刷新と応用
日時:2016年12月17日(土)・18日(日)
場所:慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎1階シンポジウムスペース
主催:荒畑靖宏(慶應義塾大学)[協力:山田圭一(千葉大学)・古田徹也(新潟大学)]
共催:三田哲学会
【プログラム】
12/17(土)
13:00-13:30:基調講演「これからのウィトゲンシュタイン--刷新と応用」(山田圭一)
13:30-14:50:記念講演1(講演60分;質疑応答20分):「ムーアのパラドックス、思考動詞、主観性」(飯田隆[日本大学];司会・荒畑靖宏)
15:00-16:40:第1シンポジウム(発表60分[30分×2];コメント20分;討論20分)
「ウィトゲンシュタインと教育」(司会:古田徹也)
(A)「晩期ウィトゲンシュタイン哲学の教育学的含意--『確実性の問題』から」(平田仁胤[岡山大学])
(B)「近代教育批判とウィトゲンシュタイン--90年代以降の受容と展望」(渡邊福太郎[慶應義塾大学])
(C)「教育実践としてのウィトゲンシュタイン哲学」(丸山恭司[広島大学])
16:55-18:25:第2シンポジウム(発表60分[30分×2];討論30分)
「ウィトゲンシュタインと社会科学」(司会:山田圭一)
(A)「法学の問題とウィトゲンシュタインの可能性」(大屋雄裕[慶應義塾大学])
(B)「相互行為のなかで「見ること」」(西阪仰[千葉大学])
18:40-20:30:懇親会(来往舎ファカルティ・ラウンジ:定員50名)
12/18(日)
10:00-11:30:記念講演2(講演60分;質疑応答30分):「可能性の総体としての空間について」(野矢茂樹[東京大学]:司会・山田圭一)
13:00-14:20:第3シンポジウム(発表60分[30分×2];討論30分)
「『論理哲学論考』を読みなおす」(司会:荒畑靖宏)
(A)「「はしご」としての『論理哲学論考』の読み方と哲学の可能性」(吉田寛[静岡大学])
(B)「実在と階層--『論理哲学論考』における「関数」のリダンダンシーについて--」(野村恭史[北海道大学])
14:35-17:15:第4シンポジウム(発表90分(30分×3);休憩10分;討論60分)
「計算すること、従うこと」(司会:古田徹也)
(A)「中期ウィトゲンシュタインの数学の哲学--前期の「規則と計算」と後期の「規則 と計算」を繋ぐ」(岡田光弘[慶應義塾大学])
(B)「数学の外と内における時間--ウィトゲンシュタインの「像」概念の展開に向けて」(岡本賢吾[首都大学東京])
(C)「機械は《言語ゲーム》をプレイできるか」(田中久美子[東京大学])
17:15-17:20:閉会の挨拶(荒畑靖宏)
Artist Presentation by Sonia Hedstrand
講師:Sonia Hedstrand
日時:2016年11月29日(火) 14時〜15時30分
場所:慶應義塾大学 三田キャンパス 研究室棟223教室
共催:ABR研究会主催・三田哲学会
【講師紹介】
She is a Swedish artist who works with video, photography, text and performance. Currently researching for a new project on emotional and performative labour in Tokyo Japan. Alumn from Whitney Independent Study Program, New York, 2012. Master in Fine Arts from the Royal Institute of Art, Stockholm 2011. Takes part in several artist run initiatives and collaborations such as Nollywood Hustlers, The Drinking Brothers and 0s+1s Collective. Freelancing writer in the essay format, as well as a teacher and lecturer in video, photo and text based art, feminist perspectives and political activism at several art schools and universities in Sweden and abroad.
ヘドストラントさんは、スウエーデンで活躍するアーティストで、今回、日本における感情労働、パフォーマンス労働をリサーチし、アート作品にすべく短期に東京で滞在しています。今回のテーマは、アートをつかって社会学をするアートベース社会学を、アーティストの側より接近するものと考えられ、非常に示唆的な議論が期待されます。日本のホストクラブへの参与観察を土台にした作品「Ukiyo Diary」は母国でも高い評価を受けています。
【講演会報告】
ヘドストラントさんによる講演は、スライドやビデオを使い、自身の作品のいくつかを紹介し、アートを様々な文脈で批判的に捉え返す思考を披露した上で、数年前に新宿歌舞伎町のホストをテーマにして制作された「Ukiyo Diary」および、今回の滞在目的である日本における感情労働、パフォーマンス労働のリサーチ(今回は隠し撮りなどではなく、インタビュー)について説明してくれました。参加者からは積極的な質問が提起され、それに対して熱心に回答する彼女の姿勢には感動すら覚え、非常に有意義な講演会となりました。一ヶ月の滞在の最終日にこれだけの話題を提供してもらったことには、参加者一同深く感謝した次第です。
Event Memory: A Theory of Episodic and Autobiographical Memory Based on Scene Construction not the Reliving of a Single Event.
講師:David C. Rubin (Professor, Duke University, Department of Psychology & Neuroscience)
日時:2016年11月6日(日) 14時〜
場所:慶應義塾大学 三田キャンパス 大学院校舎325B教室
共催:三田哲学会
【概要】
The idea of separating memory for events (episodic memory) from memory for knowledge (semantic memory) using introspection the as the data, dates back to antiquity. Memory for events was a category for memories from one’s own life, that were from events that occurred at a specific time and place, and that came with some kind of a warm personal feeling, such as reliving. Behavioral studies combined with advances at the neural level including recording from rodent hippocampi, structural neuroimaging of neuropsychological cases, and functional neuroimaging have added knowledge that can change the nature of the conceptual distinction between memory for events and memory for knowledge to one based on scene construction. Because we understand the visual system better than we understand judgments of reliving, this advances science and allows integration across levels of analysis and subject populations not possible with the older theories.
【参考文献】
Rubin, D. C. & Umanath, S. (2015). Event memory: A theory of
memory for laboratory, autobiographical, and fictional events. Psychological
Review, 122, 1-23.
* 入場無料 申し込み不要 講演は英語でおこないます(通訳無)
Rubin教授は、自伝的記憶研究の第一人者であり、今回の講演では、心理実験や神経心理学的データに基づき、新しい記憶研究の枠組みについてのお話がうかがえるものと思います。奮ってご参加ください。
【講演会報告】
講演の内容は、記憶研究者の間で当たり前のように考えられている出来事の記憶であるエピソード記憶と知識の記憶である意味記憶の区別に対して異を唱える、刺激的かつ挑戦的なものであった。難解な内容で聞き取りやすい英語ではなかったが、同席した北海道大学の仲真紀子教授の部分的な解説によって、参加者の理解は助けられたものと思われる。質問も、講演者が講演時間後も教室に残り、個別的な質問を受けてくれたため、学生も質問ができたようであった。
関西倫理学会2016年度大会(三田哲学会共催)
日程:2016年11月5日(土)・6日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス第一校舎
プログラム
〈11月5日〉
【研究発表会】
■第一会場(102教室、13:00〜15:15)
「ケアの倫理と愛の現実--重なりと異なりの分析から」小西真理子(国際基督教大学)
「環境プラグマティズムの方法論とロールズ=ハーバーマス論争」大石敏広(北里大学)
「『実存』する間柄--和辻哲郎における『実存哲学』の受容と衝突」服部圭祐(京都大学)
■第二会場(104教室、13:45〜15:15)
「ルソー『社会契約論』の再構成」下地真樹(阪南大学)
「フィヒテ初期道徳論における義務意識について」佐々木達彦(同志社大学)
【依頼講演】(101教室、15:30〜16:15)
「現代医療における生権力と生命倫理」松島哲久(大阪薬科大学)
〈11月6日〉
【研究発表会】
■第一会場(102教室、11:00〜12:30)
「道徳的責任についての信念と事実」井保和也(京都大学)
「人格の同一性とその整合性」石毛弓(大手前大学)
■第二会場(104教室、11:00〜12:30)
「生きる意味としての学問--中期ニーチェにおける『認識』概念の変容をめぐって」井西弘樹(大阪大学)
「道徳の『価値』を問題にするということ--ニーチェ『曙光』における『あらゆる価値の価値転換の試み』」谷山弘太(大阪大学)
【シンポジウム】(101教室、13:30〜16:30)
テーマ『自由と平等』
「戦後レジームにおける自由と平等」白井聡(京都精華大学)
「自由と平等の和解--ロールズの正義の二原理の意義と限界」林芳紀(立命館大学)
「中世の二人の思想家とリパブリカニズム」山口雅広(龍谷大学)
MIPS 2016 三田哲学会 哲学・倫理学部門 例会
日時:2016年10月22日(土) 12時45分〜18時10分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎515番教室
プログラム
【研究報告】
12:45〜13:30 前期ハイデガーにおける本来性の概念の存在論的解釈 山下智弘 君(文学研究科博士課程)
13:30〜14:15 トマス・アクィナスにおける存在と本質の区別と超越概念 内山真莉子 君(文学研究科博士課程)
14:25〜15:10 人生全体についてコミットするとはどのようなことか 長門裕介 君(文学部非常勤講師)
15:10〜15:55 思想なき美という思想 -民芸品の美が教えてくれるもの- 林晃紀 君(国際センター非常勤講師)
【講演】
16:10〜17:10 アリストテレスにおける動物の知性と表象 --『動物誌』から魂論へ 金子善彦 君(文学部准教授)
司会:荒畑靖宏 君(文学部准教授)
17:10〜18:10 「包むもの」をめぐって -西田・田辺・高橋- 田中久文 君(日本女子大学教授)
司会:柘植尚則 君(文学部教授)
私たちの表現とダンス ~Embodiment の視点から~
講師:橋本有子(ダンサー、お茶の水女子大学・武蔵野大学・杏林大学非常勤講師他)
日時:2016年10月13日(木) 12時〜14時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457番教室
共催:ABR研究会・三田哲学会
【概要】
橋本氏は、学芸大学で教育学、お茶の水女子大学大学院で舞踊、ニューヨーク州立大学大学院でダンスを修め、長くアメリカで活躍したダンサーです。今回は、橋本氏が研究実践するラバンムーブメントアナリシスを軸にしながら、参加者とともにワークショップ形式で作品作りにも挑戦する予定です。
講師プロフィール:自身の動きを思考することを通し、長年悩まされていた腰痛を克服。現在、大学非常勤講師を務める(体育・ダンス)傍ら、乳幼児のダンスレッスンをはじめ、身体運動を専門として番組づくりや社会教育プログラムに関わる。お茶の水女子大学大学院、ニューヨーク州立大学大学院にて身体/ダンス教育法、Laban/Bartenieff Institute of Movement Studies(ブルックリン市)でラバン運動分析法を学ぶ。
【講演会報告】
ラバンの運動分析が簡単に説明された後で、参加者の自己紹介が行われる。この時、自己紹介に自分で動きをつける、この動きから、徐々に作品を作り上げるというワークショップが2時間をかけて行われた。参加者はダンスという、非日常的な次元からではなく、身体の動きという当たり前に日々常に行っている素材から自分たち自身で舞踊が構成されるという経験を得ることができ、身体への気づきを新たにした。
Kantian Autonomy without Self-Legislation of the Moral Law
講師:Marcus Willaschek(Johann Wolfgang Goethe Universität, Frankfurt am Main)
日時:2016年10月12日(水) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南館4階会議室
共催:三田哲学会
【概要】
「自律(autonomy)」はカント倫理学にとって中心的な概念であり、標準的な解釈によれば、自律とは道徳法則の自己立法のこととされるが、そのような理解に対して現在さまざまな批判が投げかけられている。それに対し、ヴィラシェク教授が提示するのは、道徳法則それ自体を自己立法的なものとみなさず、むしろ「自律を命じる」法則とする代替案である。本講演では、この新たな解釈とその有効性についての彼の考えが提示される予定である。
なお、今回の講演はP・クラインゲルトとの共著原稿にもとづいてなされる予定である。
【講師紹介】
Prof. Dr. Marcus Willaschek
1962年生。ミュンスターで哲学、生物学、法学、心理学を学び、1991年にペーター・ロースの下、"Praktische Vernunft Handlungstheorie und Moralbegründung bei Kant"で学位(Ph. D)を、1999年に教授資格を、それぞれ取得した。2003年より、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学(ドイツ、フランクフルト)哲学教授。
【講演会報告】
Professor Willaschek presented a new interpretation of one of the core elements in Kant’s ethics, namely the idea of autonomy or self-legislation. In Kant the principle of autonomy commands to act only on those maxims which we ourselves could legislate as moral laws. This is to say we need to act, as if we were the head of the ethical community who enacts laws. According to this new interpretation, the principle of autonomy itself is not self-legislated, but only provides a test mechanism for maxims, i.e. fundamental principles of action. This new reading triggered an intensive discussion and invited the audience to reconsider their stance on the fundamentals of Kantian ethics.
インド・オディシャ州における舞踊家・小野雅子の文化創造
講師:小野雅子(舞踊家・Mudra Foundation代表), 松尾邦彦(演出家・メディアアーティスト), 小林三旅(映像作家)
コメンテーター:稲田奈緒美(舞踊評論家・慶應大学理工学部非常勤講師)
日時:2016年9月30日(金) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス ノグチルーム (定員40名:先着順)
お問合せ先:imoto.yuki@gmail.com (井本由紀)
共催:三田哲学会
【概要】
本シンポジウムでは、古典インド舞踊家小野雅子氏の芸術と社会活動を「オディシャ・ビエンナーレ」と「ドクラプロジェクト」の事例を中心に報告する。
オディシャ・ビエンナーレは、古典舞踊やコンテンポラリーダンスなどのパフォーミングアーツを軸に、映像、ファインアート、デザイン、ファッション等、様々な分野のアーティストがオディシャに世界各地から集い、創造的な表現の場を継続的に育むことを目指している。小野氏はオディシャ・ビエンナーレが目指す文化創造のあり方を次のように説明している:
「インドや日本のアジアの美は、大衆文化や日常性を併せ持つものから離れることができないリアリティと芯の強さをその美の中に含んでいます。オディシャビエンナーレでは、インド文化が持つ様々な美意識を軸に、インドと日本、またはインドと各国の美の基準が混ざり合い、既存の美術の枠を越え世界的な視点を持った、アジア的な新しい芸術観が創造されることを目指しています。」
本シンポジウムの第一部では、舞踊評論家稲田奈緒美氏と演出家松尾邦彦氏を迎え、オディシャビエンナーレが目指す「アジア的な芸術観」の意味と意義を掘り下げていく。
シンポジウムの第2部では、映像作家小林三旅氏と小野雅子氏が中心となり「ドクラプロジェクト」について報告する。ムドラーファウンデーションはラタン・タタ・トラストの支援のもと、オディシャ州の伝統工芸ドクラDhokraに焦点をあてたプロジェクトを2009年に始めている。ドクラは4000年前から続くとされる製法(ロストワックス製法)による真鍮細工であり、オディシャ州南部の60以上もの部族民の一部の集落によって作られている。ドクラを作る集落の人々は従来、生活用品や神像などを作り周辺の部族民と物々交換をしていたが、現在はドクラの置きものやネックレスを土産品として作り、現金に換え生活している。収入は月収2000~3000ルピー(家族単位)と推定されている。ムドラーファウンデーションは、ドクラを作る三つの集落において人々の生活様式、美意識、経済観念を調査し、記録し、本として出版した(2016年10月出版予定)。小野氏は、「今後は日本のアーティストやデザイナーに協力を仰ぎ、世界中で販売できるような付加価値の付いた商品企画を作る」ことを目指しているという。本シンポジウムでは、アートと文化人類学の観点から、ドクラプロジェクトの今後の展開と可能性について探る。
【小野雅子氏 略歴】
東京都出身インドオディシャ州在住。モダンダンス、ヒップホップ等を経て、1996年からオディッシーダンスを学ぶために渡印。世界レベルのインド舞踊家を育成輩出するインド舞踊名門校ヌリッティアグラムに入門。 1998年からヌリッティアグラムのダンサーとして、数多くの公演活動をするとともに、日本でレクチャー・デモンストレーションやワークショップを開く。2001年からソロ公演を始め、世界各国にて公演。2007年から日本人としては唯一のインド政府公認オディッシーダンサーとなり、同年、NHK BS1「ファーストジャパニーズ」に出演。2008年NEWSWEEK誌「世界が最も尊敬する日本人100人」の一人として選ばれる。現在は、ソロ公演を中心に活動するとともに、コンテンポラリーダンサーやフュージョンミュージシャンとのコラボレーションによるタントリックダンスのパフォーマンスも展開している。2009年にムドラーファウンデーションを創設。2012年にオディシャビエンナーレを始動。
【講演会報告】
9月30日のシンポジウムは、舞踊家・小野雅子氏のオディッシーのパフォーマンス(純粋舞踊・サヴェリパッサヴィー)から始まった。その後、小林三旅氏を中心に、ムドラー・ファウンデーションの活動である「ドクラ・プロジェクト」の報告があり、ドクラの製法過程の映像が紹介された。何千年も続くとされる製法の技術を「改善・改良」する、あるいは「伝統」「芸術」としての価値を見出す、という意識が集落の人々にはないことに小林氏は焦点を当てている。現時点ではドクラプロジェクトは製法の記録活動のみを行っているが、今後、(日本人芸術家を中心とする)ムドラー・ファウンデーションは現地とどのような姿勢で協力をし「文化創造」を行うべきなのか、という問いに取り組むことの重要性とその難しさが明らかになった。次に、松尾邦彦氏を中心に、ムドラー・ファウンデーションのもう一つの柱である「オディシャ・ビエンナーレ」の紹介があった。オディシャ州ではコンテンポラリー・アートはこれまでほとんど上演・展示されることがなく、そのような「文化」「芸術」に対する一般的な認識が希薄であることが指摘された。オディシャ・ビエンナーレを世界的に知られる芸術祭へと育てる目標とともに、オディシャ州現地に根ざした文化創造の重要性が議論された。インド現地で20年以上暮らし、オディシャの自宅兼スタジオ・スクールから芸術教育活動を発信している小野雅子氏を中心に、従来の西洋中心モデルから脱却した新しい芸術祭づくりのあり方を模索する必要性が語られた。
より有益で、より効率的な研究をデザインしよう
日時:2016年9月22日(木・秋分の日)
[午前の部]9:30〜12:00(9時開室)
[午後の部]13:30〜17:30(18時閉室)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館G-SEC LAB(東館6F)
共催:科研費・挑戦的萌芽研究「社会心理学の再現可能性検証のための日本拠点構築」, 慶應義塾大学 三田哲学会
【概要】
近年、心理学における実験結果の再現性が疑われる事態が生じています(Open Science Collaboration, 2015, Science)。この心理学の危機に対して、従来の心理学研究における慣習の問題点と、その解決法が指摘されてきました(参考:池田・平石, 2016)。
今回、科研費・挑戦的萌芽研究「社会心理学の再現可能性検証のための日本拠点構築(代表:三浦麻子・関西学院大学教授)」と慶應義塾大学・三田哲学会の共催により、こうした動きの最前線で活躍されているDaniel Lakens博士(Eindhoven University of Technology)を招いて、講演会とワークショップを企画しました。これまでのやり方をただ批判するのでは、そこから、よりinformativeかでよりefficientな研究デザイン方法を、実践的に講義し、さらには発展的な内容について議論します。奮ってご参加下さい。
※講演・ディスカッションは英語で行われます。ディスカッションにおいては、企画チームや、利他的な参加者によるサポートがあることでしょう。
※おおよその参加予定者数を把握したいので、事前登録をお願いしております。
https://goo.gl/forms/z5Qc2R5CgekNDhk53
【講演会報告】
講演では、心理統計における各種概念(p value, effect size, confidence interval, likelihood, Bayes factorなど)の再確認を導入として、統計検定におけるType I errorとType II errorをいかに適切に統制しつつ、他方でいかに効率的に研究を進めるか、sequential analysisなどの具体的な手法について解説が行われた。さらに既存の報告を評価する手法としてのp curve analysisの紹介などを経て、心理学研究がよりinformativeかつeffectiveなものとなるためには、研究計画の事前登録と事前審査、マテリアルの公開、データの公開といったopen scienceの促進が必須であることが論じられた。
学期開始直前/直後の祭日に、朝から夕方まで一日がかりのワークショップであったことに加え、大雨という悪条件が重なったものの、逆に言えばそれだけの悪条件の中で集まった聴衆のモチベーションは高く、休憩時間に至るまで、講師を囲んで、または聴衆同士で活発な議論が行われる、充実したワークショップとなった。
Dr. Lakensの厚意で、講演スライドは一般公開されており、共催である科研プロジェクトのWebサイトからダウンロードできる。また当日のライブ記録として、参加者によるTweetのまとめが作成されている。講演内容のみならず、講演では触れられていない、関連する日本語文献の紹介もなされている。
スライドのダウンロード
http://asarin.team1mile.com/replicability/jsps_kakenhi/activity_log/20160922lakensws
Tweetまとめ
http://togetter.com/li/1027774
アルゼンチン司法人類学チームの活動:「失踪」から「死」への書き換え
講師:石田智恵(日本学術振興会特別研究員PD(東京大学))
日時:2016年7月28日(木) 18:15〜20:15
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟313教室
司会:三尾裕子(慶應義塾大学文学部教授・文化人類学)
【講演要旨】
1976-83年の軍事政権下で行われた弾圧・粛清の被害者である3万人とも言われる「失踪者」の存在は、アルゼンチン社会がいまも直面し続ける大きな問題のひとつである。旧軍部が沈黙を守り続けるなか、拉致されたまま行方がわからない人物は、遺体が発見されないあいだ、生にも死にも分類できない「失踪」の状態が続く。残された親族や知人は徹底した不確定という困難な状況に置かれる。多くの人々が直面するこの耐え難い状況を解決する運動として、民主化の直後に結成された「アルゼンチン法人類学チーム」による一連の失踪者身元特定の取り組みがある。同チームの作業の結果、少しずつながら着実に「失踪者」のリストは短くなり続けている。そしてかれらの技術と経験は世界各地の紛争後地域で必要とされ、各地に継承されてきた。
本報告では、「日系失踪者家族会」メンバーへのインタビューを基に、「失踪者」というあいまいな存在であった家族の「死」が確認されることをめぐる反応、影響を考察する。近年になって遺体の身元が特定された例を含め、親族の語りが示す「失踪」の特殊性を、死をめぐる人類学の議論をふまえて論じたい。
【講演者プロフィール】
立命館大学大学院先端総合学術研究科修了、現日本学術振興会特別研究員PD(東京大学)。研究テーマは20世紀後半アルゼンチンにおける人種概念、移民の位置づけと権威主義政治の関係についての人類学的考察。日本人移民コミュニティを中心としてブエノスアイレスで調査を行なっている。最近の業績として、「軍政下アルゼンチンの移民コミュニティと「日系失踪者」の政治参加」『コンタクト・ゾーン』7号、京都大学大学院人間・環境学研究科、2015年。
【講演会報告】
アルゼンチンでは、1976-83年の軍事政権下で、「失踪」という名の下での政治的な弾圧・粛清が行われた。このような中で、「失踪」した人々の多くは、生死すらもわからない状態が続き、残された家族、親族、知人は、徹底的な不確定という困難な状況におかれたという。本報告では、「日系失踪者家族会」のメンバーを対象として、「アルゼンチン司法人類学チーム」による失踪者の身元特定の取り組みを通して、「失踪者」というあいまいな存在であった被害者の家族の、「死」が確認されることをめぐる反応、影響を考察した。失踪者の家族たちは、司法チームから「遺体」の発見を告げられることで、「死」が確定され、服喪が可能になる。しかし、「死」の確定作業は、失踪者を通常の死のように生者から切り離すのではなく、むしろ、失踪者を個人として社会の網の目の中に回復させ位置づけなおす作業としてとらえられるべきものであるという。すなわち、発表者は、失踪者は通常の死のカテゴリーとは異なる文化的カテゴリーの中に位置づけられるべきものであると、結論付けている。
質疑応答では、本事例での「文化的カテゴリーとしての失踪」あるいは「失踪者の文化」という場合の「失踪」が、災害や個人の意思による失踪などの場合とどう区別されうるのか、また「遺体」や「失踪」の調査地言語における含意、日系でも沖縄出身者が多いと推測される家族会の人々が持っている死生観などがいかなるものであったのか、など、多方面にわたる質問が提起された。周囲の人間にとっての理不尽な死(失踪)という事象は、アルゼンチンの個別事例を超えて敷衍して考えることができる問題であり、参加者にとっては刺激的な講演であった。
温故知新、青春から学ぶ -故きを温ねて、新しきを知る-
日時:2016年7月26日(火) 13:00〜18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館大ホール
講演言語:日本語・英語
ゲスト:長田 孜(画商、長崎原爆被爆者、慶應義塾大学昭和25年卒),鈴木 敏夫 (スタジオ・ジブリ代表取締役社長・プロデューサー),David J. Freedman (慶應義塾大学環境情報学部教授)
発起人・モデレーター: 鈴木雅人(慶應義塾大学SFC研究所所員)
参加費:無料、事前申込必要(100 名程度)
連絡先:『フリードマン研究会“Free Discussion” @λ301』(Sankoo.takataka@gmail.com)
共催:三田哲学会
【概要】
「常識」を、どのように疑えばよいのだろうか。「グローバル社会」、「IT 化」、現代の潮流である言葉や概念を、我々はどう問い直せばよいのだろうか。当企画では、我々の常識 に今一度問いかける。
時代を超えて、今なお近代性を放ち続けるゲストの方々をお呼びし、その原点を探る。「温故知新」をもとに、彼らの「青春」から紐解いていきましょう。いまも昔も、ひとはどう考え、どのように社会を見るのでしょうか。
幅広い世代の参加を期待して大学内で開催します。どうぞふるってご参加ください。
バリの伝統芸能における<時・場・文脈>
講師:増野亜子(東京芸術大学・明治大学他非常勤講師)
日時:2016年7月21日(木) 18:30〜20:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟313教室
司会:三尾裕子(慶應義塾大学文学部教授・文化人類学)
【講演要旨】
インドネシア、バリ島の芸能と音楽は、第一義的にはバリ・ヒンドゥの儀礼の中で供物として奉納される儀礼的側面を強く持つものであるが、同時に神々と人々の両方に喜びを与える創造的な活動でもあり、共同体の中に深く根ざしている。
この発表ではバリのガムラン音楽と舞踊を、(1)音楽的な相互作用としての側面、(2)上演の<場><時><文脈>との関係、(3)伝統芸能の現代化と政策の関わりの3点を中心に考察する予定である。
【講演者プロフィール】
東京芸術大学大学院音楽研究科修士課程修了、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科比較文化学専攻博士後期課程単位取得退学。博士(人文科学)。現在、東京芸術大学、明治大学他非常勤講師。
専門は民族音楽学。インドネシア、バリ島を中心とする東南アジア芸能の研究に携わる。バリの伝統音楽ガムランの演奏や指導も行っている。
【講演会報告】
今回は、バリのガムラン音楽と舞踊について、(1)音楽的な相互作用としての側面、(2)上演の<場><時><文脈>との関係、(3)伝統芸能の現代化と政策の関わりの3点が中心的に考察された。
(1)については、まずもって、ガムランという音楽が楽譜を使用せず、身体的に習得・記憶されるものであって、共演者たちの間で身体的・音響的・視覚的にコミュニケーションしながら音楽が進行するという特徴を持つことが紹介された。特に、ガムランではインターロッキングinterlockingという奏法が用いられるが、この奏法が他者の身体との融合によって可能になるものであることが強調された。
次に(2)では、ガムラン音楽は、<場><時><文脈>によってまとう衣装も、音楽のありようも変わってくることが紹介された。すなわち、どのような時と場で、どのような人がいて、何が求められているのか(文脈)を感知することで、パフォーマンスが生成されるのである。
(3)については、観光化やグローバル化の進行の中でのガムラン音楽の変容あるいは適応といった問題が考察された。具体的には、バリの伝統芸能を「神聖な」芸能と「世俗的」芸能に分類し、後者を観光芸能として切り離すことで、「神聖な」芸能を守る試みがなされている。また、グンデル・ワヤンという本来地味な打楽器による演奏について、後継者を確保するという目的で始められた子供を対象として競技会が、衣装が華美になったりパフォーマンスの動作が過剰になっていくことで、見られる芸能として変化してきている実態が紹介された。
質疑応答では、グンデル・ワヤンの競技会によって、グンデル・ワヤンの後継者が育ったとして、彼らが身に着けた身体性がグンデル・ワヤンを変質させてしまう可能性はないのか、グンデル・ワヤンの隆盛は、テレビやSNSなどとどのような関わり合いを持つのか、また、バリのガムランのあり方は、中部ジャワなどとはどう異なっているのか、など、たくさんの質問が提起され、活発な議論が展開された。
宗教、制度演化與人類的利他行為(宗教、制度の発展と人類の利他行為)
講師:Chiang Yen-Sheng(江彦生、香港中文大学社会系 Assistant Professor)
日時:2016年7月2日(土) 17:00〜19:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎473教室
講演言語:中国語、日本語通訳付き
共催:三田哲学会、慶應義塾大学人類学研究会、JFEアジア歴史研究助成「膨張する中国による東アジア新秩序下の中台関係に関する人類学的研究」研究会
【概要】
人間の本質は利己的か、それとも利他的でありうるだろうか。この問題は長らく哲学や科学において、論議がなされてきた。利己ないし利他の程度は、人によって異なるだけではなく、個人が所属する社会の文化や制度の影響を強く受けてきた。本公演では、過去十年来の進化人類学と心理学(「演化人類學與心理學」、Evolutionary Anthropology and Psychology)を紹介しながら、宗教制度と利己的あるいは利他的行為の相関関係を論じる。まず利己的行為、利他的行為の定義およびそれにかかわる一連の問題について議論を行い、行動学派が用いる検証方法と研究の枠組みを紹介する。その後、過去十年来の学界(進化人類行動学派)が、宗教制度と自己の集団を利することを目的とする行為との関係について明らかにしてきたことを振り返る。最後に今後の検討課題について論じ、異なる領域の研究が相互に共同しあうことで、こうした問題を解明することを期待したい。
【講師略歴】
PhD (University of Washington)。専門は社会行動科学(social behavioural science)。江教授はpro-sociality、すなわち社会や集団の利益を追求するために個人がいかに犠牲にするのかについて、特に、ソーシャルネットワークが人々がpro-socialな行動を形成する際に果たす役割についての研究を進めている。最近の業績として、2015 "Good Samaritans in networks: An experiment on how networks influence egalitarian sharing and the evolution of inequality". PLoS ONE, 10(6): e0128777。また講演として、「太陽の下の雨傘とひまわり ソーシャルメディアと香港、台湾の学生運動」 講演会「台湾、香港の若者の意識とソーシャルメディア」2015年11月4日 於北海道大学。
【講演会報告】
本講演では、人間の本質は利己的か、それとも利他的でありうるか、という問題について、進化人類学や心理学などのディシプリンからアプローチした研究が紹介された。
まず、講演者は、利他行為とは、自分の利益を損なう(あるいは自分には無益である)ことがあっても、他者の利益を図る行為と定義した。次に、利他行為に関する様々な学術的な研究が紹介された。特に、講演者の専門である行動学派におけるdictator gameの手法により、人類学者と共同で行われたパプア・ニューギニア、フィジー、ケニア、北シベリア、タンザニアでの調査事例が説明された。その後、利他行為の進化人類学的な研究として、宗教における利他行為が取り上げられた。分配実験という手法を用いた世界15の民族における行動実験においては、普遍宗教との接触度合いが高まるにつれ、価値があると認識されるモノであっても、他者に均等に分配しようとする傾向が強まるという結果が得られた。また宗教プライミング実験などの研究から、公開で行われる宗教的な集会に参加した人ほど社会化が促進されることや、宗教的な経験を共有することによって、他者への信頼が増し、所属するグループへのアイデンティティが強化されることなどが導かれた。
講演会には、人類学、進化心理学、医学など多方面の専門家、院生や慈善団体の関係者など、さまざまな参加者が集まり、活発な議論が展開された。
2016年度三田社会学会大会シンポジウム:〈家族主義〉を超えて - 戦後70年の家族と連帯
日時:2016年7月2日(土) 14:30〜17:45
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎445教室
共催:三田社会学会・三田哲学会
【概要】
本シンポジウムは、戦後日本における「家族主義」という問題の歴史的・理論的・学説史的な分析を通じて、現代における社会的連帯の可能性を検討しようという試みである。
これまで家族社会学の領域では、家制度や近代家族、福祉政策などさまざまな文脈で「家族主義への批判が展開されてきた。本シンポジウムでは、この家族主義に焦点をあてて、戦前から戦後へ、そして戦後70年のなかで何が変化したのか、あるいは、通底している問題は何かを検討してみたい。さらに、「後期近代」や「個人化社会」と称される現代、「家族主義」の問題はいかなる状況にあり、この問題を克服するうえで何が必要なのかを議論したい。本シンポジウムでは、4名の報告者が、家制度、農村、社会的養護、マイホーム主義といったそれぞれのテーマを通じてこの課題に取り組む。
コメンテーターは、家族政策の歴史的検討や沖縄での調査に基づく近代家族の再検討等をおこなってこられた静岡県立大学の犬塚協太氏と、近代家族や戦後家族の研究を牽引してこられた中央大学の山田昌弘氏のお二方にお願いしている。
【司会】
渡辺秀樹(帝京大学)
【報告者】
1.本多真隆(早稲田大学):「家」の越境と断絶 - 敗戦直後の家族論を中心に
2.芦田裕介(宮崎大学):戦後農村における地域社会の変容と家族主義 - 「空き家問題」を中心に
3.藤間公太(国立社会保障・人口問題研究所):社会的養護にみる歪んだ家族主義
4.阪井裕一郎(日本学術振興会):「マイホーム主義」を問いなおす - 家族を超える連帯のために
【討論者】
犬塚協太(静岡県立大学)
山田昌弘(中央大学)
ギフトエコノミーの可能性・ギフトによる社会関係構築
講師:熊倉敬聡(元慶應義塾大学、元京都造形大学教授)
日時:2016年6月15日(水) 14:00〜15:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟223番
【概要】
熊倉氏は、フランス思想の研究の他、長らく、アートと社会の関係を思索や実践の対象としてきた。今回は、熊倉氏の最近のテーマの一つである、贈与行為に焦点を当て、脱資本主義的な生の技法への道筋を、「ギフトによる社会関係構築」としてお話しいただく。アート、哲学、現代思想、社会学を問わず、今この時代をいかに生きて行くのか、社会が全面的に合理化されるなかで、私たちの生を見直したいと考える。
【講演会報告】
実践的に行なわれているギフトサークルについての理論的な考察。「くらしごと」というオルタナティブ活動を「聖なる経済学」を執筆したエイゼンシュタインの紹介を通じ話された。またガタリのエコゾフィー議論を援用しながら、資本主義とギフトエコノミーの対比関係が説明された。最後にはギフトエコロジー、urban permacultureなども紹介され、エネルギー、気の循環や流通の重要性が、環境、主観性、社会関係という場面に即して議論された。その後は、参加者によってギフトエコノミーをめぐって活発な議論がなされた。継続するギフトの関係のありようはいかなるものなのか、近代資本主義への反照としての存在が見出された。
基礎心理学の新しい方法を拓く ビッグデータ・生体センサー・タブレットの活用
講師:櫻井保志(熊本大学)・安藤英由樹(大阪大学)・景山 望(海上自衛隊)
日時:2016年5月21日(土) 14:00〜17:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎2階522教室
共催:三田哲学会・日本基礎心理学会
【概要】
情報を取得あるいは提示する環境は、ここ数年大きく変わってきています。様々なデバイスの登場と進展は、基礎心理学においても刺激提示の仕方、データ収集のあり方、その分析の仕方に影響を与え始めています。このシンポジウムでは、「基礎心理学の新しい方法を拓く」という観点から、ビッグデータを使ったデータマイニング(とりわけその時系列処理の実際)、センサーを用いた無意識的な情報提示とそのフィードバックによる感情操作、タブレットを使ったフィールドでの基礎研究という、異なる方法論を活用しておられる工学者、心理学者から話題提供をいただき、基礎心理学における新たな方法論の可能性、有効性について知り、議論する機会を持ちたいと思います。
【講演概要】
・櫻井保志(熊本大学大学院自然科学研究科)
「時系列ビッグデータ解析とその応用」
近年のIoTデバイスの急速な普及に伴い、それらのデバイスから多様かつ大量のデータ
が生成され続けている。また、FacebookやTwitterなどの巨大なソーシャルネットワーク上を大量の情報が高速に流通するようになっている。増え続ける大規模なデータ、すなわち時系列ビッグデータを高速に解析する時系列データマイニング技術は非常に重要になっている。本講演では、講演者が取り組んでいる時系列ビッグデータ解析技術、特に非線形テンソル解析に基づく予測技術の研究を紹介する。さらに時系列ビッグデータ解析の応用例として、具体的な事例をいくつか紹介する。
・安藤英由樹(大阪大学大学院情報科学研究科)
「意識下応答を活用した情報提示デバイスの研究」
現在のスマートフォンやPCなどはほとんど意識上で判断し注意を払わなければ,その利用は難しい。一方で,日常的な行動のなかにはほとんど無意識で行っているとも多い。本講演ではほとんど知覚されないが行動に強い影響を与える刺激手法や,無意識に行っていることをセンシングし,知覚されない刺激をフィードバックすることで情動を誘導する技術について紹介する。
・景山 望(海上自衛隊潜水医学実験隊)
「新たな認知機能検査ツールとしてのタブレットの有用性」
実際の労働現場などで認知機能を測定する際,使用機材や実施時間に制約が伴うことから,測定項目が限定されることがある。1台に複数のアプリが実装可能であり携帯性に優れたタブレット端末は,測定環境に左右されない認知機能検査ツールとなる可能性を秘めている。本講演では,タブレット端末を用いた心理学研究や労働現場で認知機能を測定した研究を紹介し,様々な測定環境においても認知機能検査を実施できるツールとしてのタブレット端末の有用性について議論する。
【講演会報告】
本講演会では,全体タイトルを「基礎心理学の新しい方法を拓く - ビッグデータ・生体センサー・タブレットの活用 -」と題し,3名の研究者による講演をもとに,新しいデータ解析あるいはデバイス利用に関する議論の場がもたれた。熱気に包まれた講演とその質疑は3時間を越え、充実した時間となった。講演内容の概略と注目を集めた点は以下の通りである。
第一講演者であった櫻井保志氏には「時系列ビッグデータ解析とその応用」と題し,データサイエンスの最先端の知見とそれを用いた最新の技術と可能性についてお話をいただいた。特に生態学のアイデアを元にしたデータマイニングや,データが示唆するモデルをリアルタイムにモデルデータベースを登録しつつ,今後の変化についての予測を行う技術、それらを支えるMANT(multiple aspects nonlinear tensor)の考え方などに注目が集まった。
第2講演者の安藤英由樹氏には「意識下応答を活用した情報提示デバイスの研究」と題して,意識下という心理学とも深く関連する領域に関連する,工学的な具体的デバイスの開発並びにそうした開発にまつわる今後の問題点についてのお話をいただいた。特にMMN脳波を利用したニューロフィードバックの技術などのあまり心理学では知られていない知見や,意識下に関わる様々な技術についての倫理的問題の発生の可能性は、興味深い話題であった。
景山望氏による「新たな認知機能検査ツールとしてのタブレットの有用性」のお話では,海底での高圧下における現場作業での心理的検査の実施の困難さから始まり,これを克服するためのスマートフォンやタブレットの利用の可能性,そして世界的レベルで現在開発されているこうした新しいデバイスを利用した心理学実験の現状が紹介された。同氏のタブレットを用いた研究は今まさに進行中であるが、紹介されたこうした新しいデバイスでの研究可能性は、今後一層高まると考えられる。
他者の生(ライフ)を受け止める「聞きなぞり」の手法―高齢者のライフストーリーを演じ継ぐ/記憶を生き直す―
講師:石野由香里(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教)
日時:2015年2月9日(火) 14:30〜17:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 旧万来舎ノグチルーム
【講演会報告】
各方面から15名もの参加者を迎え、石野さんと学生演技者(早稲田大学4年生)により、同じテーマで三回ほどのパフォーマンスがなされ、その都度、参加者との意見交換が行われた。ある団地に居住する高齢者の語りを聞き、それを聞いた側が自分の身体を通じて、いかにこなし、いかに表現するのかが問われた。語りの内容とともに、それを語る高齢者の仕草や表情、語り口を端的になぞることで、逆に、他者へ接近するという試みだった。社会学では聞き取りやインタビューは基本作業のひとつだが、多くの場合は、文字に起こされる語りの内容だけが対象にされてしまう。語りという出来事をいかに全体として引き受けるのかについての実験的な試みで、参加者も非常に熱心に加わっていた。
マクダウェルのカント解釈のその後
講師:村井忠康
日時:2015年1月20日(水) 13:00〜14:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎473教室
共催:三田哲学会
【概要】
ジョン・マクダウェルの主著『心と世界』(神崎繁・河田健太郎・荒畑靖宏・村井忠康訳、勁草書房、2012年;原著:John McDowell, Mind and World, Harvard U. P., 1996)の共訳者の一人であり、現在マクダウェルとその周辺の哲学状況についてもっとも詳しい哲学者である村井忠康さんをお招きして、『心と世界』以降のマクダウェルのカント解釈の発展について講演していただきます。
【講師略歴】
村井忠康
ジョン・マクダウェルの主著『心と世界』(神崎繁・河田健太郎・荒畑靖宏・村井忠康訳、勁草書房、2012年;原著:John McDowell, Mind and World, Harvard U. P., 1996)の共訳者の一人であり、現在マクダウェルとその周辺の哲学状況についてもっとも詳しい哲学者である村井忠康さんをお招きして、『心と世界』以降のマクダウェルのカント解釈の発展について講演していただきます。
パフォーマンス・アートとは? 講演、実演、ワークショップ
講師:北山聖子(アーティスト)・濱田明李(アーティスト)
日時:2015年12月10日(木) 11:30〜14:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457教室
共催:アート・ベース・リサーチ(ABR)研究会,三田哲学会
【概要】
パフォーマンス・アートとは何か、講演、実演、ワークショップ形式で参加者に体験してもらう。講師として、2人の女性アーテイストをお呼びする。
本講演の目的は、アートとしてのパフォーマンスをアートの中で知ることではなく、広く、社会科学一般への適用を想定している。広く、アートベースリサーチ(Arts-based Research ABR)と呼ばれるアプローチがポストモダニズム以降、反実証主義的な方法論として提唱され十数年以上になるが、日本での適用例や実践例は、芸術教育系の講義で僅かに見られるものの、社会科学としては皆無である。その理由は、アート表現によって科学的なアウトプットはできないという先入見であり、同時に、研究者が自分の作業にあるアート性を認識しないためである。申請者は、10年以上にわたりアートと社会学の接合を試みており、とりわけ、エスノグラフィーにおけるアートの利用は、演劇的な手法として一定の評価を受けてきた。パフォーマティブ・エスノグラフィ、さらには自己の体験を素材にして、なおかつ他者とともにエスノグラフィーを完成させる、パフォーマティブ・コラボレイティブ・オートエスノグラフィーとして根づきつつある。今回は、最終的なアウトプットの可能性として、演劇より現代アートに近い身体表現であるパフォーマンス・アートを取り上げ、実際に参加者がパフォーマンス・アートを経験する。
【講師略歴】
北山聖子
1982年、長野県生まれ。
東京造形大学絵画科を卒業した後、2009年よりパフォーマンスアートを始め国内外で活動。観客の1人をパフォーマンスに引き込むパフォーマンス、クロード・レヴィ=ストロースの「ブリコラージュ(器用仕事)」をパフォーマンスアートの根幹と考え、簡易なマテリアルと行為の間に意味を生成するパフォーマンスなどを展開する。2009年〜2012年NIPAF(Nippon International Performance Festival)参加。国内は、パン屋会(埼玉)長谷寺秋分祭(長野)おてらハプン!(滋賀)METACTION(東京)等に参加。国外は2011年NIPAFインド・バングラデシュ交流展参加、2013年台湾 Instant42ギャラリーにて個展とパフォーマンス、メキシコAcademia de San Carlosにてパフォーマンス、2014年Miami International Performance Art Festival 参加。
濱田明李
1992年高知県南国市生まれ。2015年武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻卒業。
大学在学中にパフォーマンスをはじめ、2012年より日本国際パフォーマンスアートフェスティバル(NIPAF)による公演やアジアツアーに参加。またライブハウスの企画等に参加し、ライブパフォーマンスを行う。野生、霊性。相容れない事柄同士が交わる領域を行為によって探る。平成26年度武蔵野美術大学卒業制作展で発表したパフォーマンス&インスタレーション「灰の冷たさ、犬の隙間」が優秀作品賞を受賞。
From Cajun Crayfish to Spicy Little Lobster: A Tale of Local Culinary Politics in a Third-Tier City in China
講師:Sidney Cheung(香港中文大学人類学科教授)
日時:2015年12月09日(水) 18:30〜20:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎412教室
共催:三田哲学会・慶應義塾大学人類学研究会
【概要】
本講演では、中国江蘇省におけるザリガニ(crayfish、小龍蝦)を食べる文化の興隆について、特に、地域の祭祀、博物館、地域行事などに関連した調査を通して論じることが目的である。新たに作られたスパイシーなザリガニ料理がローカルな文脈の中で発展してきたことの重要性や、ここ20年ほどの間に中国の3級都市においてどのような変容を見せているかを分析したい。ザリガニは、日本から1930年代にもたらされたが、当初は、これが在地の魚などの資源に悪影響を及ばすために、あまり好まれたものではなかった。しかし、1990年代に「 十三香小龍蝦」という料理が出現したことで、人気が急上昇し、江蘇省のみならず、上海や北京などの大都市にまでこの料理が受け入れられるようになった。本講演では、個々人の味覚がいかに社会政治的な環境と関わっているのかを明らかにしたい。
【講師プロフィール】
Sidney C. H. CHEUNG is Professor of the Department of Anthropology, Associate Dean of the Faculty of Arts, and Associate Director of the Institute of Future Cities, The Chinese University of Hong Kong. His research interests include visual anthropology, anthropology of tourism, heritage studies, food and identity, fragrance and ethnicity; his co-edited and edited books include Tourism, Anthropology and China (White Lotus, 2001), The Globalization of Chinese Food (RoutledgeCurzon, 2002), Food and Foodways in Asia: Resource, Tradition and Cooking (Routledge, 2007) and Rethinking Asian Food Heritage (Foundation of Chinese Dietary Culture in Taipei, 2015). He also serves as a partner of the UNESCO Chair project of Tours University, France on “Safeguarding and promotion of Cultural Food Heritage”.
フォト・エスノグラフィーの可能性と課題 − 文化の「担い手になる/である」ことからの模索
講師:ケイン樹里安(大阪市立大学)
日時:2015年11月17日(火) 16:30〜18:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎475教室
共催:アート・ベース・リサーチ(ABR)研究会,三田哲学会
【概要】
本講義は、調査者がフィールドで自ら写真撮影を行い、写真の選択・配列を行うことで作品化していくフォト・エスノグラフィーという手法がもつ可能性について報告することが目的である。具体的には、まず、観光地化という視角からいくつかの事例を取りあげ、フォト・エスノグラフィーによる社会風景の描写可能性について検討する。次に、「よさこい踊り」という文化現象を題材に、調査者がある文化の「担い手になる/である」プロセスのさなかでフォト・エスノグラフィーを行うというアプローチについて検討する。特に、調査者がある文化の「担い手である」場合に実施されるフォト・エスノグラフィーは、調査者が身体化していた解釈の枠組みを引き剥がし、言語化されてこなかった実践のプロセスを具体性をもって描きうる点について詳細に検討したい。
また、「撮ろうとしたもの」と「撮られたもの」および調査者によって「語られたもの」との関連性を吟味すること、調査対象の独自性やフィールドとの関係性を視覚化すること、といったフォト・エスノグラフィーを実施する際の実践的なポイントを順次指摘する。ビジュアル・ターン以降の社会学の課題についての議論を喚起することも、本講義の目的の1つである。
【講師略歴】
関西大学社会学部卒業。大阪市立大学大学院文学研究科前期課程を修了し、現在同大学院の後期博士課程に在籍。専門は文化社会学。
MIPS 2015 - 三田哲学会 哲学・倫理学部門例会
日時:2015年10月24日(土) 11:00〜18:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎5階522教
【プログラム】
研究報告
11:00 11:45 非字義的意味の論理形式 高谷遼平 君(文学研究科博士課程)
11:45 12:30 前期フィリッパ・フットの道徳哲学 五味竜彦 君(文学研究科博士課程)
13:30 14:15 絶対か相対か -同一性と種別概念の結び付きをめぐって- 横路佳幸 君(文学研究科博士課程)
14:15 15:00 『エミール』における自然的善性について 吉田修馬 君(文学部非常勤講師)
15:00 15:45 ドゥルーズ『差異と反復』における「個体化」理論にかんする一考察
秋保亘 君(文学部非常勤講師)
講演
16:00 17:00 微生物と進化的総合 田中泉吏 君(文学部助教)
司会 岡田光弘 君(文学部教授)
17:00 18:00 美と倫理学(仮題) 樋笠勝士 君(言語文化研究所所員)
司会 山内志朗 君(文学部教授)
三田哲学会共催 医療・文化・社会研究会シンポジウム『宗教・文化・精神療法』
日時:2015年10月5日(月) 18:00 20:30
場所:慶應大学三田キャンパス 南校舎5階452教室
【プログラム】
1) Chris Harding(エジンバラ大学) Religion’ and ‘Culture’ as
Therapeutic Categories in the Work of Kosawa Heisaku
2) Clark Chilson (ピッツバーグ大学) Contemplative Crying: Transformative Insights and the Emotions in Naikan
3) コメント:鈴木晃仁(経済学部・医学史)
司会:北中淳子(文学部・医療人類学)
英国エジンバラ大 学と 米国ピッツバーグ大学から歴史学者・宗教学者を迎え、宗教・文化・精神療法に関する最新の研究についてご発表いただき、国内の歴史学者、 人類学者等を交えた議論の場をもちま す。英国のクリス・ハーディング先生は、インドと日本の比較宗教学的研究で知られており、最近で は日 本の精神分析の創始者である古澤平作のアーカイブを使用する許可 を得た唯一の研究者として、本邦の精神療法の歴史の分析を進めています。 米国のチルソン先生は、仏教学、特に真宗秘密講等長い間民間で伝えられてきた仏教の教えについてのご著書もある宗教学者であり、今回 は仏教の影響を 受けて誕生した内観療法についてご講義くださいます。皆さまのご参加をお待ちしております。
(事前登録は不必要・転送自由です)
英国エジンバラ大学の歴史家クリス・ハーディング先生と 米国ピッツバーグ大学宗教学者クラーク・チルソン先生をお迎えした精神療法と文化、宗教に関する本シンポジウムでは、日本、アメリカ、インドネシア等から幅広い領域の研究者が集まり、活発な議論が行われました。
ハーディング先生は、日本の精神分析の創始者である古澤平作のアーカイブに基づいて、古澤の思想の根底にある宗教観について考察され、チルソン先生は、内観センターでのフィールドワークを基に、内観における感情を論じられました。鈴木晃仁先生のコメントを受け、精神療法を受ける人々の語りや体験の根底にある歴史観について等いくつか新たな論点が出され、今後の日本の精神療法研究の重要な方向性を示す討論となりました。
Kurt Stavenhagen’s Theory of Collective Intentionality
講師:アレッサンドロ・サリーチェ氏(コペンハーゲン大学主観性研究センター)
日時:2015年6月23日(火)16時〜18時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館4階G-SECセミナー室
【講演会報告】
コペンハーゲン大学主観性研究センターからアレッサンドロ・サリーチェ博士を迎えて開催された本研究会では、20世紀初頭にバルト海地域で活躍した哲学者クルト・スターヴェンハーゲンの共同体論と、それが現代の社会存在論にとって持つ意義が論じられた。
サリーチェ博士によれば、選好するものの共有によって(最小限の意味での)グループへの同一化が生じるというスターヴェンハーゲンの見解は、その後の社会心理学の成果を先取りするだけでなく、共同で何かを選好するとはどういうことかに関する哲学的洞察を含んでいる。サリーチェ氏の講演はこの点を明晰にしめすものであり、質疑応答の時間にも活発なディスカッションが行われた。
教育思想史学会
日時:2015年9月12日(土)・13日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎
共催:慶應義塾大学三田哲学会
学会ホームページ:http://www.hets.jp/
2015年度基礎心理学フォーラム
日時:2015年5月9日(土)14時〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎455教室
共催:日本基礎心理学会・慶應義塾大学三田哲学会
【報告者と報告題目】
田谷修一郎(大正大学人間学部)「身体特徴の違いが生む空間知覚の個人差」
松吉大輔(早稲田大学理工学術院)「個人差―連続と異質が交錯するヒト認知の多様性」
内藤智之(大阪大学医学系研究科)「視覚芸術に対する感性の個人差を生み出す脳内ネットワーク」
本講演会は,心理学における個人差について,これまであまり研究対象とされてこなかった基礎心理学の分野での研究の現在について知ることを目的としたものです。日本基礎心理学会と三田哲学会の共催として,3名の講演者をお招きしてシンポジウム形式で講演会を行います。年齢や文化,性別,技術の熟達など,既に個人差研究が盛んな社会学や人間科学,教育学等を学ぶ方々においても,心理学の最先端で何が明らかにされてきているのかを知る良い機会になるかと思います。心理学以外の研究者や一般を含め,幅広い分野の方々にお話を聞いていただきたく企画したものです。
詳細は以下のURLを参照ください。
http://psychonomic.jp/forum/
【講演会報告】
本講演会では,心理学および神経科学を専門とする3名の研究者をご招待し,知覚や認知,脳機能測定の研究において扱いうる個人差研究の動向についてご講演頂きました。田谷先生には,右目と左目の間の離れ具合(両眼間距離)の違いが奥行き知覚などの空間認知に及ぼす影響について,松吉先生には物体認知や顔認知における個人差や自閉症スペクトラム研究における個人差の問題について,さらに内藤先生には絵画印象の脳内基盤と印象の度合いの個人差について具体的な研究例をご紹介頂きました。
本講演会では80名程度が参加し,遠方からの参加者も多く見うけられました。個人差をできるだけ排除するのではなく,個人差やデータのばらつきにも重要な情報が埋もれており,それをどのように活用すれば良いのかや,その生態学的妥当性に関する問題などについて有意義な議論が交わされました。
また懇親会では講演者や司会者らを交え,20名程が参加し,講演会に引き続き活発な議論と交流が有意義になされました(懇親会の費用は実費負担で行いました)。
フッサール研究会 シンポジウムと研究発表
日時:2015年3月14日(土) 12時-19時
3月15日(日) 9時-16時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 第1校舎102番教室[地図]
共催:フッサール研究会
参加費: 1000円(資料代およびお茶代)
なお、三田哲学会会員は、その旨受付で申告していただきますと、参加費が無料となります。
【プログラム】
【一日目(3/14)】
12:00-13:00 受付
13:00-14:20 Nicola Liberati (名古屋大学) "The Borg-eye and the We-I. The production of a collective Leib through wearable computers and its knock-on effects."
14:20-14:30 休憩
14:30-17:00 シンポジウム「情動の哲学と現象学的感情論」
企画:八重樫徹(東京大学)
司会;榊原哲也(東京大学)
提題:服部裕幸(南山大学)(南山大学)、陶久明日香(学習院大学)、八重樫徹
17:00-17:10 休憩
17:10-18:30 特別講演 Nicolas de Warren (KU Leuven) “Trust in the World: Original Doxa and Neutralization in Husserl's Phenomenology”
19:00- 懇親会
会場: 82 Ale House三田店
会費: 一人あたり4000円程度(参加人数によって若干の変動の可能性あり)
*参加予定の方は、3/7までに植村玄輝(uemura.genki[at]gmail.com (http://gmail.com))におしらせください。
【二日目(3/15)】
10:00-11:20 高山佳子(大阪大学)「フッサールの倫理思想とケアの倫理-生活世界に位置づくケアの倫理の原理的探求に向けて」
11:20-11:30 休憩
11:30-12:20 ミーティング
12:20-13:20 昼食
13:20-14:40 石井雅巳(慶應義塾大学)「『全体性と無限』における享受論の実在論的読解ーレヴィナスはいかなる意味で現象学的か」
14:40-14:50 休憩
14:50-16:10 加藤康郎(慶應義塾大学)「現象学的美学の可能性について」
※研究発表要旨とシンポジウム開催趣旨文はこちらで見られます。
【研究会報告】
フッサール研究会との共催で行われた本研究会では、服部裕幸氏(南山大学)をゲストとして迎えたシンポジウム「情動の哲学と現象学的感情論」およびNicholas de Warren氏(KU Leuven)による特別講演”Trust in the World: Original Doxa and Neutralization in Husserl's Phenomenology”をはじめとした、フッサールおよび現象学に関する研究発表が行われた。二日間に渡る長時間の研究会であるにも関わらず、両日とも参加者による活発な議論が行われ、盛況のうちに閉会した。
参加人数(発表者、講演者、研究会幹事は除く):32名(塾内7名・塾外25名)
計量テキスト分析についての研究会
講義内容:計量テキスト分析への招待
講師:樋口耕一(立命館大学産業社会学部准教授)
日時:2015年3月17日(火) 13時30分〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館大会議室(北館3階)
司会:平沢和司(北海道大学文学部)
共催:慶應義塾大学三田哲学会
参加費:社会調査協会会員、三田哲学会会員、慶応義塾大学関係者は無料。それ以外の方は資料代として500円をいただきます。
【講師紹介】
略歴:2000年大阪大学人間科学部卒業、2005年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。日本学術振会特別研究員、大阪大学大学院人間科学研究科助教を経て2008年より現職。
専門:社会学、とくに情報行動についての調査研究および内容分析(content analysis)の方法論。
著書・論文:『社会調査のための計量テキスト分析−内容分析の継承と発展を目指して−』ナカニシヤ出版、2014年。「情報化イノベーションの採用と富の有無−ウェブの普及過程における規定構造の変化から−」『ソシオロジ』57(3):39-55. ほか多数。
備考:
1 当日はソフトウェアを用いた実習形式での講義も行われます。参加者の方は、ノートパソコン(Windows)を持参されることをお勧めします。
2 準備の都合上、出席ご希望の方は3月10日までに下記まで連絡をお願いします。当日参加も可能ですが、原則として申し込みをお願いします。慶應義塾大学・三田哲学会関係者の方は、以下までお願いします。
稲葉昭英(文学部人間科学専攻): ainaba@flet.keio.ac.jp
【研究会報告】
本講演会は社会調査協会の研究会として行われたものであり、三田哲学会には共催していただいた。樋口氏は計量テキスト分析を行うソフトウェアK-H Coder(川畑−樋口コーダー)の開発者であり、参加者はK-H Coderを用いたデータ分析を実習形式で学ぶことができた。K-H Coderは、マスコミ研究などで用いられる内容分析を計量的に分析しうる簡便なソフトであり、語の出現頻度や共起語の集計およびその関連をネットワーク・グラフ表現などによって視覚的に把握すること可能にする。また、質問紙調査などの自由回答をキーワードによって取り出し、比較するなど、これまであまり活用されてこなかったデータを活用しうる可能性を大きなものとした。講演はよく準備され、また内容も明快で、参加者にとってはきわめて満足の高いものとなったように思う。
また、使用させていただいた大会議室はマイク・システムやパソコン用の電源が豊富にあるなど、非常にすばらしい環境で、この点でもよい研究会を行うことができた。
参加者数 一般参加者67名、担当委員4名、合計71名
「無形文化遺産からみる〈世界〉と〈地元〉の関係」
講師:俵木 悟(成城大学文芸学部准教授)
日時:2015年2月4日(金) 18時15分〜20時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎312教室
現在、遺産に関しての研究が高まりを見せている。特に無形文化遺産はユネスコの関与が強まって以来、多くの議論がなされてきた。日本は無形文化の保護を世界に先駆けて法制化した国であり、ユネスコの無形文化遺産条約の制定にも主導的に関わってきた。国内においても、無形文化遺産の保護とは、日本の文化財保護法に規定される無形の文化財の保護の取り組みが、国際的な規模で行われているものという理解が一般的であろう。
しかし実際の運用過程では、むしろ両者のズレが表面化し、問題化している。さらに「和食」のような国内の文化財保護とは無縁の無形文化遺産が登場したことで、そのズレを文化資源化の回路として利用する道も開かれてきた。こうした国内の無形文化遺産をめぐる状況について、とくに文化財/文化遺産の主体という問題と、遺産の代表性という概念に焦点を当てて考察することで、無形文化遺産という国際的な制度とローカルな文化の伝承の相互作用がもたらすものについて論じたい。
【講師略歴】
1999年千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程修了。2002年1月から2011年3月まで独立行政法人国立文化財機構東京文化財無形文化遺産部に研究員として勤務。2011年4月より成城大学文芸学部准教授。専門は民俗学、民俗芸能研究。
【講演会報告】
日本は無形文化の保護を世界に先駆けて法制化した国であり、ユネスコの無形文化遺産条約の制定にも主導的に関わってきた。国内においても、無形文化遺産の保護とは、日本の文化財保護法に規定される無形の文化財の保護の取り組みが、国際的な規模で行われているものという理解が一般的であろう。しかし実際の運用過程では、むしろ両者のズレが表面化し、問題化している。さらに「和食」のような国内の文化財保護とは無縁の無形文化遺産が登場したことで、そのズレを文化資源化の回路として利用する道も開かれてきた。本報告では、国内の無形文化遺産をめぐる状況について、とくに文化財/文化遺産の主体という問題と、遺産の代表性という概念に焦点を当てて考察し、無形文化遺産という国際的な制度とローカルな文化の伝承の相互作用がもたらす対立・葛藤・創造について広く論じられた。我々は遺産という概念が存在することが当然とされる現代にあって、どのように遺産と対峙すべきかが改めて問われた。
〈過去〉にアイデンティティを見いだす―マレー半島華人社会の珈琲カルチャーとレトロブームの展開
講師:櫻田涼子(育英短期大学准教授)
日時:2014年12月26日(金) 18時15分〜20時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎356教室
マレーシアの華人社会の最近の状況を、特に喫茶文化を中心として考察する。以下は要旨である。
ノスタルジックな花柄模様のカップアンドソーサーにたっぷりと注がれた深煎り豆のアロマと練乳の濃厚な甘さが特徴的なコーヒー。コーヒーをレンゲですくって少しずつ飲みながらおしゃべりに興じる南国の昼下がり。コーヒーのお供にはパンダンの葉で風味づけしたココナッツミルクと卵のジャムをたっぷり塗ったトーストを。
近年、マレー半島(マレーシア・シンガポール)を中心にアメリカ生まれのシアトル系コーヒーとは対極をいくコーヒーショップ、コピティアム(kopitiam)が人気を博している。本報告では、このコピティアムをめぐり顕現するノスタルジア、あるいは懐かしさといった華人の過去に対する認識と感情一般を考察対象とし、ある事柄に対し〈懐かしい〉という評価が下される時、そこでは一体どのような〈過去〉が想起されているのか、また、いかに過去と現在をつなぎ(あるいは断絶し)現在の我々を認識しているのかという問題を考察したい。
コピティアムとは、マレー語でコーヒーを意味するkopiと福建語で店を意味するtiamからなる語で、コーヒーや紅茶などの嗜好飲料と軽食を供する喫茶店のことを指す。19世紀後半以降、労働移民としてマレー半島に移り住んだ中国出身者のうち、海南出身者により営まれたコーヒーや軽食を提供する屋台や小さい飲食店がコピティアムの始まりともされる。早朝から深夜まで老若男女が飲食するコピティアムは、マレーシア華人社会における日常的場所であり、男性たちが政治談議に花を咲かせ交流する社交の場であるという意味において華人社会の重要な社会的空間として機能してきた。今日では、この伝統的コピティアムをモチーフとしてチェーン展開を図る近代的コピティアムが都市部を中心に急増している。シアトル系コーヒーチェーンが目新しさや先進性を売りにするところを、コピティアムは〈懐かしさ〉がキーコンセプトになっていることが多い。本報告では、マレー半島で興隆する〈過去〉を懐かしむレトロブームの諸相を、現地でコピティアムとよばれるコーヒーショップの展開を中心に考察する。
【講師略歴】
2010年筑波大学人文社会科学研究科博士後期課程歴史・人類学専攻修了。同年博士号(文学)取得。在学中はミッドランド・ルーサラン・カレッジ(米国)、マラヤ大学、マレーシア国民大学に留学。京都大学文学研究科GCOEプログラム研究員を経て、2013年から現職。専門は文化人類学、マレーシアの華人社会を主な研究対象とし、親族研究、住宅、食文化などについて研究調査を実施している。
主な業績:「家庭内祭祀から公共領域へ―マレーシア華人社会における『盂蘭勝会』の都市的構造」黄蘊(編)『往還する親密圏と公共圏』(京都大学学術出版会、2014年)。「从房屋到家―馬来西亜華人的廉价房屋居改造及日常実践」田中仁・江沛・許育銘(編)『現代中国変動與東亜新格局』(社会科学文献出版社、2012年)。「マレーシアの喫茶文化―国民的な飲食空間」河合利光(編)『世界の食に学ぶ―国際化の比較食文化論』(時潮社、2011年)。「新聞記事にみるマレーシア華人の社会関係の変容―『星洲日報』1929年から2012年の告知記事の分析を通じて」『白山人類学』第16号(東洋大学、2013年)。「『家』を生きる―マレーシア華人社会における関係の諸相」『華僑華人研究』5号(日本華僑華人学会、2008年)
【講演会報告】
近年、マレー半島(マレーシア・シンガポール)を中心にアメリカ生まれのシアトル系コーヒーとは対極をいくコーヒーショップ、コピティアム(kopitiam)が人気を博している。本報告ではコピティアムをめぐり顕現するノスタルジア、あるいは懐かしさといった華人の過去に対する認識と感情一般を考察対象とし、ある事柄に対し〈懐かしい〉という評価が下される時、そこでは一体どのような〈過去〉が想起されているのか、また、いかに過去と現在を繋ぎ(あるいは断絶し)現在の我々を認識しているのかという問題を検討した。
コピティアムとは、マレー語でコーヒーを意味するkopiと福建語で店を意味するtiamからなる語で、コーヒーや紅茶などの嗜好飲料と軽食を供する喫茶店のことを指す。19世紀後半以降、労働移民としてマレー半島に移り住んだ中国出身者のうち、海南出身者により営まれたコーヒーや軽食を提供する屋台や小さい飲食店がコピティアムの始まりともされる。早朝から深夜まで老若男女が飲食するコピティアムは、マレーシア華人社会における日常的場所であり、男性たちが政治談議に花を咲かせ交流する社交の場であるという意味において華人社会の重要な社会的空間として機能してきた。今日では、この伝統的コピティアムをモチーフとしてチェーン展開を図る近代的コピティアムが都市部を中心に急増している。シアトル系コーヒーチェーンが目新しさや先進性を売りにするところを、コピティアムは〈懐かしさ〉がキーコンセプトになっていることが多い。コピティアムの流行の陰には、マレーシアにおける華人の民系をめぐる葛藤もあり、今後はエスニック・アイデンテイテイを巡る諸問題へと発展していく可能性が示唆された。
アジア映画の中の日本兵―その表象の変遷と国による変化―
講師:夏目深雪(映画評論家、フリーランス)
日時:2014年12月2日(火) 18時15分〜20時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎413教室
中国の抗日映画はジャンルとして確立していて数も多く、『鬼が来た!』(02/姜文)など国際的に評価されたものから、『金陵十三釵』(11/張芸謀)のように中国では大ヒットしたが、日本では劇場公開できないような内容のものもある。他のアジア諸国でも、日本統治時代の台湾の原住民が日本警察に対して起こした暴動を描いた『セデック・バレ』(13/魏徳聖)は日本でも劇場公開されヒットしたし、タイで何度も映画化やドラマ化されている、日本兵と現地女性との恋愛話『メナムの残照』(13/キッティコーン・リアウシリクン)も今年の東京国際映画祭で上映され話題となった。反日と言われる中国と、親日と言われる台湾やタイの映画の日本兵の表象を比較してみたい。また戦後70年が経つのにまたアジア諸国との緊張が増している今、日本兵が映画に登場する意味を、日本兵の表象の変遷と国による変化を追いながら見ていきたい。
【講師略歴】
明治学院大学文学部フランス文学科卒。出版社勤務のあと、フランスに一年留学。以降、フリーランスで映画評や監督インタビューを寄稿。アジア映画本の編集や映画祭でのアジア映画の作品審査業務にも携わる。
主な業績:
共編著に『アジア映画の森−新世紀の映画地図−』(2012年、作品社刊)、『アジア映画で<世界>を見る−越境する映画、グローバルな文化』(2013年、作品社刊)。
主な論文に「混成アジア映画としての日本映画」『地域研究Vol.13 No.2(総特集 混成アジア映画の海 時代と世界を映す鏡)2013年、京都大学地域研究統合情報センター。
動物園に行こう:これからの動物園と野生動物の保全をめぐって
講師:黒鳥英俊(京都大学野生動物研究センター/NPOボルネオ保全トラストジャパン理事)
日時:2014年10月31日(金) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎475教室
黒人活動家たちにとってのメディア―20世紀前半のブラジルにおける黒人新聞
講師:矢澤達宏(上智大学外国語学部准教授)
コメンテイター:田中正隆(高千穂大学人間科学部准教授)
日時:2014年10月28日(火) 18時15分〜20時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎356教室
1920〜30年代を中心に、ブラジルの新興都市サンパウロ周辺では黒人に関する題材に特化した、いわゆる黒人新聞が複数発行された。
厳しい人種差別は存在しないという認識が内外ですでに定着しつつあったブラジルで、寄稿者たちは何を、どのようなかたちで発信しようとしたのであろうか。
本発表では、その認識や主張の多様性と揺れに焦点をあわせてみていきたい。
一方で、そうした多様で揺らぎも目につく黒人新聞の論調は、黒人運動に対しどのように反響したのであろうか。
当時、精力的に寄稿をおこなっていた数名の黒人活動家に着目し、その関係性の推移を追うことで、立場やスタンスの相違、さらには新聞というメディアがもった影響力についても考えてみたい。
スピノザ哲学の生成とその諸問題―実在・本質・原因性をめぐって―
講師:秋保 亘(慶應義塾大学文学部非常勤講師)・藤井千佳世(日本学術振興会特別研究員RPD・東京大学)・井上 一紀(日本学術振興会特別研究員DC・東京大学)
コメンテイター:鈴木泉(東京大学大学院人文科学研究科准教授)・山内志朗(慶應義塾大学文学部教授)・斎藤慶典(慶應義塾大学文学部教授)
日時:2014年10月18日(土) 14時30分〜17時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎465教室
17世紀オランダの哲学者スピノザは、個別的なものである人間の実在、本質、そして生についての思索を展開しました。しかし彼の哲学の解釈にかんして、現在でもなお多くの争点が残されています。
そこでこのたび、こうした争点のなかで、初期著作である『知性改善論』がスピノザ哲学においていかなる位置づけを有しているのか、また彼の主著『エチカ』における存在論の核をなす原因性の内実、そしてこの原因性によって産出される個別的なものの実在と本質の理解に焦点を当て、スピノザ哲学を生成史的研究の観点から再考するシンポジウムを企画しました。
教育思想史学会 第24回大会
日時:2014年10月11日(土)・12日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス
今大会は、三田哲学会との共催となります。三田哲学会会員(学部学生・大学院生・教員)は、大会参加費を無料とします。当日受付にて、学生証等身分を証明できるものをご持参の上、大会参加の手続きをおとりください。学会ホームページ:http://www.hets.jp/
大会案内:http://www.hets.jp/_taikai.html
<複製>から<分裂>へ―中国福建省・客家土楼からみる宗族の形成過程
講師:小林宏至(日本学術振興会特別研究員・東京学芸大学非常勤講師)
日時:2014年7月15日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
共催:慶應義塾大学人類学会
【講演会報告】本発表は福建省永定県客家社会における円形の集合住宅、客家土楼を調査対象とし、居住者による各部屋の所有形態を整理・分析して、これまで宗族研究で一般的とされてきた「不均衡に発展した宗族の一分節が独立して新たな宗族を形成していく」という見解を再考した。従来の社会人類学による親族研究においては、宗族は<分裂>という過程を経て発展的に分節を形成するものと考えられてきた。しかし、発表者はその視座を短期的なスパンに置けば<複製>といった状況を見せ、長期的なスパンにおいてはじめて<分裂>という状況をみせると考える。本発表では客家土楼の事例から、宗族が<複製>から<分裂>へ向かう事例を示し、漢族社会における宗族の発展過程を再考し、併せて世界遺産に登録され観光化に巻き込まれ急速に変貌する客家社会の今後の行方を展望した。
社会人類学の古典的テーマであった親族研究に新たな可能性を見出そうとする意欲的な内容であった。
医療・科学・テクノロジー:人類学と人間科学複合領域の対話
日時:2014年7月12日(土) 10時〜18時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階GSEC LAB
参加費:無料
慶應義塾大学 論理と感性のグローバル研究センター/三田哲学会 共催
[詳細]
【概要】
「機械の人類学」で知られるシカゴ大学のマイケル・フィッシュ先生と、医療の比較文化研究を進めてこられたプリンストン大学のエイミー・ボロボ イ先生をお迎えして、国際シンポジウムを開催します。この領域における日本での理論的発展について、宮坂先生をはじめとした論者にご報告いただき、発達障害の流行、薬の治験等グローバルに展開する医療とテクノロジーをめぐる問題について、学際的な視点から討論を行います。皆さまのご参加をお待ち申し上げております。
【講演会報告】
本シンポジウムでは、医療と科学をめぐる最近の人類学の理論的発展について、複合領域との対話を通じての議論が行われた。
第一部では、発達障害、治験、ヘルス・プロモーションをめぐるテクノロジーについて論じられ、監視や管理と、自己への配慮の中間地点からうまれる臨床の形や、グローバルに連携しつつも地域的差異が顕著になりつつある、異なるケアの可能性が模索された。第二部では、人々の移動手段やソーシャルネットワークを通じたコミュニケーション技術の発展により、共同体の関係性がどのように変化しつつあるのか、また技術と人びとの関係性をめぐって、従来の疎外論がどう乗り越えられるのかが議論された。第三部ではディストピアと人間の本性についてより広いディスカッションが行われ、全体を通し人類学的探求が今後とるべき方向性について、活発な議論が行われた。
学内外から広く集まった医療・テクノロジーの社会科学の専門家のみならず、参加した学生会員達にとっても、国際的、先端的研究に触れるきわめて貴重な機会となった。
What is the Place of Behavior Analysis with Neuroscience in Ascendency?
講師:Jonathan L. Katz博士(Drexel大学・アメリカ国立薬物乱用研究所)
日時:2014年7月7日(月) 17時30分〜19時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館G-SEC 4階セミナールーム
【講演会報告】本講演では、行動分析的な視点の重要性について関連する応用諸分野での事例を交えて話題提供された。行動薬理学分野における例として、薬理濃度に対する行動反応曲線を吟味する上で行動分析学が蓄積してきた関数記述の有効性について議論された。さらに、神経科学的な現象をメタ的な言語で解釈するのではなく、行動関数として記述することの重要性について強調された。討論も活発に行われ、個々のデータに対する議論から、神経科学における操作・記録技術の進歩に比して行動記述は今後どうあるべきかという広い話題にまで及んだ。
講演後は同セミナー室にて立食形式の懇親会を設けた。来聴者の多くは学生会員であり、第一線の研究の話題に触れ、直接話をする機会として有意義な会であった。
Cicero as Translator and Cicero in Translation
講師:John Glucker教授(イスラエルTel Aviv大学)
日時:2014年6月20日(金) 16時40分〜18時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館セミナー室
【講演会報告】中期プラトン主義を中心に、ヘレニズム・ローマ哲学の研究で世界的に著名なグルッカー教授が来日された機会に(北海道大学が招聘)、ご専門のキケロについてご講演いただきました。
古代世界において専らギリシア語で従事されていた哲学を、ラテン語に翻訳することで積極的に紹介したキケロの意図や手法を、具体的な例に則して検討し、今日までの文化史的意義を再検討する重要なご講演でした。会場からも、当時のギリシアとローマの関係はどうだったのか、等の質問が多く出て、明治期に西洋語から翻訳を進めた日本との比較も議論されました。
懇親会は、セレスティン・ホテル1階の「葱や平吉」で開催しました。グルッカー教授を囲んで、学生や他大学の先生方ら8名で、教授のこれまでのご研究や経験など、ゆっくりお話を伺うことができました。
『働くこと』の意味ーある起業家のライフストーリーから
講師:青柳健一(株式会社LOUPE)
日時:2014年5月22日(木) 18時15分〜20時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎475番教室
【概要】
社会人類学では近年、教育のエスノグラフィーへの注目が高まっている。今回の講演会ではその事例研究として、教師が授業内容やノウハウを共有するためのソーシャルメディアサービスSENSEINOTEを運営する株式会社LOUPEの設立者、青柳健一氏を迎え、SENSEINOTEが目指す教育問題の解決への新たなアプローチについてお話しいただく。企業が社会的な課題である教育問題に取り組む事例は近年増えているが、SENSEINOTEは教員の支援活動にとどまらず、小中学校の教員が抱える構造的な課題の解決を目標として掲げている。従来の組織(国・自治体・教育企業)とは異なる「現場」と「当事者」の連携を核としたアプローチについて、具体的にお話しいただく。
さらに、青柳氏本人をはじめとする若手起業家のライフストーリーをもとに、「働くこと」の意味について議論する。彼らを取り巻く生活実態や日本社会における「スタートアップ」の広がりについて理解を深めることで、起業家と社会の関係とその相互の変容について考察を行う。
How Testimony Can Be the Source of Knowledge
講師:Nick D. Smith(米国Lewis & Clark College教授)
日時:2014年4月28日(月) 16時30分〜18時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館 G-Sec Lab
【講演会報告】
国際学会(日吉キャンパス)に参加するため来日されたスミス教授に、現代認識論の最新研究を発表していただき、慶應内外からの参加者と活発な議論を交わしました。連休の合間という時期だったため、やや参加者が少なかったのが残念ですが、非常に内容の濃いセッションで、学部生数名にもよい経験となったようです。
懇親会は開きませんでした。
国際学会「プラトンとレトリック」
日時:2014年4月25日(金) 16時〜18時30分
4月26日(土) 9時〜18時
4月27日(日) 9時〜18時
場所:慶應義塾大学日吉キャンパス 来往舎 シンポジウムスペース/大会議室
主催:科研費補助金基盤研究(B) 代表:納富信留
共催:国際プラトン学会(International Plato Society)
シンポジウム「質問紙の科学:その可能性と展望」
日時:2014年1月11日(土) 12時30分〜18時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館G-SEC Lab
【概要】
本シンポジウムでは、社会科学の基本的な方法である質問紙(アンケート)を用いた調査について考える。質問紙は、人々の普段の生活や行動の内容を問うだけでなく、態度、価値観、臨床的特性、パーソナリティなど多様な対象についての調査や測定の重要な道具として利用されてきた。そしてある場合には、その結果が政策や意思決定に利用されたり、回答者の心理的特性を表すものとみなされたりしてきた。しかし、古くから知られているように、設問の構造や特徴によって回答結果には系統的な誤差が含まれ、質問紙調査の測定結果の信頼性や妥当性は必ずしも高くない。それにもかかわらず、こうした設問の選択肢に対する選択行動に関する研究は、特に欧米の研究者によって20世紀後半から細々となされてきただけであるし、そこで得られた知見も活かされているとはいえない。本シンポジウムでは、こうした問題意識に関心のある研究者に集まっていただき、質問紙をめぐる様々な問題点を掘り起こしてみたいと考える。
【講演】
木村邦博(東北大学大学院文学研究科) 「ワーディングの問題に関する実験的調査−認知的アプローチからの説明の可能性−」
吉村治正(奈良大学社会学部) 「調査票はコンテクストを持たない・・・のか?」
山田一成(東洋大学社会学部) 「Web調査における最小限化回答」
増田真也(慶應義塾大学看護医療学部) 「調査の回答における中間選択」
広田すみれ(東京都市大学環境情報学部) 「二ューメラシー、個人属性と回答傾向の関係」
竹村和久(早稲田大学文学学術院) 「公理的測定論と行動意思決定論からみた質問紙調査法」
主催:慶應義塾大学 「思考と行動判断」研究拠点
共催:三田哲学会
レプリカの仮面の社会生活−バリ島天女の舞(topeng legong)の事例から
講師:吉田ゆか子(国立民族学博物館 機関研究員)
日時:2014年1月7日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525-B教室
【講演会報告】
バリ島南部のパヨガン・アグン寺院に伝わる天女の舞は、ご神体の仮面(Ratu Bidadari)を被って少女が舞うもので、その歴史や神聖性のために特別な価値を置かれてきた。
この演目が80年代に芸術祭に招待された際、寺院側は高度に神聖な仮面が「汚染」される事を恐れ、レプリカを作成し、こちらで代用した。
本発表で注目したのは、レプリカのその後である。レプリカや模造品も、生み出されたあと、人々との関係の中に入ってゆく。現在このレプリカは、特定の寺院祭儀礼でも用いられる。しかし、この仮面を、「代用品の仮面」と考える者も、オリジナルの「子供」と位置づける者も、オリジナルと混同する者もいる。
本発表は、曖昧かつ両義的に意味づけられるこのレプリカの仮面が、天女の舞やオリジナルの仮面、そして仮面と人々の関係にいかなる影響を与えているのかについて考察した。文化財保護や美術品展示において模造品やレプリカがもたらす独特なる効果について考える機会となった。
癩はどのように表象されたか―映画<小島の春>(1940)への医療人類学的アプローチ
講師:松岡秀明(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター招聘教授)
日時:2013年12月17日(火) 18時15分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎473番教室
【講演会報告】
1931年 (昭和6)年に開園し、癩病患者を受け入れた国立療養所長島愛生園(岡山県)は、本発表で論じる映画<小島の春>の原作者小川正子(1902-1943)や、神谷美恵子(1914-1979)が医師として勤務していたことで知られる。一方、そこに入園していたひとりの男性患者が明石海人(1901-1939)というペンネームで、自らの病いについての短歌を発表していたことでも、この施設は知られている。結核のため、1938年に郷里に戻り療養生活をしていた小川正子は、愛生園の同僚の強い勧めで、愛生園在職中の1934年から36年まで認めていた巡回検診記録を1938年に出版した。『小島の春』がそれである。小川の予想に反して同書は30万部のベストセラーとなり、その結果映画<小島の春>が制作された。
1940年に公開された映画は、同年のキネマ旬報のベストテンの第1位に選ばれた。今回の発表では、明石海人や小川正子の短歌が効果的に用いられている映画のなかで、癩がどのように表象されているかを検討した。
石食い女―ある女性のライフストーリー
講師:小泉八重子(作家)
日時:2013年11月15日(金) 13時30分〜15時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457番教室
【講演会報告】
小泉さんは多数の学生を前に、実物(漆喰、石など)も使って、自らの体験をわかりやすく実地にお話しいただいた。学生数名が、家族の「異常行動」を前にして、どのような反応をするのかについて、ワークショップとしての演技に挑戦するなど、非常に興味深い講演会になりました。
修験道の現代-大峯奥駈修行を事例として-
講師:天田顕徳(公益財団法人国際宗教研究所 宗教情報リサーチセンター研究所研究員)
日時:2013年11月12日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
「近代化が日本社会に大きな変化をもたらした」ことについては大方の了解が得られる。情報通信端末の爆発的な普及や交通網の発達は、いわゆるヒト・モノ・カネの流れを活性化し、現在、社会はますます流動性を増している。
本報告が注目したのは、現代社会に軸足を置きながらも、他方では「山」にも足を置く人々、すなわち現在の修験者の姿である。「情報化」、「登山ブーム/山ガールの登場」、「観光化」、「パワースポットブーム」などをキーワードとして、現在の山を取り巻く環境の変化について考察が加えられた。そして、これらの変化が現代の修験道/修験者達にどのような影響を与え、何を語らせているのかという点について、フィールドワークを通して得られた知見を基にして検討し、修験道を通して現代宗教の変化を研究する方向性を提示した。
アイドルビジネスの現在
講師:星野貴彦(編集者/プレジデント社)
日時:2013年10月13日(日) 13時〜15時
場所:三田の家(芝5-23-2 TEL:6809-2422)
[地図]
【講演会報告】
オルタナティブ社会学会のセッションとして行われた。
実際の構成は《君はあまちゃん? なんてったってアイドルって何?》というセッションで、塚田修一(東京都市大学)「女性アイドル“ファン”の歴史社会学」と斎藤誠子(慶應義塾大学大学院)「女性アイドルの女性ファン」の両報告とともに行われた。
クロストーク/アート・音楽とアクティヴィズム
講師:後藤吉彦(専修大学)・川邉雄(グラフィックデザイナー)
日時:2013年10月11日(金) 16時〜20時
場所:三田の家(芝5-23-2 TEL:6809-2422)
[地図]
【講演会報告】
オルタナティブ社会学という枠組みでのセッションでしたが、実際には、クロストーク《人が集うこと、インフォショップの可能性》というタイトルで、出演:成田圭祐(IRA)、山下陽光(途中でやめる)、上田憲太郎(気流舎)、はらだゆきこ(多摩住民)、原田淳子(路地と人)、CAFE★LAVANDERIA、模索舎、岡原正幸(三田の家)、MC:川邉雄(RLL)・後藤吉彦(専修大学)という構成で行われました。
Religion and Psychiatry in Japan and India: Medical, Social, and Intellectual Challenges
講師:Chris Harding(Edinburgh University/Keio University)
日時:2013年10月9日(水) 17時〜19時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎454教室
【講演会報告】
植民地時代から近代にいたるインド史、宗教・医療史の専門家として知られるハーディング教授は、現在慶應の訪問教授として、日本の近代初期における宗教と医学の研究を進めている。特に、今まで研究が進んでこなかった日本における精神分析の受容と、仏教との関係に着目し、稀少資料を用いたきわめて独創的かつ重要な分析を行っている。
今回は、その研究の成果の一部にも触れながら、現在欧米で議論されている精神医学と宗教、スピリチャリティの関係性について講演され、宗教、文化、医学の専門家を交えた、活発な議論が行われた。
その後の懇親会では場所を映して、講演に引き続き、宗教と医療についてのディスカッションが行われた。
ネパール北西部マナンの人々による『企業家』活動−交易からトゥーリズムへ−
講師:森本 泉(明治学院大学国際学部教授)
日時:2013年10月8日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
チベットと接するネパール北西部のマナンの人々は、土地生産性の低い地理的環境を背景に村外に生活手段を求めてきた。
村人にとって副業であった交易活動は、国内外の政治経済的変化を受けて主たる生活手段となり、アジア諸地域で活動を展開するようになった。
この交易活動に始まり、その他にも新たな経済機会をとらえ、マナンの人々はネパールにおいて「企業家」集団として知られるようになった。
本報告では、マナンの人々がいかに「企業家」活動を展開してきたのかを、その移動・移住過程に注目しながら検討した。
この作業は同時に、中心が周辺を包摂していくグローバル化ではない、ヒマラヤの村から展開するもう一つのグローバル化の考察にも展開することになった。
教育思想史学会 第23回大会
日時:2013年9月14日(土)・15日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス
今大会は、三田哲学会との共催となります。三田哲学会会員(学部学生・大学院生・教員)は、大会参加費を無料とします。受付にて、学生証等身分を証明できるものをご持参の上、大会参加の手続きをおとりください。
学会ホームページ:http://www.hets.jp/
大会案内:http://www.hets.jp/_taikai.html
障害をもって生きる
講師:森山 風歩(作家)
日時:2013年8月3日(土) 16時30分〜18時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟第一会議室
【講演会報告】
主に学生からの質問に答える形で、風歩さんが、その人生、とくに障害をもちつつ、希望をもって生きることの喜びを語ってくれました。
会場には、他に、NPOノアールの熊篠慶彦さん、映画監督の佐々木誠さんなどもおり、講演は多方面に展開した。
終了後、さくら水産にて、8名ほどで懇親会を行った。
<アウシュヴィッツ>とともに暮らすということ―文化遺産と地元住民
講師:加藤 久子氏(國學院大學日本文化研究所PD研究員)
日時:2013年7月9日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
<アウシュヴィッツ>という語が表象するものについては、世界中で共有されている。しかし、アウシュヴィッツ強制収容所の跡地がポーランドに存在し、国家、政府、市民などによって、現在に至るまでどのように維持され、何が語られてきたかについては余り知られてはいない。
本報告では、ポーランドの国家・中央政府レベルでの動き(収容所跡地の博物館化、歴史認識、犠牲者の追悼儀礼)について説明した上で、収容所が建設されたポーランド南部の「オシフィエンチム郡」における地方レベルでの動きを検討した。具体例として、商業施設(シネコンプレックスやディスコ)の建設をめぐる対立、犠牲者追悼のために建てられた十字架が巻き起こした論争、新しく作られる「共生」の物語などが取り上げられて、ここ10〜20年来の動きに着目して、負の文化遺産とともに暮らすということについて考察が加えられた。
シンガポール陰暦七月の歌謡と芸能―歌台の変容と多様な展開
講師:伏木 香織氏(慶應義塾大学非常勤講師)
日時:2013年6月25日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
歌台は陰暦7月を中心として、シンガポール、マレーシアで行われる屋外歌謡ショーである。
中元節に伴う戯劇に変わるものとして陰暦7月の街に現れた歌台は、台湾などにおける陰暦7月のイメージとは異なって、華やかで賑やかなものである。
現在は、歌台をめぐるイメージの連鎖の中で、他の時期や、別の機会にも多く上演されるようになった。
さらにはシンガポール映画《歌えパパイヤ》や《12 Lotus》でもその舞台となるなど、シンガポールの芸能として重要な位置を占めるようになっている。
発表では、陰暦7月の鬼(孤魂)の信仰を基盤にしながらも、中元節に付随する戯劇やインナーシアターの娯楽としての歌台が、次第に現在の形へと変わってきた多様な展開過程が報告された。
日本文化人類学会 第47研究回大会
日時:2013年6月8日(土)・9日(日)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス
日本文化人類学会第47回研究大会が、2013年6月8日(土)・9日(日)の両日、慶應義塾大学三田キャンパスで開催されます。
三田哲学会から補助を頂いておりますので、三田哲学会の会員(学部生・院生・教員)の聴講を認めます。
ただし、名札がないと入れないので、事前登録制とし、以下のメールアドレスに、
タイトルを「日本文化人類学会聴講希望」として、名前・所属・学年・職名・連絡先を明記の上、
6月7日(金)午後3時までにメールをお送りください。当日は「総合受付」に申し出て頂くようお願い致します。
大会ウェブサイト:http://www.jasca.org/meeting/47th/index.html
Eメール: 47nbj[at]jasca.org
※[at]を@に変えて送信してください。
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
慶應義塾大学文学部 鈴木正崇研究室 日本文化人類学会第47回研究大会準備委員会事務局
スリランカの伝統医療に関する文化人類学的考察―診療の位置づけと医師‐患者の関係を中心に
講師:梅村 絢美氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 ジュニア・フェロー)
日時:2013年6月11日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
スリランカの伝承医療では、医師は患者に診療費を請求することに積極的ではないという。これは、診療が積徳行為であると位置づけられ、診療が医師個人の能力だけでなく、星座の運行やその影響を受けて効力を発揮する薬草、そして超自然的存在などに由来するとされるためである。一方、患者たちは、様々の物品やサーヴィスを贈与のかたちで返礼している。
本発表では、医師による診療を無償の贈与と考え、患者による物品等のかたちでの返礼を別の範疇に属する贈与として考察した。
医師と患者の間で行われる贈与は決して清算されることがない。終わりのない贈与としての診療がもたらす医師と患者の関係について、マルセル・モースの贈与論を手がかりに考察がなされ、スリランカのシンハラ人社会での広義の医療行為についてより深い理解が得られた。
スピリチュアリティと心理療法―瞑想と療法のあいだ
講師:石川勇一氏(相模女子大学人間社会学部教授)
日時:2013年5月20日(月) 18時10分〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎463教室
【講演会報告】
石川先生のご講演は、心理療法としての修験道を中心的なテーマとしたものであった。
修験道の歴史と現状、および二人の修験者のライフヒストリーをもとに、修験道とは何かについて説明された後、
修験道における様々な身体実践―回峰、断食、滝行、捨身行、法螺など―が、
どのような心理療法的役割を果たしているのかについてお話いただいた。
修験道の諸行そのものが、身体と山との関係性の中で、ヴィパッサナー瞑想やイメージングの瞑想、
さらにはエネルギーの瞑想といった、心の寂静と昂進両面にわたる瞑想役割を複合的に果たしていることがよく理解された。
その後の質疑応答も活発で、そのひとつひとつに丁寧にお答えいただいた。
懇親会は、三田の大連で開催され、和気あいあいとした活発な議論が継続して行われた。
分散分析を基礎から見直す/モデル選択のための統計法
講師:南風原朝和氏(東京大学)/岡田謙介氏(専修大学)
日時:2013年5月18日(土) 14時〜16時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎445教室
【講演会報告】
本講演会では,2名の専門家に,心理学における統計利用についての専門的かつ実践的な話題を講演頂きました。
特に,これまでの心理学統計の使用方法について見直し,統計法の誤用や実験に特有な統計法,新しい統計法の動向などについて紹介して頂きました。
心理学の統計利用では,分散分析という統計手法が頻繁に用いられてきましたが,十分な数理的理解がないまま慣習的に使用している場合が多く,最新の知見や統計学の動向にあまり関心が向いてこなかったという実情があります。
本講演会では160名と予定を大幅に超える参加者に恵まれ,今後の心理学研究にどのように統計法を利用すれば良いのかについて有意義な議論が交わされました。
また懇親会では講演者や司会者を交え,20名程が参加し,講演会に引き続き活発な議論と交流が有意義になされました。
光に向かって―神道における祈りの実践について
講師:川村一代氏(若一王子宮権禰宜)
日時:2013年5月14日(火) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎463教室
【講演会報告】
川村先生のご講演は、神道の宗教的基礎、および祈りの実践の説明を通して、瞑想としての祈りの構造について、
地球交響曲第7番の神道的霊性の映像を交えながら行われた。
たいへんわかりやすい内容で、祈りとは何かについて大きな学びを得た。
講演終了後、春日神社での参拝をご指導していただき、具体的な祈りの実践を体験するワークショップ的要素もあり、
理解の助けとなった。その後の質疑応答も活発で、そのひとつひとつに丁寧にお答えいただいた。
懇親会は、三田の青空で開催され、和気あいあいとした活発な議論が継続して行われた。
ヴィパッサナー瞑想とは何か
講師:佐藤哲朗氏(日本テーラワーダ仏教協会事務局長)
日時:2013年5月7日(火) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎463教室
【講演会報告】
佐藤先生のご講演は、上座仏教の瞑想法であるヴィパッサナー瞑想の基礎をなす、
四無量心の瞑想(祈り)を中心としたものであった。慈悲喜捨という四つの側面をもつ、
この瞑想が、神への愛へと転移されたあいまいな愛の感情ではなく、
あらゆる他者の幸福を願う利他的な慈悲の心を涵養することの人類的な重要性を初期仏教の釈迦の教えをふまえながら説明された。
最後に、じっさいにこの瞑想のワークショップが行われ、言語を伴うサマタ瞑想の可能性について理解が促された。
その後の質疑応答も活発で、そのひとつひとつに丁寧にお答えいただいた。
懇親会は、三田のつるのやで開催され、和気あいあいとした活発な議論が継続して行われた。
暴力と歓待の人類学―アフリカ遊牧民の戦争と平和
講師:佐川徹氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科 助教)
日時:2013年5月1日(水) 14時〜15時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎474教室
[講演会の詳細]
【講演会報告】
戦争と平和はしばしば二項対立的な現象とみなされてきた―
「戦争学」と「平和学」といったような対照的に異なる別個の領域の研究対象とみなされ、
別々に取り扱われ、戦争と平和が実は連続した過程のなかのふたつの現象である、という立論は、
これまでの学説史・研究史上は、かならずしも展開されてはこなかった。
人文・社会科学に通底する、人間を本性的に暴力的とみなすホッブズ的人間観と平和的とみなす
ルソー的人間観の対立があり、ふたつの見方が相交わる地点がみえてこなかったからである。
それに対して佐川徹講師(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科助教)は、
集団間の武力紛争が頻発するアフリカ遊牧社会、とくに、エチオピア南部の牧畜民ダサネッチ
の民族誌的事例調査にもとづく経験的データーを分析し、戦争と平和を一連の連続的な過程
として捉える研究枠組みを提出した―いかにその動態が生み出されているのかを各個人の
行為実践と社会関係に焦点を当てながら明らかにする立論をおこなった。
男性を戦争に向かわせる「男らしさ」イデオロギーの構築と相対化の過程、苦境に陥った「敵」
を歓待する倫理的実践の契機、ホッブズ的でもルソー的でもない遊牧民独自の人間観について、
新しい観点からの佐川講師の論点が提示され、質的調査や量データーを志向した質問紙調査から、
事例的事実への言及とその分析が示された。
聴衆は人間科学専攻関係者で少数であったが、質問が多発し、講演会としては実に活発な討論が
行われた。とくに人間は結局戦争をする本性をもつのかという質問は、今回のテーマの基本的
問いの一方の極にたつ見解にかかわっており、経験的データーからは確定的なことがいえない
わけではあっても、いわゆる部族社会での戦争と近代国家同士の戦争との質的違い等の
一連の話題群につながっていく問いであることが了解された。(文責・宮坂)
道教瞑想と中国拳法―内丹法の諸相
講師:野村英登氏(二松学舎大学兼任講師)
日時:2013年4月30日(火) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎463教室
【講演会報告】
野村先生のご講演は、儒教、仏教、道教の三教の特徴を、それぞれ正坐・居敬、坐禅・止観、
内丹・存思という身体実践と、聖人、仏菩薩、神仙という目指す目標という観点から説明され、
それらが古代から現代にいたるまで―その形態は多様ではあるものの―、上虚下実という原則に貫かれている
ことを説明されるとともに、ご専門とされている道教瞑想と中国拳法の実践に基づいて、
上虚下実の身体性について簡単なワークショップを指導していただくという内容で、
比較瞑想論的にたいへん興味深いものであった。
講演後の質疑応答も活発で、そのひとつひとつに丁寧にお答えいただいた。
懇親会は、三田の湯浅で開催され、和気あいあいとした活発な議論が継続して行われた。
以上より、本講演会の当初の目的は十全に達成されたものと考えられる。
現代タイにおける仏教運動―タンマガーイ式瞑想とタイ社会の変容
講師:矢野秀武氏(駒澤大学准教授)
日時:2013年4月23日(火) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎463教室
【講演会報告】
矢野先生のご講演は、タイの仏教系新宗教のタンマガーイにおける瞑想について、その歴史的背景、
その実際と社会性に関して、じっさいにタンマガーイ式瞑想のワークショップを通して展開された。
タンマガーイ式瞑想は、上座仏教に属するものでありながら、密教瞑想にきわめて類似しており、
比較瞑想論的にたいへん興味深いものであった。
講演後の質疑応答も活発で、そのひとつひとつに丁寧にお答えいただいた。
懇親会は、三田のつるの屋で開催され、和気あいあいとした活発な議論が継続して行われた。
以上より、本講演会の当初の目的は十全に達成されたものと考えられる。
瞑想の一般構造―比較瞑想論的視点から
講師:山本一博氏(玉光神社権宮司・新宗連理事)
日時:2013年4月16日(火) 18時〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎463教室
【講演会報告】
本山先生のお話は、複数瞑想体験とその分析に基づいた、瞑想の一般理論に関するものであった。
主体が客体としての心および身体を意識化することが瞑想の一般構造であることを示した上で、
止観を応用した身心全体を感じる瞑想、ヴィパッサナー瞑想を応用した身体に入った力を知覚し除く瞑想、
およびイメージング法を応用した過去の辛かった経験を受け止め和解する瞑想の三つの瞑想実践をじっさいに
ワークショップ形式で行うことを通して、その詳細について論じられた。
講演後の質疑応答も活発で、そのひとつひとつに丁寧にお答えいただいた。
懇親会は、三田のつるの屋で開催され、そこにおいても本山先生の気さくなお人柄から、
和気あいあいとした活発な議論が継続して行われた。
以上より、本講演会の当初の目的は十全に達成されたものと考えられる。
組織の公正さが個人の態度や行動に与える影響:心理プロセスに注目して
講師:林洋一郎氏(法政大学キャリアデザイン学部准教授)
日時:2013年4月3日(水) 13時〜14時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎435教室
【講演会報告】
近年特に社会心理学や産業・組織心理学の分野で多くの研究が行われている組織における公正について講演された。
まず公正研究の主な理論を展望したうえで公正概念の多次元性や公正動機の問題を論じられた。
続いて個人心理を対象にした複数調査の成果として、公正さとストレス反応、
公正効果の日中比較などに関する統計的な分析結果が報告された。
働き方の多様化が進む現代日本社会の喫緊の課題である組織における公正性の問題について、
理論と実証の両面から具体的かつ総合的に考えるよい機会となり、活発な議論も含め、
参加者は有意義な時間をすごすことができた。
Social Dilemmas in Mobile Societies
講師:小林盾氏(成蹊大学文学部現代社会学科准教授)
日時:2013年4月2日(火) 14時〜15時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟346教室
【講演会報告】
小林盾氏は、社会的ジレンマ、社会階層の数理社会学的研究をテーマとされているが、
今回は、社会的ジレンマの実験的研究を御報告頂いた。
本報告では、グループ間移動をすることが一定のコストを支払えば可能な環境において、
繰り返し社会的ジレンマゲームを行ったとき、協力率・集団規模・集団間移動・移動コスト等の要因間にどのような関係があるかを数量的に検証した。
その結果、協力率が高いグループは、他のグループからの移動により規模が拡大し、
協力率は下がる、協力率が下がると退出者が出て、規模が縮小するという、サイクルが発生することが示された。
また退出コストが小さいほど、このサイクルの角速度は速まることも明らかになった。
質疑応答では、実験結果の現実社会における含意や最適な集団規模に関する議論等が活発に行われた。
レヴィ=ストロースの『遠いまなざし』について:関係論的アイデンティティ
講師:出口顯氏(島根大学法文学部教授)
日時:2013年3月5日(火) 13時15分〜15時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟356教室
[人間科学コロキアムのご案内]
【講演会報告】
生殖技術や国際養子縁組の発達により、現在人々の家族観やアイデンティティは急速に変容しつつある。
レヴィ=ストロースの思想研究の第一人者として知られる出口氏は、第一に、さまざまな民族・社会において、
同じ名前が近親者間で頻繁に用いられている現象を手掛かりに、近代的な自己同一性概念についての再検討を行い、
第二に、人工生殖や臓器移植といった先端科学技術が、人々のもつアイデンティティや、
「自然らしさ」の概念にもたらす揺らぎについて分析した。
特に、国際養子縁組が盛んに行われている北欧での民族誌的フィールドワークに基づき、
国境・文化を超えた親族構造の構築が、近代的ナショナリズムや民族論とも複雑に絡み合うことで、
現在どのような自己同一性を創出しつつあるのか、人類学的考察を行った。
第三に、従来の近代的アイデンティティ論を考え直す一つの方向性として、
レヴィ=ストロースの構造主義にすでにその萌芽がみられる「多自然主義」(ヴィヴェイロス=デ=カストロ)を紹介し、
「動物」対「人間」、「自然」対「文化」、「普遍性」対「多様性」等の近代的二項対立を乗り越える、
関係論的アイデンティティ構築の可能性について論じた。
出口氏の講演は、近代的人間観・自然観の相対化を試みる人類学的思想を理解する機会として、きわめて刺激的なものだった。
その後の懇親会では場所を映して、講演に引き続き、内容についてのディスカッションが行われた。
貧困・離婚と子ども
講師:稲葉昭英氏(首都大学東京 都市教養学部教授)
日時:2013年3月4日(月) 13時〜14時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟325B教室
【講演会報告】
親の離婚や定位家族の貧困が子どもにおよぼす影響について、社会階層と社会移動全国調査
(SSM調査)、内閣府「親と子の生活意識に関する調査」、東京都福祉保健局による調査の
各データをもちいた分析結果を報告された。
その結果、母子世帯ではひとり親世帯が貧困を招き、それが学習態度や進路選択に負の影響をしており、
剥奪仮説に適合していた。他方で父子世帯では子どもの放任が媒介して学習態度や進路選択に負の影響をしており、
社会化仮説に適合していた。また、離婚やひとり親はこどものメンタルヘルスや自尊心に負の効果をもち、
家族ストレス仮説にも適合的だった。
稲葉氏の報告は、離婚や貧困から子どもへの影響を媒介するプロセスを明らかにするもので、
きわめて興味深いものであった。
ワーク・ライフ・バランスはどのように問題なのか
講師:杉野勇氏(お茶の水女子大学 文教育学部准教授)
日時:2013年3月4日(月) 15時30分〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟325B教室
[コロキアムのご案内]
【講演会報告】
ワークライフバランスにかかわる研究は、女性の就労支援や少子高齢化対策、
企業の雇用・人事、産業社会学・労働社会学とフェミニズムなどの各視点から展開されてきており、
その概念じたいが一枚岩ではない。
報告では、実証研究の成果もまじえながら諸研究を比較検討し、その問題点を指摘された。
その問題点とは第1に、家庭が仕事の阻害要因であること、あるいは仕事が家庭の阻害要因であることについて、
その原因帰属を当事者から直接に聞くことが適切かという問題である。
第2に、同様にワークライフバランスが実現しているかを聞くことが適切かという問題である。
第3に、政策的な推進(公的なクレイミング)が特定層の要望に応じることになっている可能性である。
第4に、そもそもワークライフバランスが実現しているという判断が、どのように形成されるかという問題である。
これらは、ワークライフバランス研究にたいする刺激的な指摘だった。
生物学の哲学の諸問題
講師:田中泉吏(慶應義塾大学非常勤講師),森元良太(慶應義塾大学非常勤講師)
日時:2013年2月4日(月) 13時30分〜19時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 研究室棟地下1階第1会議室(B126)
【講演会詳細】
近年の生物学の哲学で活発に議論されている問題について、博士論文が受理された田中泉吏君、
博士論文の提出を予定している森元良太君の2名から、それぞれ下記のようなタイトルで講演していただきます。
科学哲学に関心をもつ学生、院生諸君にはぜひ出席して、進化生物学を巡る最近の動向を知り、
議論に参加してほしいと思います。
田中泉吏「利他性の進化と選択のレベル」13時30分〜
森元良太「進化生物学における確率概念」16時30分〜
障害者とセックス〜ヨーロッパ視察報告
講師:熊篠 慶彦氏(NPOノアール理事長)
日時:2013年1月11日(金) 16時15分〜17時45分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎437番教室
【講演会報告】
熊篠氏の今までの活動来歴からはじまり、NPOの立ち上げ、その活動の紹介が行われ、
その上で、ヨーロッパの事情が話された。
参加者の積極的な質疑のなかで、従来、私たちが囚われがちな、障害者観、
ヨーロッパ事情などが問題化され、非常に有意義な講演会であった。
近現代ハワイ日系宗教の布教者における東アジア経験
講師:高橋 典史氏(東洋大学社会学部准教授)
日時:2012年12月18日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
ハワイでの日系宗教、特に天理教の発展史を主軸にすえて、近現 代におけるヒトと宗教の
移動のダイナミズムの一端が、同郷者ネットワークと東アジア体験の 観点から明らかにされた。
戦前の日系宗教の諸集団が着手していた朝鮮や満州などの東アジア における布教の体験が生かされて、
戦後には独自の発展をハワイで遂げた過程が考察された。
また、ハワイの日系新宗教教団における布教者の個人史の考察も取り込んでいて、
社会変化に 基づく人生の変転を巧みに描き出す試みが興味深かった。
「パフォーマンスアートの現代」ワークショップ
講師:霜田 誠二氏(アーティスト)
日時:2012年12月14日(金) 16時15分〜17時45分
場所:三田の家
【講演会報告】
多くの参加者が、パフォーマンスアートについて初心者であるにもかかわらず、
最後には夜の三田の街に出て、ひとりひとりがパーフォーマンスを行うという結果になった。
懇親会を途中に挟んで、ほぼ二部構成で行われたが、25名ほどは最後まで参加してくれた。
ライフストーリーの知と生の社会学
講師:小倉 康嗣氏(慶應義塾大学他 非常勤講師)
日時:2012年12月7日(金)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟324番教室
[講演者からのメッセージ]
2000年代以降、「ライフストーリー」という言葉は、方法論的には一定程度定着してきた感がある。
だが、それが結局、どんな知をもたらし、人間と社会にどんな働きかけをするのか、ということについては、
意外に明確な議論がなされていない。
本講演では、この問題を考えたいと思う。私自身は、この問題への応答は「生の社会学」に行き着くのではないかと考えており、
その人間的・社会的・学問的意味・意義について、議論できればと思う。
当日は、ライフストーリー・インタビューの実際上の問題などについても、
参加者のみなさまと対話しながら、上記問題について考えたいと思っています。
【講演会報告】
表題について、小倉氏の最近の諸論文が資料配布され、それらに触れながら、非常に刺激的な報告がなされた。
とくに、対話型報告とでもいうべき雰囲気を作り出して、参加の院生を議論に引き込んでゆく手腕は素晴らしく、
講演後の昼食懇親会には、学外を含め総勢13名が参加し、活発な質疑が続いた。
映画『隣る人』上映と講演会
講師:刀川 和也氏(監督)/菅原 哲男氏(児童養護施設理事長)
日時:2012年11月16日(金)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎517番教室
【講演会報告】
「隣る人」上映後、引き続き、刀川氏と菅原氏の講演。そして質疑応答があった。
映画とともに、お二人の講演がたいへん衝撃的・感動的であった。活発な質問が学生/
大学院生/卒業生/教員などからあり、それぞれに講演者から丁寧な応答がなされた。
質問をしたからこそ聞けた貴重なお話が多かった。
懇親会にも15名ほど参加し、より身近に情報交換/意見交換ができたことは、
よい機会だった。参加者からは、非常によかったという感想が多く寄せられている。
自己を問う・自己の研究を問う、という機会でもあった。
伝統的商慣行と『老舗』の近代―千葉県香取市佐原の商家を事例に―
講師:塚原 伸治氏氏(日本学術振興会特別研究員PD/東京大学東洋文化研究所)
日時:2012年11月13日(火) 18時15分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525番教室
【講演会報告】
千葉県佐原市で夏と秋の二回行われる都市祭礼の参与観察を通じて、人々のネットワークが
どのように形成されるかを論じ、いわゆる「伝統」が如何にして維持・創造されるかを検討した。
特に、祭礼に関して寄付の金額を書いたビラを山車に掲げる慣行に注目して、祝祭的な場での
人間関係が社会・経済・文化を融合して行なわれる状況を考察した。
現在、鈴木正崇研究室が推進している成田山門前町の調査と比較することで、
双方の差異が明確になり、今後の研究への大きな刺激となった。
ゲーミングから見るリスク・コミュニケーション
講師:中村 美枝子氏(流通経済大学社会学部教授)
日時:2012年11月2日(金) 14時45分〜18時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎453番教室
【講演会報告】
講師・中村美枝子氏は、集団意思決定、合意形成、ゲーミング・シミュレーションなどを専門とされている。
本講演会では、ゲーミング(複数のプレーヤが知的ゲームを通じて相互に作用する場)を通して、
参加者にリスク・コミュニケーションについて考える機会を提供していただいた。
具体的には、参加者に3つのゲームに参加してもらい、その後、振り返り用紙に回答し、
討議するという形で進められた。ゲームは、8人グループで30分間にひらがなを一人1文字ずつ、
他メンバーとコミュニケーションを取らずに80文字の作文を書いていく「合同作文」、円陣を組み、
隣り合った二人を出発点にして逆方向に情報を流し、途中から情報が錯綜する「アオとアカ」、
異なる情報を与えられたメンバーが情報を取捨選択しながら問題点を明らかにし、
ある施設で生じた食中毒の原因食物を特定する「わいわいホーム食中毒事件」であった。
いずれのゲームにおいても参加者は楽しみながらも、コミュニケーションや問題解決に関連する種々の問題点
(人による言葉の解釈の違い、問題点の構造の把握、適材適所、ステレオタイプに囚われない柔軟な思考など)
について考えさせられたようである。
続く懇親会においても活発な意見交換がなされ、有意義な時間をもつことができた。
リスクコミュニケーションにおける確率や共変性の伝達可能性
講師:広田 すみれ氏(東京都市大学環境情報学部教授)
日時:2012年10月27日(土) 15時〜16時30分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎461番教室
【講演会報告】
広田すみれ氏の講演は、リスクコミュニケーション研究のなかでも特に確率の問題を取り上げ、
不確実性伝達ツールとしての確率をいかにして適切に伝えるかという問題意識について豊富な例を交えつつ詳しく説明された。
さらに、確率における尺度の効果、確率解釈と確率認知、ニューメラシーについて、実証研究の結果を用いてまとめられた。
充実した内容のご講演を反映し、熱心な議論が行われた。
内モンゴルにおけるシャマニズムと民間医療
講師:サイジラホ氏(Saijirahu Buyancugla 日本学術振興会外国人特別研究員)
日時:2012年10月9日(水) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
サイジラホ氏は、医療人類学の観点からシャマニズムと民間医療の研究状況を概観し、
フルンボイルとオルチンの二つの地域でのフィールドワークに基づく考察を行った。
モンゴル医学に関しても造詣が深く、シャマニズムとの関連性について広い視野から討議がなされた。
社会主義の体制のもとで、今後シャマニズムや民間医療がどのように変化していくのかについて広い視野からの知見が得られた。
中国朝鮮族、インドネシア人、中国モンゴル族2人の外国人計4人の参加があり、国際的な学術交流の場となった。
講演:「身体表現ワークショップ〜Somatics & Laban」
講師:橋本 有子氏(ダンスムーブメントアーティスト)
日時:2012年8月9日(木) 11時〜16時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス(教室未定)
【講演会報告】
橋本有子さんによる簡単な説明の後、参加者がそれぞれ自分の体と向き合うことで
ワークショップは進められた。ラバンの基本的な思想に基づいて、身体の六つのパタン、
それから効果として四つの要素、これらが身体実践によって分かりやすく説明されました。
それからチームになっての作品作りも楽しみました。
懇親会代わりの昼食をはさみ4時間は瞬く間にすぎました。
シンポジウム:「真理の形而上学―Truthmaker概念を中心として」
講師:小山 虎氏(大阪大学),飯田 隆氏(日本大学),加地 大介氏(埼玉大学)
日時:2012年7月28日(土) 10時〜13時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎452番教室
【講演会報告】
単に講師の間ばかりではなく、会場とも活発な議論が交わされた。
また、多くの方が懇親会にも参加され、引き続きあちこちで活発な意見交換がなされた。
シンポジウム:「ユダヤ・ディアスポラの継承と現象学の発展―フッサール、ハイデガー、レヴィナス、アーレント」
講師:池田 喬氏(明治大学),合田 正人氏(明治大学),田口 茂氏(北海道大学)
日時:2012年7月25日(水) 14時〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎453番教室
【講演会報告】
他大学の研究者も多く来場され、活発な討議の場となった。
また、懇親会は、今回のシンポジウムで初めて顔を合わせた方々の間での貴重な意見交換の場ともなった。
講演:「沖縄の家族規範をめぐる「伝統の創造」の諸相と現代的変容の一側面」
講師:犬塚協太氏(静岡県立大学教授)
日時:2012年7月25日(水) 18時10分〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟342番教室
【講演会報告】
犬塚氏の講演は、沖縄の家族規範の多様性とその変容の錯綜について、
沖縄各地のフィールドワークに基づき、沖縄郷土史家を中心とする先行研究と付き合わせて、
展開された。
90分の講演が短く感じられるほどであり、熱心な議論が続いた。
懇親会では、院生の関心にも応えていただき、戸田貞三の知られざる資料への言及や再評価など、
おおいに座を魅了するものであった。
講演:「宗教ツーリズムの中の共同可能性―ヨーロッパのキリスト教巡礼の事例」
講師:岡本亮輔氏(慶應義塾大学文学部非常勤講師)
日時:2012年7月18日(水) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
講演:「デジタル時代における新聞報道のあり方」
講師:高橋美佐子氏(朝日新聞社)
日時:2012年7月10日(火) 16時15分〜17時45分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎457番教室
【講演会報告】
講師の高橋美佐子さんは、約20年にわたる新聞記者の生活をベースに、自分の活動を振り返りつつ、
特に、家族のガン闘病を契機にした社会へのまなざしの変化についてお話いただきました。
学生からの質疑も活発で、とくに、高橋さんが今の学生たちのおかれた状況をふまえつつ、
話を進めたことが良かったようです。
講演「海を介した生活文化―三陸沿岸から見えた世界」
講師:川島 秀一氏(神奈川大学特任教授)
日時:2012年6月26日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎525B教室
【講演会報告】
講演は三陸沿岸の気仙沼に生まれ育った講師の体験をもとに、特的地域に止まらず、広く漁撈習俗を見ていくことが大事だという示唆に富む見解が示された。
具体的には、カツオ船に乗り組む漁師たちの船上での習俗や儀礼には、かつての北前船で行われていたものとの共通点を指摘し、
乗組員や「湊町」を介する生活文化の特色や文化伝播の様相を明らかにした。
講演 "Somaesthetics and Contemporary Art"
講師:Richard Shusterman(Florida Atlantic University)
日時:2012年6月21日(木) 16時30分〜18時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟313番教室
講演「身体の社会学/社会学の身体(2) パフォーマンスの身体」
講師:霜田 誠二氏(パフォーマンスアート)
日時:2012年5月22日(火) 14時〜16時
場所:三田の家(港区芝5-23-2)
【講演会報告】
まずは、週末のワークショップについて。18日はキャンパス中庭で、19日は三田の家で、
パフォーマンスアートに関する講義と実習が行われました。
18日は学部通学生が12名、19日は通信生が8名、および外部から10名ほどの参加者がありました。
パフォーマンスアートという表現の実習やビデオ鑑賞、そして自分の作品の発表会が行われ、
特に発表会には数人のパフォーマンスアーティストも加わり、かなり密度の濃い、一連の講演会になりました。
講演会
横井孝志(産業技術総合研究所)「人間工学分野における研究倫理指針」
松井孝雄(中部大学)「心理学学部教育へのコースクレジット制度の導入と評価」
奈良雅俊(慶應義塾大学)「研究倫理から見た実験心理学の展望」
日時:2012年5月19日(土)14時〜17時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎524教室
講演「身体の社会学/社会学の身体(1) 演技する身体」
講師:望月 六郎氏(劇団演出家)
日時:2012年5月15日(火) 14時〜16時
場所:三田の家(港区芝5-23-2)
【講演会報告】
三田の家に30人近くが集い、望月六郎さん、および彼の劇団の女優三名がゲスト講師として招かれました。
望月さんの新作 I am Hamの脚本を土台にした演技練習などが披露され、また映像作家として、
様々な社会的場面で取材活動を経験してきた彼の話は多くの学生にとって興味深く、熱心な質疑もなされた。
懇親会は三田の家で簡単に行われました。
講演「シャマンと守護霊と人々のコミュニケーション−内モンゴル・ホルチン地方の事例から−」
講師:サランゴワ(薩仁高娃)(慶應義塾大学準訪問研究員)
日時:2012年5月8日(火) 18時15分〜
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎523-B教室
【講演会報告】
シャーマニズム研究の課題を述べ、内モンゴルの概要を呈示した後に、ホルチン地方で増殖するシャーマンの実態状況を検討した。
シャーマニズムに関して社会・経済・政治・社会などとの緊密な関係性を明らかにした。
講演「擬制的親族関係と家族の多様性」
講師:森 謙二氏(茨城キリスト教大学教授)
日時:2012年5月2日(水) 18時10分〜20時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎141番教室
【講演会報告】
森謙二氏の豊富なフィールドワークの経験、および広範な先行研究の渉猟を踏まえた講演は、
参加者をおおいに魅了するものだった。参加した教員/大学院生全員が質問・コメントし、
活発な議論が展開された。
引き続く懇親会においては、フィールドワークの興味深いエピソードを挟みながら議論が弾んだ。
この機会が、大学院生たちと森先生との研究ネットワークの誕生となり得たことも大きな成果である。
講演 "Rationality and Moral Realism"
講師:Nick Zangwill教授(Durham大学)
日時:2012年4月25日(水) 17時15分〜19時
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館4階セミナー室
4月26日(土) 9時〜18時
4月27日(日) 9時〜18時
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[講演会の詳細]
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